コーヒーで旅する日本/関西編|静かな湖畔に開いた憩いの隠れ家。「MATSUBARA COFFEE」がつなげる新たなローカルコミュニティ

東京ウォーカー(全国版)

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全国的に盛り上がりを見せるコーヒーシーン。飲食店という枠を超え、さまざまなライフスタイルやカルチャーと溶け合っている。なかでも、エリアごとに独自の喫茶文化が根付く関西は、個性的なロースターやバリスタが新たなコーヒーカルチャーを生み出している。そんな関西で注目のショップを紹介する当連載。店主や店長たちが気になる店へと数珠つなぎで回を重ねていく。

入口からは、湖に開けた奥のテラスまで見通せる


関西編の第74回は、滋賀県大津市の「MATSUBARA COFFEE」。琵琶湖観光の起点の1つ、大津港のほど近くに1年前にオープンしたばかりのニューフェイスだ。隠れ家的なロケーションにありながら、湖畔に開けた開放的な空間は、実は店主・松原さんのご実家でもある貸しボート乗船場を改装。長らく京都のゲストハウスやロースターで経験を積み、地元に構えた店からは、新たなコミュニティが徐々に広がりつつある。開業以来、「知っていたつもりの地元の見方が変わりました」という松原さんが、コーヒーを通して見つけた、この場所の変化と可能性とは。

松原寛明(まつばら・ひろあき) 、翔子(しょうこ)


Profile|松原寛明(まつばら・ひろあき) 、翔子(しょうこ)
1989年(平成元年)、滋賀県生まれ。外国語大学卒業後、貿易・物流関連の企業で4年勤めたあと、転職先の京都のゲストハウス・Lenでスペシャルティコーヒーと出合ったのを機に、Lenのカフェ担当となりコーヒーの世界に傾倒。その後、開業に向けて焙煎を学ぶべく、京都のWEEKENDERS COFFEEのスタッフとして約3年の経験を積み、2023年、家業の貸しボート場を改装して「MATSUBARA COFFEE」をオープン。奥様の翔子さんは、パティシエとして10年以上の経験を持ち、「MATSUBARA COFFEE」の焼菓子製造を担当する。

転機となったエチオピア・イルガチェフェの衝撃

湖に面して大きく窓が開けた店内は、開放的な雰囲気

琵琶湖を巡る遊覧船が発着する港を中心に開けた大津市の浜大津界隈。周辺には寺社やホテル、アミューズメント施設も点在する、滋賀の観光スポットの1つだ。その港から、湖畔を歩くこと10分ほど。目立たぬ小路の奥に立つ「MATSUBARA COFFEE」の店先には、“松原遊船”の看板が見える。「ここは元々、祖父の代から60年続く、家業の貸しボートの乗船場だったんです」とは、松原さん。店の奥に開けた小さな入江には、ボートが並ぶ桟橋。テラスに出れば、湖面がはるかに広がる。ひっそりとしたロケーションに、開放的な眺望が隠れていようとは、よもや思うまじ。

袋小路の奥にある店先に掛かる、COFFEEと松原遊船の看板が目印


本来なら松原遊船の3代目にあたる松原さんだが、大学卒業後は語学力を活かして物流会社へ。コンテナ通関などに携わるも、海外の人々とより近くで接する仕事を求めて、京都のゲストハウス・Lenに転身。ここで、思わぬコーヒーとの出合いが待っていた。「併設のカフェで、同僚のスタッフが淹れてくれたコーヒー、エチオピア・イルガチェフェの風味が衝撃的で。“自分が知っているコーヒーじゃない!”という感覚は、すごく新鮮でした。それまで、コーヒーに何の関心もなく、専門店にも行ったことがなかったのが、この一杯を機に俄然、興味が湧いてきたんです」と振り返る松原さん。コーヒーに縁遠かったぶん、インパクトも強かったのだろう。当初はレセプション係を希望していたが、すぐさまカフェ担当に異動を申し出て、一気にコーヒーの世界へと傾倒。やがて、自ら店を持つ可能性を模索し始めた。

店から程近い大津港では、観光遊覧船の姿が見られる


開店して初めてわかった地元の変化

店の奥にはボートを係留する桟橋が。入江の先には広大な琵琶湖の眺望が広がる

ただ、続けるうちに、コーヒーを淹れる技術だけでは難しいのではないかとも感じていた。そこで当時、足繁く通っていたWEEKENDERS COFFEEの門を叩き、店主・金子さんに飛び込みでスタッフとして志願。折よく、欠員が出るタイミングと重なり、新たな学びの場を得た。「店主の金子さんからは、技術を含めてライフスタイル、考え方に大きな影響を受けました。例えば、普段、口にするものや生活のリズムを気にするなど、日頃から味覚を養うこともその1つ。それまで、自分はどちらかというと直感に頼ることが多かったので、ストイックにコーヒーに向き合う姿勢から、得るものは多かったですね」

当時、焙煎の仕事は補助的な役割が中心だったが、それでも、「最初に焙煎機を扱ったときは怖かったですね」と松原さん。「毎日10~20バッチのうちの1回ですが、ミスは許されないという緊張感がありました。焙煎に携われるのはうれしかったけど、自分が逆の立場なら、と考えると、経験の浅い自分によく触らせてくれたなと思います」と、ここでの3年は貴重な経験となった。

「豆の品ぞろえは、これから浅・中・深煎りで各2、3種ほどに増やしたい」と松原さん


実は、松原さんが独立を考えていたとき、京都でやることも選択肢にあったそうだ。それでも、「ローカルな環境で店を始めた先輩や知人のお店を見て、地元でやることの意義も感じて」と、地元の大津を選んだ。コロナ禍の影響もあり、家業のボート乗り場を改装することに、先代からも賛成を得た。とはいえ、国道脇の袋小路にあり、表からは目立たぬ立地で、人の流れも多くはない。一見、店には不向きにも思えるが、松原さんの発想は逆だ。「ぱっと見はお客さんが来なそうな場所を、あえて選んだんです。駅からは遠くアクセスはよくないんですが、焙煎をする環境としては、これ以上ない場所。コーヒーとお菓子の製造拠点として考えると、この場所はむしろ好立地。だから、人の流れとかはあまり考えなかったんです」と、2023年1月、松原遊船と並んで“COFFEE”の看板が掲げられた。

ドリップコーヒー500円。豆はブレンドとシングルオリジン4、5種から選べる


オープンから半年ほどはPRすることなく静かにスタートを切った「MATSUBARA COFFEE」。その中で、訪れたお客は、いい意味で松原さんの想像を裏切るものだった。「最初は、誰も店の存在を知らない状況で、どんなお客さんが来られるのか知りたかったんです。ふたを開けてみれば、京都時代の共通の知り合いが近所にいることがわかったり、熱心なコーヒー好きの方がいたりと、口コミで少しずつ増えていって。知ってるつもりで知らなかった、地元の見方が変わりました」。長らく地元を離れていた松原さんにとって、うれしい驚きであり、ここで自らが新しいつながりを作っていくことの、手ごたえが感じられたという。

インテリアの船の舵や、古い船板を再利用したテーブルも目を引く


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