Mizkan「味ぽん(R)」、実は関西発だった!?食酢・ぽん酢の市場トップシェアを誇るブランドの約60年にわたる販売戦略の変遷に迫る

東京ウォーカー(全国版)

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冬の寒さが深まるなか、心身ともに温めてくれる「鍋料理」。そして、これらを一層おいしく仕上げてくれるのが調味料の存在だ。なかでも、柑橘類の爽やかな酸味と醤油のうま味が魅力の「味付けぽん酢」を使用する人は多いかもしれない。

今回取り上げるのは、そんな味付けぽん酢を一般家庭に広く浸透させた、株式会社Mizkanが製造・販売する「味ぽん」。鍋料理はもちろん、さまざまなレシピに活用できる汎用性の高さから、いまや家庭料理における必需品と言っても過言ではないロングセラー商品だ。しかし、発売当初は関西限定で販売され、関東にいたってはほとんど使用されていなかったそうだ。

そこで、株式会社Mizkan(以下、Mizkan)マーケティング本部マーケティング企画1部調味料2課 課長の小又美智さんに、味ぽんの誕生秘話や販売戦略の変遷などについて話を聞いてみた。

今回取材に応じてくれたのは、株式会社Mizkan(以下、Mizkan)マーケティング本部マーケティング企画1部調味料2課 課長の小又美智さん【画像提供=Mizkan】


「味ぽん」は関西発だった!?そのワケは“鍋文化”にあった

いまや鍋料理をはじめ、さまざまな料理に欠かせないものとして、日本の食卓に定着している味付けぽん酢。しかし、昭和30年代(1955年〜1964年)までは、橘類の果汁が酸化しやすい性質があるため家庭での使用が難しく、主に料理店でのみ楽しまれていた。

「弊社の7代目・中埜又左エ門は、ある取引先との宴会に出席したときに、『博多水炊き』と一緒に出てきたぽん酢のあまりのおいしさに魅了されたそうです。そこで彼は『なんとか全国の家庭でも、このお店のぽん酢のような鍋用調味料を味わってほしい』と思い立ち、『鍋専用調味料』の開発に着手しました。そして1964年11月10日に、もともと水炊きを食べる文化が根付いていた関西地域にて『ミツカン ぽん酢<味つけ>』を試験的に販売。3年後の1967年秋には『ミツカン 味ぽん酢』という名前で、全国的に販売するようになりました」

【写真】1964年発売当時の味ぽん。当時は鍋専用調味料として、味が薄くならないように醤油が強めだった【画像提供=Mizkan】


対して関東では、寄せ鍋などの味付け鍋が主流だったため、味ぽんの参入余地がなかったそうで、発売から数年間は厳しい業績だったという。そこで当時のMizkanは、販路を拡大するべくある商談を敢行した。

「当時の弊社の営業員は、関東地方の人々に水炊きのおいしさを広めるため、食材の宝庫である築地市場で、積極的にアプローチしました。土鍋とコンロを持参し、市場を回って水炊きの魅力を直接伝える取り組みを行ったそうです。とても大変だったそうですが、この草の根活動は、関東で味ぽんならびに鍋文化の認知を広げる大きなきっかけとなりました」

「味ぽん 150ml」(1968年)。当時は「家族団らん」を訴求し、鍋文化の普及に努めた【画像提供=Mizkan】


“汎用性の訴求”で一気に知名度が向上!しかし、迷走していた時期も

地道な販促活動が実を結び、味ぽんは関東でも認知されるようになっていった。そして味ぽんといえば、さまざまな料理に使用できる“汎用性の高さ”が魅力だが、現在のよく知られる味ぽんになったのはいつごろなのだろうか。

「かつて鍋は『冬にしか食べられない』と言われていて、夏になると味ぽんが大量に返品されるという実態がありました。ですが、九州や高知など一部のエリアでは、年間通して使用していただいているというデータがありました。調査を重ねていくと、鍋以外のメニューに使われていることが判明したんです。そのため、まずは味ぽんを年間商品にするため『おろし焼肉』を発案したり、1980年代後半には『焼き餃子』や『おろしハンバーグ』、『ぶりの塩焼き』といった、日頃から食卓に並ぶメニューに使ってもらうための提案を行っていきました。このあたりから、味ぽんを使ったおなじみのメニューが登場し始めます」

「味ぽん 360ml」(1968年)【画像提供=Mizkan】


こうした汎用性の訴求により、味ぽんの需要は一気に拡大していったが、1990年代は迷走していた時期もあったようだ。「私の見解ですが、味ぽんのような汎用性の高い調味料がたくさん発売されたことで、ブランドとして何をコアバリューとして訴求すればよいか軸がずれてしまい、迷走してしまったんだと思います」と小又さん。

