泳ぐ魚を肴に日本酒を楽しむ。仙台うみの杜水族館が大人向けイベントに力を入れる理由とは
東京ウォーカー(全国版)
SNSの力を借りて開催した「おひとりさまナイト水族館」
仙台うみの杜水族館はナイトイベントに力を入れており、2022年には季節やテーマに合わせて10種類ほどのナイトイベントが開催された。そもそもどうしてナイトイベントをスタートすることになったのだろうか?
「首都圏の水族館だと21時まで営業していることもありますが、当館は9時から17時30分が基本的な営業時間になっています。ナイトイベントは、通常営業が終わったあとの時間を活用できるということがあります。一番初めに開催したナイトイベントは2016年7月、開館一周年を記念したイベントのひとつとして実施しました。『ナイトモクテリウム』と題して、当時流行していたノンアルコールカクテルの“モクテル”を提供し、幻想的な照明演出のなか、お客さまに見学していただくというものでした。地方の水族館なので、夜の需要はそんなに高くないのでは?という予想もあったのですが、それに反して一夜で約700名と大きな集客を得たので、いろいろとチャレンジしていこうということになりました」
「日本酒ナイト水族館」が生まれたきっかけは館長にあるようだが、イベントの企画テーマはどういった人たちが考えているのだろうか。
「イベントを作り上げるときは、営業、販促、広報、宣伝といった運営に関わるスタッフが主体になっている場合と、飼育に関わるスタッフと一緒に作り上げている場合があります。『日本酒ナイト水族館』は運営スタッフが中心となっているイベントです。過去、ホタルのナイトイベントや、深海魚の生態が学べるナイトイベントを開催したことがあるんですが、こうした生き物がメインとなったイベントは運営スタッフ、飼育スタッフの双方が協力して作り上げていますね。お客さまに生き物をどういうふうに知ってもらいたいか、どう見てもらいたいかというビジョンを一番持っているのは担当飼育スタッフですから、飼育スタッフの力も得て、普段の展示とは違った見せ方で生き物を身近に感じてもらうため、ナイトイベントを活用しています」


仙台うみの杜水族館は株式会社横浜八景島が運営する民間水族館だ。株式会社横浜八景島は「横浜・八景島シーパラダイス」「マクセル アクアパーク品川」といった首都圏の水族館にも携わっている。ユニークなイベントは運営会社である横浜八景島によるアイデアなのだろうか?
「それぞれの水族館ごとに企画を立案・実施しています。当館はナイトイベントの成功事例が多いので、ほかのグループ施設が当館のナイトイベントを参考にしていることもありますね。ほかにも、アナゴの狭いところを好む習性を生かし、節分の時期に恵方巻きを模した筒を水槽に沈めてアナゴを展示する『アナゴの恵方巻水槽』というのを2020年からやっているのですが、当館での評判がよかったことから、横浜・八景島シーパラダイスでも実施されるようになりました。こうした事業所間のつながりがあるのは、グループのよさなのかもしれません」

仙台うみの杜水族館ではナイトイベントの実績が多いとのことだが、「日本酒ナイト水族館」と合わせてもうひとつ人気のナイトイベントがある。“おひとりさま”にスポットを当てた「おひとりさまナイト水族館」だ。「おひとりさま十則」というものを設定し、知人と来館しても館内ではひとりで行動することや、指定場所以外での私語を控えることを求め、スタッフもあいさつのみで案内はしないというもの。生き物や水族館そのものをじっくりと楽しめるイベントになっている。


「通常営業時はカップルやファミリーが多くて、ひとりで水族館を訪れるのはハードルが高いと感じている人も、最初から“おひとりさま向け”とすることで気軽に参加できるようになっています。ひとりなことで、集中して楽しめた、いい空間だと感じられたというお声もたくさんいただいています。ナイト営業のメリットは、通常の営業時間とは完全に違ったコンセプトで運営でき、ターゲットの満足度を向上できることにあります。『おひとりさまナイト水族館』にせよ『日本酒ナイト水族館』にせよターゲットとした方がイベントのファンとなってくださり、イベントのリピーターになってもらえるというメリットもあります」
「おひとりさまナイト水族館」は2023年4月開催で12回目を迎えたが、企画当初は運営上層部からの理解を得るのに時間がかかったのだそう。
「当時はおひとりさま需要というのが広く周知されていなかったので、『本当に集客ができるのか?』という意見があり、企画を立てるのに時間がかかりました。そこで当館の公式Twitterでおひとりさま向けの企画の是非をアンケートで取ったところ、94%の人が『あり』と答えたことで、世論を味方につけて実行にいたりました」
また、ナイトイベントにおいては来場者の満足度を高めるために、“ちょうどいい人数”というのを大事にしているんだとか。
「例えば『おひとりさまナイト水族館』は来場者数が多すぎると満足度が下がってしまうので、開催日数を増やすことで来場者数を分散させるようにしています。年間パスポートをお持ちの方を対象にしたナイトイベントですと、かなり多くの方が毎年いらっしゃるので、整理券制にして、イベントにとってちょうどいい空間を作れるように調整しています」
来場者数をどんどん増やせば利益は上がるかもしれないが、満足度が下がればイベントのファンになってもらうのは難しくなってしまう。ターゲットの求めるものがなんなのかを見極めることがいかに大事かがわかる。
ユニークなイベントが多い仙台うみの杜水族館だが、悪ノリにはならないように「生き物の安全第一」で取り組んでいるとのこと。
「より多くの人の意見を取り入れながら、当館らしいキャラクターを作りつつ、誰にでも愛してもらえるようなイベントを今後も作り上げていきたい」と話す。板橋さんによれば「通常営業時間と夜とでは生き物の姿にも違いがあるので、そこも夜の水族館ならではの楽しみ方ですね」とのこと。仙台うみの杜水族館のイベントが今後どのように展開されていくのか注目だ。
この記事のひときわ
#やくにたつ
・メインターゲットではない層に訴えかけることで、新たな商機を得られる
・ターゲットの住み分けをすることで、それぞれの満足度を上げられる
・目先の利益を追求するのではなく、ファンになってもらうことでリピーターを獲得
取材・文=西連寺くらら
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