新幹線レベルでくつろげる「豪華特急車両」に施された工夫とは?「しまかぜ」「青の交響曲(シンフォニー)」を運行する近畿日本鉄道に聞いてみた
東京ウォーカー(全国版)
日々の通勤・通学、そしてこれからの季節であれば、旅行や帰省のために電車を利用する人は多いだろう。しかし、移動時間をどう活用するかに困ったり、なかには苦痛と感じる人もいるかもしれない。それが長距離移動となればなおさらだ。
そんななか、利用者の移動時間が苦にならないように工夫をこらす鉄道会社もある。今回クローズアップするのは、大阪府、奈良県、京都府、三重県、愛知県の5府県を結ぶ、日本最大手の私鉄・近畿日本鉄道株式会社(以下、近畿日本鉄道)。同社は、観光や都市間輸送に特化した「豪華特急車両」を複数有しており、それぞれが“移動時間や乗車そのものを楽しむ”というコンセプトになっている。日本でも指折りの観光名所を有する近畿地方を中心に走る列車は、どのようなサービス・設備を提供しているのだろうか。
今回は、近畿日本鉄道 鉄道本部 企画統括部 技術管理部(車両)主幹の奥山元紀さんに、豪華特急車両の誕生秘話や開発において苦労・工夫した点などを聞いた。
伊勢神宮の式年遷宮に合わせ、2013年に観光特急「しまかぜ」の運行を開始
2009年の夏ごろ、近畿日本鉄道は、三重県の伊勢・志摩エリアの観光促進と特急の利用促進のため、豪華特急列車の開発プロジェクトを発足。乗客の需要を調査するべく、伊勢・志摩方面の特急利用客約1万人、伊勢・志摩の宿泊施設利用客約250人、観光事業者へのヒアリングを行い、さらに関西、中部、首都圏に住む約4000人を対象にインターネット調査も実施した。
「調査結果から、伊勢・志摩の観光客の9割以上は2、3人以上のグループで、そのうち女性が6割を占めること、また主な年齢層は経済的・時間的余裕のあるシニア層だということがわかりました。さらに特急車両への要望として、『くつろげる』『座席周りがゆったりしている』といった車内の居住性に関する要望が多く寄せられました。これらを受け、弊社は『シンボリックで今までにない車両を作ろう』という目標のもと、伊勢神宮の式年遷宮に合わせ、2013年3月21日に“くつろぎ”と“楽しみ”を提供する観光特急『しまかぜ』の運行を開始しました」
座席には、鉄道会社初となる「簡易マッサージ」の機能を搭載していたり、近畿日本鉄道が運行している2階建て車両「ビスタカー」のノウハウを活用して、中間にはカフェ車両、両端の1・6号車にはハイデッカーの展望車両を採用するなど、同社の技術を集約したつくりとなっている。その傍ら、苦労もあったようで、「すべての車両に違ったコンセプトを設定しているので、複数の車両を一度に設計するような大変さはありました」と奥山さんは語る。
通勤車両を改造!建築デザイナーが設計した「青の交響曲」
「しまかぜ」運行後、さらなる調査により、歴史、文化、自然、食など豊かな観光資源があふれる奈良県の飛鳥・吉野エリアの観光客層にもシニアや女性グループが多いことが判明。そこで、2016年9月10日に「上質な大人旅」をコンセプトとした観光特急「青の交響曲(シンフォニー)」の運行を開始した。
「『青の交響曲』と後述の『あをによし』については、過去に使用していた車両を改造して作っています。まず『青の交響曲』は通勤車両を改造しているので、もともと扉だったところを座席にするなどの工夫を施しています。また、車内でゆったりくつろいでいただくためには、2両では窮屈で4両では輸送過剰になると考え、3両編成としました。通勤車両を改造した理由としては、大阪阿部野橋~吉野を走っていた特急車両が、2両または4両の偶数でしか組めないシステムだったので、3両編成だった通勤車両を採用しました」
一般的に鉄道車両のデザインを手掛けるのは専門のデザイナーだが、「青の交響曲」に関しては、近畿日本鉄道のグループ会社である建設コンサルタント会社が担当したのだとか。そのため、内装にはさまざまな建築材料を使用しており、奥山さんは「電車というより、高級ホテルのラウンジにいるような雰囲気を体験していただければと思います」と話す。
また、通勤車両の構造上、窓と扉が交互に設置されており、通常の特急列車のように進行方向に合わせて座席を配置すると、窓と扉の間の戸袋部には窓のない席ができてしまうという問題点があった。これについては、座席を向かい合わせの固定にして、通勤列車の構造をうまく活用することで解決したそうだ。
「あをによし」はエリザベス女王や昭和天皇が乗車した車両を改造
その後、2022年4月29日には「くつろぎの歴史旅」をコンセプトとした「あをによし」の運行を開始。前述のとおり、過去に利用していた特急車両を改造したもので、かつてはエリザベス女王や昭和天皇が伊勢神宮を参拝するために乗車した、いわゆる“お召し列車”。車内は、奈良にある「正倉院」の宝物をモチーフにしたカーペットや、校倉造りをイメージした販売カウンターなど、奈良の歴史や文化を感じさせる内装となっている。
「もともとは京都~奈良の観光列車を考えていましたが、やはりインバウンド需要による大阪観光のお客様が多いので、『それなら大阪観光の観光客が京都や奈良にも行ける観光特急を開発しよう』と、大阪難波駅からも出すことになりました。投入にあたり、近鉄奈良駅を境に列車の進行方向が前後逆転するので、同駅での“座席転換をどうするか”という課題がありましたが、向かい合わせの席やサロン席を設けることで、座席転換しなくても運行できるようにしました」
最も乗車客が多いのは「大阪難波駅~近鉄奈良駅」と「京都駅~近鉄奈良駅」だが、いずれも乗車時間は30〜40分と短く、仮にラウンジを設けても飲食している間に到着してしまうという問題があった。そのため、自分の座席でも食事ができるようにすることでその問題を解消。加えて、「サロン席では当社史上最大となる、縦約1.2メートル・横約2メートルで窓下辺を極力下げていますので、存分に眺望をご堪能いただければと思います」と奥山さん。
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