下積みや修行は「バカほどやるべき」、“強い”を演じきる『有楽町かきだ』大将に学ぶ時代の勝ち方

東京ウォーカー(全国版)

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会社員と社長、そして寿司屋の大将を経験したことで得た、働き方とマインド

ーー蛎田さんの仕事観について教えてください。サラリーマン時代の経験が生かされていることや、当時の失敗から身についたことはありますか?
【蛎田一博】サラリーマン時代は、成績のよくない同僚がよくシゴキを受けたり、理不尽に怒られたりしていましたね。今の20代は、そういうことを経験しない社会だと思いますが、僕はそういう時代の人です(苦笑)。当時、そういう同僚の姿を見て、結果を出さなければ、頑張ってもダメなんだと気づかされたんです。寿司屋にも同じことが言えて、やりたいと思っていても不器用で向いてない人もいるんです。寿司屋は多少は手先が器用じゃないと無理。もし手先が不器用なら、少なくとも握ることは諦めないと。そこに努力する意味があまりない気がするので、僕だったら違う関わり方を考えますね。

「社会人1年目の仕事は二度としたくない」と語る蛎田さん【撮影=樋口涼】


【蛎田一博】サラリーマンをやっていた当時は本当に理不尽なことが多くて、業務終了後、上司に“断れない飲み会”に連れて行かれたりもしました。でも、あの状況のなかから、物事の対処方法や社会の中での生き方を学べたので、勉強になったことも多かったと思うんです。今の世の中では同じことはできませんが、あれを経験できない現代の社会人は「ちょっとかわいそう」と思ったりもします。今の時代に逆行しますが、僕は「ハードワークはするべき」だと考えています。

【蛎田一博】今の時代は、業務終了後に携帯電話の電源を切ったり、土日にPCを開けなかったり、コンプライアンスだなんだと、いろいろ規制がありますよね。でも、ひと昔前にはそれができていたんです。今だって、本当にやりたい人は勉強できることがいっぱいあるはずです。だから、ただ社会の風潮に流されている日本人は「本当にどうなっちゃうんだろう?」って心配になります。

【蛎田一博】働きすぎて体調を崩したり、心を病んでしまうのは、もちろんよくないです。それは大前提として、やっぱり働いた分、30代や40代で花開く人は増えるはずなんですよ。だって、官僚や医師は昼夜問わず働いているじゃないですか。世間で賢いとされている人たちがそうやって生きているのに、普通の人はしっかり休むことだけを大切にしている。仕事ができる人は変わらずいるけど、全体のレベルというか、中間層がスパッと抜け落ちるので、そこがよくないなと危惧しています。志のある、何かをやり遂げたい人まで制限してしまう、この今の雰囲気は打破したいですね。

ーー個々の優秀さは別として、時間や体力を自由に使えた時代と比べると、得られる経験という面でのビハインドも生まれてしまいますね。
【蛎田一博】そうですね、一部の天才は別だと思います。僕の場合、毎朝7時に市場に行って、会社経営をして、講演会やメディアの取材、テレビ収録もあるので、休みなんてないんです。会社を作ってからはやらざるを得ない。でも、これを7年続けてきたことで、ようやく“仕上がってきた”と感じています。

【蛎田一博】あのままサラリーマンを10年続けていたら、そこそこいいポジションにいたはずですが、理想とは程遠かったと思います。本当は総合商社に勤めたかったんですが、採用試験に全部落ちました。だから、そこをベンチマークにしていて、総合商社で働いている33歳の自分と今の自分を比較して、それを超えていればいいんです。なぜ、総合商社に入りたかったのか?と考えてみると、みんなから「すごい!」って言われたかっただけなんですね(笑)。今の自分のほうが「すごい」と自信を持って言えます。なぜなら、商社で10年働いている自分を超えているはずだからです。

最終的な目的が一緒なら、ひとつのことにこだわる必要性はないという蛎田さん。商社で働いていた場合の自分を超えていればOKだそう【撮影=樋口涼】


ーー経営者と寿司屋の大将という二足のわらじ、一日の過ごし方を教えてもらえますか?
【蛎田一博】寿司を握る日は市場に朝7時に行って、9時とか10時くらいに戻ってきます。そこから自分の会社の採用説明会をやったり、面接をやったり、僕じゃないとできない銀行対応など、会社経営の仕事をひととおりやります。そして業務終了後、夕方から店に出て寿司を握るって感じです。休みは特にないんですよ。

ーーまさに有言実行、超ハードワークですね。切り替えは大変じゃないのですか?
【蛎田一博】そこがポイントで、僕はただ演じているだけなんですよ。最初から、「切り替えよう」と思っていないんです。割烹着を着た瞬間から寿司屋の大将を演じればいいだけです。新卒採用の説明会のときは人材会社の社長として説明会をする。そういう社長を演じるだけです。切り替えたりするとわけがわからなくなるので、僕はいつも演者なんです。

ーーこの時間はこの役割を演じる、そういうイメージですか?
【蛎田一博】そうです。だから、本当の自分だとか、やりたいこととか考えていません。それを考え出すと、やりたくないことをやらなくなったら終わってしまうから。例えば、朝起きて「市場に行きたくない」って思って行かなくなったら、いい魚が仕入れられなくなりますよね。そこが多くの人と違うんじゃないかと思います。もちろん、「寿司屋をやりたくてやったんでしょ?」って言われます。確かにそうなんですけど、本当はもうやめたいんです。正直、引くに引けなくなっただけです(笑)。

