マスキングテープブームの火付け役「カモ井加工紙」が創業100周年。20億円規模の市場を創り出した「程」の精神
東京ウォーカー(全国版)
文房具売り場に行くと必ずといっていいほどあるのがマスキングテープコーナー。さまざまな幅、色、柄のものが用意されており、20以上のブランドが存在する。“デコレーションするためのテープ”というイメージが強くなっているマスキングテープだが、もともとは塗料やコーキング材(建築物の目地や隙間に充填するペースト状のもの)が余分なところにつくのを防止する養生テープとして使われてきた。
マスキングテープに文房具としての役割を与えたのは、岡山県倉敷市に本社を構え、2023年で創業100周年を迎える「カモ井加工紙株式会社」だ。2008年にマスキングテープブランド「mt」を立ち上げ、マスキングテープブームの火付け役となり、発売約10年後には20億円規模の市場に成長させた。カモ井加工紙はハエ取り紙を日本で初めて作ったメーカーだ。ハエ取り紙の会社がなぜマスキングテープを作り、そして新たな市場を開拓できたのか。「mt」の立ち上げに関わった専務取締役の谷口幸生さん、取締役コンシューマー部 部長の高塚新さんに話を聞いた。

3人の女性がきっかけを与え、3人の男性が作り上げたブランド「mt」
1923年に創業したカモ井加工紙。当時は「カモ井のハイトリ紙製造所」という名前で、ハエ取り紙を作っていた。
「ハエ取り紙はドイツなどから輸入されていましたが、輸入品であることから高価で、一般の家庭では手が出なかったそうです。そこを庶民向けにということで、日本製のハエ取り紙の製造を始めました」


最初はテーブルに置いて使う平型のものだったが、その後、粘着剤をつけたテープを天井からぶら下げるリボン型のものが登場。昭和30〜50年代ころまではポピュラーなもので、台所やリビングなどで使われていた。ハエ取り紙の売り上げは好調をキープしていたが、「順調なうちに新しい商売を」ということで、“粘着剤がついたテープ”という基幹技術を用いた新しい商品の開発が進み、これが現在の主力商品であるマスキングテープにつながっていった。
「1961年に紙粘着テープを発売しましたが、これは板金塗装といって車の一部だけ破損して塗装が剥げてしまったときに使うテープとして使われてきました。また、1960年代に入ってダンボールでの梱包が普及したことから、1962年に梱包材として和紙粘着テープを発売しています。そして、超高層建築のラッシュに伴い建築現場での塗装用テープ、シーリングテープの製造にも乗り出し、建築塗装用テープは現在の主力商品となっています」
車の普及、梱包材の変化、高層建築ラッシュと時代のニーズに応えながら、自分たちの技術を生かした営みを継続してきたことで、“100年企業”という結果につながったのだろう。
そして、「mt」誕生のきっかけとなったのは2006年のこと。3人の女性たちから届いた「工場の見学をさせてほしい」というメールからだった。

「今でこそ工場見学を行っていますが、当時は一般の方が工場見学をするなんてまったく考えてもいなかったことでした。だから、メールをいただいてもすぐに結論が出せず、東京のお客さんだから東京支社で対応すべきだとか、工場見学の依頼だから本社の総務が対応すべきだというように社内でたらい回し状態になっていたんです。そしたらメールだけではなく、彼女たちの“作品”も届きました。コラージュやラッピングに工業用マスキングテープが魅力的な材料として使えることを紹介したリトルプレス(個人が作る少部数発行の冊子)で、数百冊作ったところ、即完売だったそうです。第2弾を作るにあたって、マスキングテープがどのように作られているかを紹介したいということで、工場見学を希望されていました。我々にとってはマスキングテープは建築現場や車工場などで使われる“工業用のもの”というイメージで凝り固まっていて、それをこんなふうに使うだなんて思ってもいなかったことですから、これはおもしろいとなって彼女たちの見学を受け入れることになったんです」
実は、工場見学の依頼はカモ井加工紙だけにされていたわけではなく、ほかのマスキングテープメーカーにもしていたのだそう。しかし、3人の女性たちの希望に応えたのはカモ井加工紙だけだった。そして、彼女たちの「カラーバリエーションがほしい」という要望を受け、文具用のマスキングテープ製造に向けて動いていくことになる。

「マスキングテープは、独自の設計で製造してもらったテープ用和紙を原紙メーカーから購入し、当社で粘着剤を配合して塗布することで作っています。なので、工業用マスキングテープの色は、原紙の色そのままです。彼女たちの要望であるカラーバリエーションを豊富に作りたいとなったとき、原紙の色そのものを取りそろえるとなると紙を大量に仕入れることになってコストがかかってしまいますから、白い紙に印刷をすることで解消しました。なので、印刷機は新たに用意する必要がありましたが、もともと作っていた工業用マスキングテープを『手でちぎれて、剥がしても糊が残らない』『上から文字が書ける』『透け感がいい』と彼女たちは評価してくれていたので、大々的に仕様を変えなければならないということはなく、そのため大掛かりな機械導入も必要ありませんでした。数千万円もするような機械を購入しなければならないとなったら、稟議をかけて年間売り上げはどれくらいでできるか、と考えていかなければならないですが、基本今ある技術と機械でできる。それでいて、同じ“テープ”ではあるけれどジャンルを変えられる可能性があることを彼女たちから教えてもらったので、ちょっとやってみればいいんじゃないとラフにスタートしました。営業の私と企画・広報担当として当時、総務だった高塚、そして製造部門からもう1人加えた3人で進めた小さなプロジェクトだったんです」と谷口さん。当時営業の総責任者であった谷口さん自ら、東京出張の折には手芸店や雑貨店を回って営業をかけていたのだそう。
商品そのものだけではなく、ホームページや売り場の什器もデザイン性のあふれる「mt」。デザインの重要性には最初から気づいていたのだろうか?
「mt立ち上げにあたっては3人の女性たちに協力をいただいていたというのが大きいです。彼女たちはそれぞれコラージュ作家、デザイナー、ギャラリーカフェのオーナーでデザインに対しての感度が非常に高い方々でした。mtの開発にあたっては、どんな色がほしいのか、どんな店に置いてもらったらいいのか、彼女たちの“好き”と“感性”から生まれたアドバイスを大切にしながら進めていきました。それまで作ってきた工業用マスキングテープだと“黄色”は“黄色”でしかなく、彼女たちのいう繊細な色なんて思い浮かびもしなかったですし、色へのこだわりが本当にすごくて勉強させられました」
女性たちから「こんな色が欲しい」とカラーチップをもらって、それに合わせて作ってみたものの「この色は考えられないくらい違う色、これを出すくらいならやめたほうがいい」と試作したものが全処分になったこともあったそう。外部の人からの発想でスタートしたプロジェクトなだけに、素直にアドバイスを受け入れるという姿勢は一貫していたという。
「デザインのことは全く知らないですから、彼女たちの言うことを素直に信じていました。後をついていったらおもしろいことが起きるんじゃないかと。彼女たちの意見を受け入れ、体現することが我々の仕事だと考えていましたね。ハエ取り紙から出発した当社ですが、そこから粘着テープへの事業転換があり現在にいたっています。過去の人たちが新しいジャンルを切り開いて今があるわけです。工業用マスキングテープを受け継いでいる我々が、ただ工業用のものを作っているだけで終わらせるのではなく、何か新しいことをできないかなと考えていたときに文具用マスキングテープのアイデアが出てきたのでチャレンジしていきました」
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