長崎県の世界文化遺産「軍艦島」上陸クルーズを利用してみた!“上陸できない場合”の対応は?

東京ウォーカー(全国版)

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長崎県での観光で外せない、世界文化遺産の「軍艦島」。島に上陸するためのクルーズ船は、2024年3月時点で5社が運航している。多くの人にとって一度は行ってみたい島だと思うが、企業ごとにクルーズの内容が異なるため、初めて利用する人はどれを選んでいいか迷ってしまうのではないだろうか。

そこで今回、ライターが5社を比較し、うち1社である「シーマン商会」のツアーに乗船。決め手となったポイントや、軍艦島の見どころを紹介する。また、株式会社シーマン商会(以下、シーマン商会)代表取締役の山下善治さんにも、軍艦島クルーズの魅力について話を聞いた。

船上から見た軍艦島


島に上陸できない場合も…。クルーズ選びの決め手

軍艦島は、長崎県長崎市の約20キロメートル南西にある人口島だ。正式名称は「端島」(はしま)といい、島の外観が軍艦に似ていることから「軍艦島」と呼ばれるようになった。海底炭坑として日本の産業の近代化に貢献し、最盛期の1960年代には約5300人もの住人がいたという。1974年に炭坑が閉山されてからは無人島になったものの、2015年には世界文化遺産に登録されている。

島の最盛期には、日本一の人口密度を誇っていたという【写真提供=シーマン商会】


軍艦島には、クルージングに参加すれば一般人も上陸できる。2024年3月時点、軍艦島クルーズを運航しているのは5社で、それぞれでツアー内容が少しずつ異なるが、筆者は今回「シーマン商会」のクルーズに参加した。決め手となったのは、「上陸不可時の寄港先」と「乗船時にもらえる記念グッズの内容」だ。

シーマン商会の運航船「さるくⅡ号」。軍艦島上陸と周遊ツアーを行う【写真提供=シーマン商会】


軍艦島クルーズは、必ず島に上陸できるわけではない。長崎市の設ける安全基準を満たさなければ上陸できないのだ。たとえば、「風速5メートルを超える場合」「波の高さが0.5メートルを超える場合」などは上陸不可となる。その場合、船で島の周りを周遊するか、近くの別の島に上陸するなど、会社によって対応が違う。

シーマン商会は上陸できない場合、近くにある「高島」へ寄港する。高島は軍艦島と同じく炭坑で栄えた島で、現在も700人ほどの住人が暮らしている。この高島、実は“猫が多い島”として知られており、一説では「島民と同じ数の猫がいる」とも言われているそう。猫好きの筆者は「もし軍艦島に上陸できなかったときにほかに楽しみがほしい」と、高島寄港に魅力を感じた。

もうひとつ、決め手となったのは、乗船時にもらえる「上陸証明書」と「石炭」だ。旅の記念に持って帰るにはぴったりだろう。

島の近くまで行ってから、長崎市の上陸基準をもとに、基準内でかつ船長の最終判断により上陸の可否が決まる。ドキドキする瞬間だ【写真提供=シーマン商会】

明治から昭和にかけて、石炭産業を唯一の基幹産業として栄えた高島【写真提供=シーマン商会】


シーマン商会の軍艦島クルーズ船「さるくII号」は、午前と午後の1日2便が運航している。全席自由席のため、集合場所に来た順から早い者勝ち。船内は、乗船口から一段下がった船内座席と後部座席に分かれている。筆者は後部座席の窓側を確保。景色を楽しめる窓際の席を狙いたい人は、集合時間の15分前には乗り場へ着いておくといいだろう。

進行方向右側には三菱重工業の長崎造船所があり、海上自衛隊の護衛艦やイージス艦がメンテナンスのために停泊していることも。進行方向左側に座ると、世界文化遺産の大浦天主堂やグラバー園など長崎の町の風景が見られる。乗船中もスタッフによるガイドがあるため、海上からも観光を楽しめるのが魅力だ。

乗船時に見学者タグ・うちわ・パンフレット・石炭・酔い止めの飴がもらえる

「さるくII号」船の全長は23.98メートル


出港して約40分。軍艦島付近に到着し、船が島をぐるっと周遊する。展望デッキに出られるので、船の上からも見学できた。

ついに軍艦島上陸!早く訪れるべき理由とは?

