デジタルの時代に、紙の「JR時刻表」が売れる理由とは?信頼を得続けるための制作の裏側に迫る

東京ウォーカー(全国版)

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列車の時刻を調べるとき、スマートフォンアプリやインターネットサイトの経路検索で検索するのが一般的だろう。しかし、デジタル化の技術が発達していなかったころ、列車の時刻は紙の時刻表で調べるのが主流だった。

現在でも書店で販売されている紙の時刻表のひとつが、「JR時刻表」だ。この雑誌は、駅にある旅行センターやみどりの窓口でも使われているという信頼と実績がある、JR6社共同編集の時刻表だ。しかし、アプリやインターネットでの経路検索が主流になっている今、なぜ紙の時刻表を売り続けているのだろうか。

今回はJR時刻表を制作・出版している株式会社交通新聞社 時刻情報事業部の市川隆裕さんに、現在のJR時刻表の需要について話を聞いた。

「JR時刻表 2024年1月号」。アプリやインターネットでは出せない、紙媒体ならではの魅力とは?


「JR時刻表」ってどんな雑誌?

JR時刻表とは、日本国内の公共交通機関の時刻をまとめた雑誌だ。公共交通機関の時刻などはほぼ毎月変更があり、最新の情報を読者へ正確に周知するために、JR時刻表は毎月発行されている。そんなJR時刻表は、2023年で刊行60年を迎えたという。

「1963年5月に、JR時刻表の前身となる『全国観光時間表』が誕生しました。そこから何度か誌名やサイズの変更を行い、1988年に『JR時刻表』となって、現在の形にいたります。現在のものは約1100ページで、サイズはB5判、重さは1キロ以内に収められています。定価は1375円(税込)で、全国の書店や通販サイトなどで販売されています。発行部数はひと月に約5万部と、スマートフォンなどでの経路検索が主流になった今でも一定数売れています」

1963年に発行された「全国観光時間表」


「JR」の名前を冠するこの雑誌は、JR北海道、JR東日本、JR東海、JR西日本、JR四国、JR九州の6社と交通新聞社が共同で編集しており、非常に高い正確性が特徴だ。そのため、駅の旅行センターやみどりの窓口などでも使用されており、個人の読者だけでなく、鉄道事業者各社からも信頼を得ている。

JR時刻表は毎月20日前後に発行されている。その理由は、定期列車の時刻だけでなく、ダイヤ改正や季節の臨時列車の運行、駅や線路の工事による運休、代行輸送などといった情報を掲載するためだ。運行計画やスケジュール変更などを確認できるようにすることで、月に一度最新の情報を読者に届けている。

「特に、例年2月に発行されるダイヤ改正号は定期列車の時刻が変わるため、年間で一番売れますね。また、時刻以外の内容としては読み物やグラビア、観光案内なども掲載しています。なので、純粋に月刊誌として楽しむことができるのも特徴です。ほかには、駅の構内図やさくいん地図といったページもあり、駅構内の工事などによる窓口や改札の移動などの情報も掲載しています。時刻情報だけでなくこのようなものも含めて、掲載情報を毎月更新しています」

時刻のページ。特急列車や列車が運転しない日がわかりやすいように2色刷りになっている

時刻表の複数列車が並んでいるページを見ながら乗車する列車を決め、旅程を立てるのが鉄道旅の醍醐味だという


デジタルの時代に紙の時刻表が愛される理由

毎月発行するJR時刻表の制作は、限られたスケジュール内で正確な情報を掲載することが求められる。もし情報に間違いがあれば読者に大きな迷惑がかかってしまうため、慎重かつ正確に制作しているそうだ。特に、時刻のページについては30名を超える体制でデータの作成・管理から誌面の編集・校正、そして「デジタル時刻表」というアプリの運用まで担当しているという。また、JR時刻表のために作成したデータは検索エンジン会社へも提供されており、JR線のデータを提供しているのは交通新聞社のみとのこと。

「限られたページの中で情報を掲載しなければならないので、どれだけわかりやすく、整理して載せるかが編集者の腕の見せどころです。そのため、制作においては毎回細心の注意を払っています。また、JR時刻表の重さは1キロ以下になるように制作しています。これは、定期購読者へ発送するための第三種郵便物の上限が1キロだからです。それを超えないように、ページ数とのシビアな戦いをしています」

東京駅・品川駅・新横浜駅・横浜駅の構内図


そんなJR時刻表だが、近年ではアプリの普及もあって、活躍の場は減少しているように感じられる。しかし実のところそうではなく、「紙がいい」という読者も多く存在するのだとか。紙の時刻表には一覧性があり、辞書を引くように一度に情報を探せることが大きな特徴。そのため、鉄道旅をする人を中心に根強く人気があるという。

「鉄道好きや旅行好きの方には旅程を考えるだけでなく、時刻表をめくりながら自分がどこに行ってみたいかとか、どういう旅行をしてみたいかなどを想像して、読み物的に使っていただいている方も多いと聞きます。また、実際に旅行の際に持って行き、記録を書き込んだり切符やパンフレットを挟んだりするという使い方をされて、それを後日開き旅の思い出を振り返って楽しむ方もいらっしゃるようです」

関東・甲信越地方のさくいん地図


アプリやインターネットなどで簡単に乗り換えなどが検索できるこの時代。あえて紙の時刻表を使うのには、アプリでは再現できない情報の収集方法や思い出の記録など、紙だからこその利点が詰まっているからだ。社会全体のデジタル化が進んでいる時代に、あえてアナログな時刻表で旅の計画を立ててみるのも、新しい旅の楽しみ方のひとつとなるかもしれない。

旅の思い出がよみがえる「まくら時刻表」


「鉄道というインフラを支える一員に」

前身の「全国観光時間表」創刊から60年を迎えたJR時刻表は、2023年4月号から12月号にかけて、オリジナルグッズのプレゼントやスペシャルサイトでの創刊号『全国観光時間表 1963年5月号』の一部誌面公開など、読者への感謝の気持ちを込めたさまざまなキャンペーンを行った。

「企画の中でも特に評判がよかったのが、アナウンサー・堺正幸さんによる時刻表60年記念スペシャル朗読動画です。YouTubeチャンネルにて、“ビジネス特急『第1こだま』で大阪出張”“夜行列車で十和田湖への旅”の2本立てを堺さんに朗読していただきました。2023年12月現在で13万回再生されています」

最後に、市川さんにJR時刻表の今後の展望について聞いた。

「紙媒体の減少もあって、業界全体が厳しい状況になってきています。しかし、誕生60年を迎えたこの機会に、紙の時刻表ならではのよさや楽しみ方を知っていただき、新たなファンを増やしていきたいですね。もちろん、現在紙の時刻表を使っていただいている方にも引き続き使ってもらえるよう、努力してまいります。まだ使ったことがない方は、ぜひ一度紙の時刻表をお供におでかけしてみてくださいね」

「鉄道というインフラを、陰から支える一員としての役割を果たしていきたい」と語った市川さん。JR時刻表は、これからも紙媒体ならではのよさを発信していくだろう。今後の展開が楽しみだ。

取材・文=越前与

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