「せんべいの価値を上げる」。事業存続の危機を乗り越え、老舗が作る「自由な和菓子」
東京ウォーカー(全国版)
客のニーズに応えるだけが正しいこと?
イベント開催中は「本和菓衆」のメンバーが同じ売り場で接客をする。経営の姿勢や、商品に対する想いなどに触れられ、とても刺激になるのだという。田中さんには心に残っている出来事がある。
羊羹(ようかん)を買いに来た女性が「こんなに大きい羊羹は、ひとりで食べられない。小さいサイズのものを売りなさいよ」と言った。すると「本和菓衆」のひとりが、「これはひとりで食べるものじゃないんです。みんなで食べて、楽しんでもらうためのものです」と返す。「友達なんかいない」と引き下がらない女性に、携帯を出して友達を探すように促した。
女性はその場で「一緒に食べてくれないか」と電話をかけて、大きな羊羹を買って帰った。数日後、その女性が「数年ぶりに友達に会うことができた」とお礼を言いに来たという。

「僕らが物を売ることで、誰かの人生が変わる瞬間を見ることができました。羊羹を小さくすれば、確かにお客様のニーズには応えられます。でも、お客様のニーズに応えることだけが正しいことなのでしょうか。お菓子は“触媒”で、誰かと一緒に食べて『おいしいね』と言うための道具。それが僕のやりたいことなのだと、あらためて思わせてもらいました」
2023年6月に発売した新作も、誰かとの会話を生み出すような商品だ。せんべい缶には二つ折りになった「みそ入大垣せんべい」に焼印を施し、鮎(あゆ)に見立てた「鮎せんべい」が入っている。商品名は「ARE YOU SENBEI?(アーユーセンベイ)」。おしゃれなデザインで、せんべいは軽くて日持ちもするので、手土産にも向いている。

子ども、孫の代への種まき
プレオープン中のカフェ「田の中屋」では、せんべいをベースとしたスイーツのほか、自家製味噌を使った豚汁や、自家製キャラメルを使ったテリーヌなど食事も提供している。
「味噌などせんべいの材料を、すべて自分のところで作っても、あまり評価されないんです。でも料理なら、自家製の味噌となると、すごいと思ってもらえる。カフェを作ることで、新しいアプローチができるのではないかと考えました」
田中さんは「せんべいはお菓子のなかでもランクが低くて、ギフトとして『いいもの』だとは、なかなか思ってもらえない」と話す。「そのランクを上げるために、今まですごく努力してきた。せんべいをよりいいものに変えるために、僕がひとつ種をまいて、芽が出るところまで何とか頑張って、子どもや孫がそれを引き継いで大きな木にしてくれるとうれしいですね」
この記事のひときわ
#やくにたつ
・内製化が変わらない味を守ることにつながる
・事業継続のために大切なのは「人」
・ユーザーのニーズに応えることがいつも正しいとは限らない
取材・文=伊藤めぐみ
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