無事に上陸許可が下り、いよいよ軍艦島へ!見学できる場所は限られており、島の南西部分に見学通路と広場が設けられている。ガイドの案内に従い、第一見学所から第三見学所までを巡っていく。第一見学所の見どころは、島の頂上にある職員住宅や学校、コンベアの支柱など。第二見学所では、鉱業所施設が間近で見られる。


そして軍艦島見学における最大の目玉スポットは、第三見学所から眺望できるアパート群だ。

1916年に建てられた、日本最古の鉄筋コンクリート造り(RC造)の7階建てアパート「30号棟」。軍艦島といえば、このアパート群を思い浮かべる人も多いだろう。実は、世界文化遺産に指定されているのは島のごく一部のみ。アパートを含めた島の大部分は「緩衝地帯(バッファゾーン)」と呼ばれ、世界文化遺産ではないものの、保護・保全を推奨されている。

しかし、30号棟をはじめとした大正から昭和初期の建築物は、潮風や大雨により崩落が進んでいる。安全上や技術面の問題から修繕や保全が難しいため、ガイドの方によると「明日崩れ落ちてもおかしくない状態」なのだとか。専門家の見立てでは「2023年中には崩落する」とのことだったようで、半年以上経った今でも現存しているのは奇跡と言える。アパート群を目の前でじっくりと見学したい人は、早めの上陸がおすすめだ。


およそ30分の上陸見学を終え、帰路へ。上陸証明書は帰りの船内で渡され、最後には集合写真を撮ってもらえるサービスも。上陸中は見学ポイントごとにガイドの方から解説があり、30分という短い時間でも十分に軍艦島の魅力や歴史に触れることができた。

シーマン商会代表に聞く、軍艦島ツアーの魅力

大満足のクルーズから数日後、ツアーのこだわりについて、シーマン商会代表の山下善治さんに話を聞いた。

——軍艦島クルーズを始めたきっかけを教えてください。
「長崎は観光県でもあり、見どころも多い土地です。長崎港内はじめ、軍艦島の魅力を多くの方へ知っていただきたいという想いから、軍艦島ツアーの運航を始めました」

明治時代の貴重な遺構として残る第三堅坑捲座・総合事務所跡


——シーマン商会のクルーズの魅力は何でしょうか。
「軍艦島上陸+周遊ツアーを運航する『さるくII号』は、余裕をもった乗船人数にしているため、軍艦島へのクルーズを快適にお楽しみいただけます。実際にお客様からも、『ゆっくり見学できた』『シーマンさんで行ってよかった』『写真も撮ってもらえた』など、多数のお声をいただいております。お客様に満足して帰っていただけるよう、クルー全員が“きめ細やかなおもてなし”をモットーに、一人ひとりのお客様への、目配り、気配りを常に心掛けております。また、軍艦島は、もともと海底炭鉱によって栄えた島です。軍艦島の思い出をご回想いただければと思い、現代では見る機会の少ない石炭(※無煙炭)をお渡ししております」


——上陸時の島のガイドでは、どのようなことを意識されているのでしょうか。
「シーマン商会は、NPO法人『軍艦島を世界遺産にする会』の理事長・坂本道徳さんが専属ガイドとしてご案内する唯一のツアーです(※坂本さんご本人は現在お休み中)。坂本さんや、その他の会員が軍艦島ツアーの語り部として、その魅力を存分にお伝えしております。『軍艦島は世界文化遺産だが、島に人々が暮らしていた跡をただ保存しただけでは意味がない。形だけを残すのではなく、島民たちの暮らしを含めた記憶も残していかねばならない。実際の島民だけが語り継いでいくのではなく、私たちから話を聞いた人たちがさらに多くの方々に語り伝えてくれるとうれしい』という坂本さんの考えもあり、会員含め、島民の想いをのせてガイドを行っております。リピーターのお客様もいらっしゃるので、毎回同じようなガイドにならないよう、また、当日のお客様の年齢層などに合わせてご案内させていただいております」


——軍艦島ツアーを運航するうえで心掛けていることや、今後の展望をお聞かせください。
「船舶メンテナンスや毎日の出港前点検、運航中は常に細心の注意を払い、お客様に安心安全なクルーズをお楽しみいただけるよう努めております。また、ほかの運航会社とは各船同士が連絡を密に行い、情報を共有しながら、日々運航しています。今後も軍艦島の魅力を、より多くの方に発信していきたいです」

帰りの船内で渡された上陸証明書

記念撮影した写真はシーマン商会の公式ブログからダウンロードが可能


これから暖かくなり、絶好の観光シーズンに突入する。春は軍艦島への上陸可能率もぐっとアップするため、渡航を考えている人にはおすすめの季節だ。まるでタイムトラベルをしているような感覚に浸れる軍艦島クルーズを、ぜひ味わってみてほしい。

取材・文・撮影=倉本菜生(にげば企画)

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