「当時のCMなどを見返していると、伝えたいことがわからない内容が多く、いろいろと迷っていたんだろうなと思います。そんななか、バブル崩壊後に働き方の見直しや健康意識の高まりが進んだタイミングで、味ぽんのコア価値を『ニッポンのさっぱり味』に見直し、『かつおののっけ盛り』や『さんまの塩焼き』など、健康に訴求したメニューを提案したことで、徐々に持ち直していきました」

「味ぽん 150ml」(1970年代)【画像提供=Mizkan】

「味ぽん 360ml」(1970年代)【画像提供=Mizkan】


コロナ以降またもやピンチに!一方で、新たなニーズも

女性の社会進出に伴い、共働き世帯が増加するなか、Mizkanは「鶏のさっぱり煮」や味ぽんだけで味付けが決まる新しい炒め物のバリエーション「さっぱり炒め」など、簡単に作れるメニューを数多く提案。味ぽんの売り上げを伸ばしていった。しかし、コロナ禍によって状況は一変した。

「コロナが流行り出したころは、自宅でご飯を作らざるを得なかったので、売り上げは大きく伸びました。ただその反動で、次第に調理しない手段を求め始め、宅配サービスが普及したり、より簡便な冷凍食品や、スーパーに売っている総菜などの売り上げが大きく伸びました。こうして人々の食生活に関する認識が大きく変化したことにより、調理頻度が減ったことは、味ぽんにとって大きな脅威と言えます」

現行の味ぽん。2000年から約10年の年月をかけて、6段階に分けて味ぽんの味を徐々に変化させ、2011年に完成形にいたった【画像提供=Mizkan】


一方で「鶏のさっぱり煮が好評だった理由をひも解いていくと、意外性、つまりライフハックの要素が響いたのではないかと推測できるんです」と語る小又さん。ライフハックメニューは、主に若い男性や単身の世帯に支持されているそうだが、同時に味ぽんの購入率が最も少ない層でもあるという。

「購入率の最も低い層である若い男性や単身の世帯にアプローチするべく、親和性の高いSNSなどの、トライブに向けたコミュニケーションを実施していくつもりです。たとえば、キャンプとの相性がいいのではないかという話が出ているので、キャンプをコンテンツにしているYouTuberさんを起用するなどして、ライフハックメニューならびに味ぽんの新しい使い方をうまく提案できればと考えています」

「味ぽんうまピリ」。ターゲットを20〜30代に設定した肉料理に合う商品【画像提供=Mizkan】


2024年で味ぽん誕生60周年!目指すは「ジャンルを超えた商品」

1964年の発売以降、紆余曲折ありながらも、いまや日本全国の人々に愛されるブランドにまで成長した味ぽん。2024年には誕生60周年を迎えるが、今後のブランド展開については、どのように考えているのだろうか。

「味ぽんは、これまでCMで認知を拡大してきました。今ではありがたいことに9割以上の方に認知していただいています。先ほどお伝えしたスモールマスに向けたコミュニーケーションに加え、調味料の枠にとらわれない形でアプローチできればと考えております。そのためにも、商品のコラボレーションやタイアップ、SNSでの発信などを積極的に取り組んでいく所存です」

また、味ぽんというブランドが約60年もの間、市場に存在し続けているのは、“ユーザーの声に耳を傾けること”を徹底してきたからとのこと。加えて、小又さんは「味ぽんは今、時代に合った価値を再定義するフェーズに来ています。ですので、引き続きお客さまの声に耳を傾け、新たな価値を提供できるよう努めてまいります!」と意気込んだ。

「味ぽんMILD」。文字どおりマイルドな味わいが特徴なので、酸味が苦手な子どもにもおすすめ。今では食育にも貢献している【画像提供=Mizkan】


鍋用調味料から始まり、今では汎用性の高い調味料として、幅広い年代に愛されている味ぽん。そして今、その枠をも超える新たな課題に挑戦しようとしている。一体どのようなブランド展開を見せてくれるのか、いちユーザーとしても今後の動向から目が離せない!

この記事のひときわ #やくにたつ
・鍋文化が普及していない地域に出向き、販路を拡大
・汎用性の高さを訴求することで、味ぽんの需要を大幅に拡大
・時代に合わせて訴求する内容を変えることで、ユーザーのニーズをつかみ続ける

取材・文=西脇章太(にげば企画)

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