引くに引けないほど人気店となった『有楽町かきだ』。「もったいないからやっちゃえ!」という感じなんだとか【撮影=樋口涼】


ーー確かに、引くに引けない状況ですね(笑)。
【蛎田一博】やめるのはもったいないなと思うし、やっちゃえという感じになってますけど、ただ生きるためだけだったらマジで必要ない。本当にそうなんですよ。ただ、僕は寿司屋をやって、世界展開をして、マグロ王になるって決めているから、それを演じているだけなんです。僕の思う、マグロ王を目指す人を演じています。

――そういう意味での「演じる」って大切ですね。
【蛎田一博】仕事の愚痴を言っている人とか、SNSでクソリプする人って、本当はそういう自分になりたくないはずですよね。そういうとき、なりたい自分を演じていれば楽なんですよ。演じた自分自身の行動が正しければ、本来の僕がどうだったかなんてどうでもいいじゃないですか。

ーー「こうありたい」という自分だけがあればいいと。
【蛎田一博】理論上は、すぐできるはずなんです。自分がそうありたいと思えば、できるはずなんですよ。でも、ほとんどの人はこれができない。きっと、自分の欲望とかが入っちゃうんでしょうね。

ーー今の時代の下積みや修行の在り方について、蛎田さんの考えを教えください。
【蛎田一博】バカほどやるべきです。あっ、口が悪かったですね(笑)、でも本心です。そこらのペーペーがYouTubeを見て握ってみた寿司屋に行きたいと思う人はいないですよね。心が動かないじゃないですか。僕の場合、いろいろなバックボーンがあって、今こういう話題性もあるから、きっと、みなさん僕と話してみたいと思うわけですよ。もし僕が、“大学卒業してYouTubeを見て寿司を握り始めました”みたいな人だったら、さすがにこうはなってないんじゃないですかね。

【蛎田一博】だから、下積みは必須です。ただ、在り方とか期間に関しては多様性が必要な時代になっていると思います。師匠の時代の下積みをそのまま自分に当てはめるというのは、今の時代には合わないんですよね。そこが変わってきていることを履き違えてしまう人が出てくるのは避けたいなと思います。僕のTwitterへのコメントを見ても「ほら見ろ。誰でもできるんだ」っていう人はいないです。

「下積みは必須でも、その在り方や期間は、多様性が必要な時代になっている」と自身の考えを語る蛎田さん【撮影=樋口涼】


――蛎田自身は、お店ではどのように教えているんですか?
【蛎田一博】お客さんの前で握るために、1貫あたり何秒で握らないといけないかはだいたい決まっていますよね。そのスピードで握れないのなら立つなと言うし、お客さんから話しかけられて手が止まってしまうんだったら立つなって話なんです。やろうとすればできるようになるし、やらなければ永遠にできない。「初日だから握れなくてもしょうがない」と考えている人は、1カ月経ってもできるようにはならないんです。

【蛎田一博】教え方は、今の時代に合わせて優しく教えればいい。会社が「ハードワークをしろ」と言うのはおかしいけど、下積みする側はそれに気がつかないとダメですね。もちろん、気づいている人はいるんですよ。ただ、昔より減っていますね。

ーー蛎田さんのTwitterでは、よく“強い”というフレーズが登場します。“強い”にこだわる理由、“強い”を発信する理由はなぜですか?
【蛎田一博】「僕と言えば何なのか?」、このキーワードを考えなければという戦略的な部分があります。よくわからないおっさんが、会社経営者と寿司屋の大将をしているわけじゃないですか。大谷翔平選手の“二刀流”みたいに、何かひとつキーワードが欲しいなと思っていました。それで自分の理想とするものを掲げようと考えた結果、“強い”だったので、その“強い”を演じているんです。実際、本当に強い部分も多いんですよ(笑)。例えば、筋トレを始めて7カ月でBIG3(ベンチプレス、デッドリフト、スクワット)、500kgを達成したり。ただ、物理的にそういう部分もあるんですけど、弱い部分も多い。だから「強い」と言って、自分を強く見せるように演じる自己暗示でもあるんです。

【蛎田一博】人の悪口をSNSで言いたいこと、ありますよね。例えば、辞めていった社員に「いや、それおかしいだろ?」って書き込みがちだけど、それは強い人がやることじゃない。僕が設定している“強い”は、それやらないことでもあるんです。

自身の現在の代名詞となっている“強い”という言葉は、自己暗示にもなっているそう【撮影=樋口涼】


ーー“強い”という暗示ワードのように、キャラ設定や自分なりの戦い方を見つけるには、どんな視点が必要だと思いますか?
【蛎田一博】数を打つことです。僕の“強い”がすごくうまくハマったので、みなさん、僕がもともと強さを持ち合わせていた人間だと考える。でも、今まで全然うまくいっていなかったですから。数を打って、たまたまハマっただけです。僕も10年かかっていますから。社会人3年目までは営業職では結果を残していましたが、無名でした。会社を作って7年間、それなりにいい生活をさせてもらっていましたが、無名でした。たまたま、ふざけて寿司屋を始めたらこうなった。そんなの誰も予想しないですよね。

【蛎田一博】僕のTwitterの日課である「#朝定エージェント」だって、さかのぼって見てもらえばわかるんですけど、最初のころは「5いいね」とかですよ。その時点でコケていて、1年経っても「8いいね」とか、完全にコケているんですよ(苦笑)。ただ、ずっと継続したから、結果として強くなれたんです。もし途中でやめていたら「#朝定エージェント」はもうなかったし、寿司屋の大将にもなっていなかった。いろいろやったなかで、たまたま当たったものが残っているだけです。逆に言えば、「どうやればいいんだろう?」と考えて、実際には何もやっていない人がほとんどだから、何も生まれていないわけです。何かをやっていれば、どっかでハマるかもしれない。まずは数を打って始めてみること、それが大切だと思います。

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