上層部は復刻に消極的?レトロブームの火付け役となった“花柄のガラス食器”が時代を越えて成功したワケ
東京ウォーカー(全国版)
純喫茶や昭和歌謡など、“昭和レトロ”と呼ばれるものに魅力を感じる若者が増えているが、その火付け役と言われるアイテムをご存知だろうか。それが、愛知県岩倉(いわくら)市に本社を置く老舗ガラスメーカーの石塚硝子株式会社ハウスウェアカンパニー(以下、石塚硝子)が製造・販売しているシリーズ「アデリアレトロ」だ。
アデリアレトロは鮮やかな花や動物などのデザインが魅力の食器で、コロナ禍のSNSではアデリアレトロのグラスにクリームソーダを入れて「おうち喫茶」を楽しんでいる様子も多く見られた。しかし、商品開発の初期段階では、社内の上層部から反対の声があったという。
今回は、石塚硝子 市販部企画グループの杉本光さんに、アデリアレトロの誕生のきっかけと商品開発にあたっての苦労について話を聞いた。
1960年代の急激な“西洋化”の中で「アデリア」が誕生
1819年創業の石塚硝子が、ガラスの製造に加え、食器事業に本格的に参入したのは1961年のこと。戦後、日本が高度経済成長を迎えたのと同じころに、食器ブランド「アデリア」の販売をスタートした。
「高度経済成長期というと、急激な西洋化によって日本人のライフスタイルが大きく変化した時期です。たとえば、ちゃぶ台からダイニングテーブルへ、湯呑みからガラスや陶磁器の洋食器へと変化していったんです。アデリアでは花や動物などかわいらしい柄をあしらった家庭用のグラスから、喫茶店やレストランで使われるような、業務用のグラスなどを製造していました」
のちに「アデリアレトロ」として復刻するプリントグラスは、上記の時代背景もあって、一気に各家庭に浸透していったそうだ。また、当時は食器だけに限らず、冷蔵庫や炊飯器といった家電にもポップな花柄があしらわれていたという。
加えて、杉本さんは「発売から50年、60年経った今もなお、ヴィンテージショップなどで比較的状態のいいアデリア製品が手に入ることから、今とは比べものにならないほど売れていたことが伺えます」と話す。
社内の上層部は消極的?「アデリアレトロ」開発秘話
その後、時代の流れとともにアデリアのデザインは変化していき、人気を博したプリントグラスは昭和のうちに生産終了となってしまった。だが、2018年に石塚硝子はこれらのクラシックなデザインを「アデリアレトロ」として復刻。では、かつての商品をどのようにしてリメイクし、再び販売するにいたったのだろうか。
「あるとき、社員がSNSで『#アデリア』と検索してみたんです。そうすると、最近のアデリア製品写真よりも、昭和当時に作られたヴィンテージのグラスの画像がたくさんヒットして。それがきっかけで、かつてのアデリアのデザインが今の時代でも受け入れられていることに気がつきました」
世間の製品に対する関心を知り、「これは売れる!」と思って復刻を提案するも、最初は難航したそう。というのも、「本当に今の若い人たちに受け入れられるのだろうか?」と、上層部の社員たちが商品化に慎重になっていたためだ。
杉本さんは「昭和を実際に経験してきた人たちなので、“昭和レトロ”と呼ばれる見慣れたデザインのものが、かわいいと思えないと(笑)。復刻したところで本当に売れるのかと、すごく心配していました」と話す。
しかし、若い社員たちの熱意あるプレゼンもあり、本格的にブランドを立ち上げ、販売することとなった。「プレゼンを重ねるなかで、数値的なデータを集めて、根拠を明らかにして提案したことで企画が通ったのかなと思います」と杉本さんは振り返る。
「アデリアレトロ」開発までの苦難と工夫の数々
こうしてアデリアレトロの販売が決定したものの、社内には過去のデザイン画やガラスのサンプルがほとんど残っていない状態だったそう。ヴィンテージショップ、ネットオークションなどでグラスを探し、資料をかき集めるところから始まった。
「シリーズを増やしていくにあたって貴重なデザインのものはなかなか見つからなかったので、ファンの方との交流も兼ねて、SNSで『このグラスを持っている人がいたら貸してください』と呼びかける『再会チャレンジ』という企画を実施しました。すると、たくさんのファンの方々が、当時のプリントグラスを送ってくださりました。本当にありがたかったですね」
当時のデザインにあるレトロ感を残しつつ、安定感のある形状に変更したり、使いやすくするために容量を増やすなど、より実用的に開発。そして、発売から5年で約140万個の売り上げを達成し、昭和レトロブームを牽引するほどの大ヒットとなった。
また、大ヒットの背景には「レトロブームへの関心の高まり」と「コロナ禍で外出を控えるなか、おうちで喫茶店の雰囲気を味わいたいというニーズ」の2つの後押しがあったと、杉本さんは分析する。
一過性のブームではなく、文化として根付かせるために
アデリアレトロの今後の展望について、「『長く愛されるようなシリーズに育てていく』ということを目標にしています」と話す杉本さん。一時のブームではなく、文化として根付かせるためにさまざまなイベントを企画している。
「SNSでアデリアレトロが好きな方を募り、2023年6月に本社でファンミーティングを開催しました。工場に呼んで製造の現場を見ていただいたり、作り手との交流、実際にアデリアレトロのグラスを開発しているような模擬体験も行っています。また、『こんな商品が欲しい』『この柄を復刻してほしい』と、たくさんのご要望をいただきました。開発する立場として本当に参考になりましたね」
1819年の創業以来、商品を使う人とのあたたかい交流を大切にしてきた石塚硝子。ファンとのつながりを第一に考える同社であれば、これからもユーザー目線に立った商品を生み出してくれるはずだ。
取材=西脇章太(にげば企画)、文=永田奏歩(にげば企画)
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