関東は濃いめ、関西は淡め、九州は甘め…ではほかの地域は?日本各地で違う「しょうゆ文化」の謎に迫る
東京ウォーカー(全国版)
この時期、お寿司やおせちなどを食べる際にも絶対不可欠な調味料・しょうゆ。「関東のしょうゆはしょっぱい」「関西のしょうゆを使った料理は色が淡い」「九州のしょうゆは甘い」などとよく言われているが、これだけにとどまらず、日本の各地域ごとに“好まれるしょうゆの味”は異なると言われている。
今回は、しょうゆの最大手メーカー・キッコーマン株式会社 国際食文化研究センター長の山下弘太郎さんに、日本の各地域のしょうゆ文化の違いにについて話を聞いた。「しょっつる」「しろしょうゆ」「めんみ」といった、その土地に根付いたしょうゆの名前もたくさん出てくるので、年末年始の帰省時などにぜひキッチンをチェックしてみてほしい。
しょうゆを知るうえで欠かせない3つの製法
山下さんによると、そもそものしょうゆの製造方法には以下の3つがあるという。各製造方法とも、門外漢には少々難しく感じるものだが、まずこの点を知っておかないと日本各地で好まれる「しょうゆ」の差を理解しにくいそうだ。
(1)本醸造方式(昔ながらの醸造法)
大豆と小麦でしょうゆ麹をつくり、食塩水か生揚げしょうゆを加えて諸味にし、発酵・熟成させるもの。生産量全体の約9割を占める基本的な製法で、アミノ酸液等を使用しない点でほかの2つの製法と区別されている。発酵熟成による深いうまみと芳醇な香りが特徴。
(2)混合醸造方式(諸味にアミノ酸液などを加え短時間で作る方法)
本醸造の諸味にアミノ酸液等を加え、速成的に発酵・熟成させてつくる製法。
(3)混合方式(生揚げしょうゆにアミノ酸液などを加えて作る方法)
生揚げしょうゆにアミノ酸液等を混ぜてつくる製法。砂糖類や甘味料などを加えることでうまみとのバランスをとったり、消費者の好みに合わせた味のしょうゆにアレンジされることもある。混合方式は、戦時中の原料難の時期に、しょうゆの生産量を確保するためアミノ酸液が使われたことに由来する。戦後に原料事情が回復すると、混合方式を止めて本醸造方式の製造に戻ったメーカーがある一方で、混合方式を続けるメーカーも多く、地域で違いがある。アミノ酸液特有の強いうまみと、特有の香りが特徴。
これら3つの製造方法を理解したうえで、山下さんの解説のもと、次に各地域のしょうゆの味の違いに迫る。
【北海道】「本醸造方式」のしょうゆに加え、簡便調味料が主流
北海道では、本醸造方式のこいくちしょうゆに加え、濃縮つゆや昆布しょうゆなどが使われることが多い。
開拓による農地づくりの作業を夫婦で行うことが多かったことから、調理に時間をかけず、簡便で手軽な調味料が受け入れられるようにとなったと考えられている。しょうゆに特産品である昆布のだしを使った、「昆布しょうゆ」も道内に広く定着。
【東北】沿岸部は、内陸部より甘めのしょうゆが好まれている
東北地方では、あまくちの本醸造しょうゆや、やや甘い混合方式のこいくちしょうゆに加え、濃縮つゆやだししょうゆが主に使われている。
甘味料を添加するものの塩角を取る程度で、九州のしょうゆほど甘くない一方、岩手県や宮城県の沿岸部では漁師の嗜好に影響を受け、内陸部より甘味の強いしょうゆが好まれている。使い勝手の良さと簡便性から、「つゆ」や「だししょうゆ」がしょうゆ代わりに日常的に使われる傾向だ。
また、東北では「混合しょうゆ」が多くつくられ、秋田県ではハタハタやイワシを使った魚醬「しょっつる」などもある。
【関東】魚の臭みを和らげるこいくちしょうゆが定着
関東地方では、主に甘味料を加えていない本醸造方式のこいくちしょうゆが主流。海に面した江戸で、魚の臭みを和らげる効果のあるこいくちしょうゆが広まり、関東一円に生産地が形成されたと言われている。
本醸造のこいくちしょうゆの生産がほとんどで、主な生産地は千葉県の野田市、銚子市。甘味料を添加しない、すっきりした味わいが特徴。
【北陸】九州と並ぶ「甘い混合しょうゆ」の産地として知られる
北陸地方では、主にあまくちの本醸造しょうゆや、甘い混合方式のこいくちしょうゆが使われている。諸説あるが、北洋漁業の漁師の嗜好に影響を受け、甘味の強いしょうゆが好まれるようになったそうだ。
九州と並び、甘い混合しょうゆの産地として知られるほか、石川県ではイカの内臓やイワシを使った魚醬「いしる」がつくられている。
【中部】たまりしょうゆ、しろしょうゆ発祥の地
中部地方では、本醸造方式のこいくちしょうゆが多く使われている。また、「たまりしょうゆ」と「しろしょうゆ」の発祥地でもある。
愛知県、岐阜県、三重県を中心とする地方では、こいくちしょうゆのほかに豆みその製造過程で生まれた色の濃いたまりしょうゆと、小麦を主原料とする色の淡いしろしょうゆがつくられている。濃い色のたまりしょうゆ製造のバックボーンがあったからこそ、淡い色のしろしょうゆが“素材の色を生かす術”として広まったんだとか。
たまりしょうゆは「ひつまぶし」のたれや、「きしめん」「伊勢うどん」のつゆなどの郷土料理に。しろしょうゆは「吸い物」「茶碗蒸し」など、素材の色を生かしながらしょうゆで味つけする料理で多用されている。
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