コーヒーで旅する日本/九州編|ちゃんと考えて、ちゃんと実行する。「Saï Coffee Roastery」の先鋭的なコーヒーとの関わり方

東京ウォーカー(全国版)

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全国的に盛り上がりを見せるコーヒーシーン。飲食店という枠を超え、さまざまなライフスタイルやカルチャーと溶け合っている。なかでも九州・山口はトップクラスのロースターやバリスタが存在し、コーヒーカルチャーの進化が顕著だ。そんな九州・山口で注目のショップを紹介する当連載。店主や店長たちが気になる店へと数珠つなぎで回を重ねていく。

生豆の個性、フレーバーを最大限引き出せるという理由からDIEDRICHの焙煎機を採用

九州編の第93回は山口県山口市にある「Saï Coffee Roastery」。山口店と下松店の2店舗を展開し、1号店である山口店は維新百年記念公園そば、JR山口線矢原駅の目と鼻の先という立地。一帯は住宅やカーディーラーなどが多い、いわゆる郊外の暮らす町といった雰囲気で、人通りが特別多いというわけではない。ただ、店がオープンすると日々通っている常連と思しきお客や、初来店らしい若い女性グループなど、続々と来店客でにぎわいを見せ始めた。
「Saï Coffee Roastery」の場合、多くのファンがついているのは間違いなく味わいのクオリティの高さだ。その理由、そして店主の齊藤光信さんが考えるコーヒーとの関わり方について紐解いていく。

「Saï Coffee Roastery」統括マネージャーの齊藤光信さん

Profile|齊藤光信(さいとう・みつのぶ)
山口県下松市出身。両親が喫茶主体の「オリエンタル」を営んでいたことから、子どものころからコーヒーを身近に感じながら育つ。営業マンとして働いたあと、「オリエンタル」に入社。営業職と焙煎士の二足のわらじを履いてコーヒーと関わる中で、福岡でパナマのゲイシャ種を味わい、コーヒーとの関わり方、アプローチの仕方について考えを改める。2019年(平成31年)、厳選したスペシャルティコーヒーを柱に「Saï Coffee Roastery」をオープン。

コーヒーの見方を変えた味わい体験

【画像】シングルオリジンを中心に12、13種の豆を用意

「Saï Coffee Roastery」自体は2019年(平成31年)4月オープンと、まだ店ができて5年強だが、もともとは齊藤さんの両親が1967年(昭和42年)に始めたレストランと喫茶事業「オリエンタル」からその歴史は始まっている。齊藤さん自身、物心ついたときからコーヒーを自宅で淹れて飲むのは日常的だったが、当時飲んでいたコモディティコーヒーを特別おいしいと感じたことはほとんどなかったと振り返る。

「Saï Coffee Roastery」を開業し、コーヒーの奥深さを体感

「両親が店を始めた当初は大手商社から豆を仕入れていて、めちゃくちゃコーヒーにこだわった喫茶店というわけではありませんでした。時代的にコーヒーを飲むこと自体が非日常だったので、そのスタイルでよかったんでしょう。ただ時代の変遷とともに自家焙煎でコーヒーの差別化を図る風潮になってきて、両親も焙煎機の導入を決めました。それが2007年(平成19年)ごろだったと記憶しています」と齊藤さん。その当時、齊藤さんはまったく畑違いの業界で営業マンとして活躍していたが、両親が自家焙煎にシフトした時期に家業に入ったそうだ。

「Saï Coffee Roastery」の1号店である山口店

「自家焙煎に切り替えると、自分たちの店のみで消費するだけでは大きな利益は生まれません。そこで卸に力を入れることになり、前職でセールスに携わっていた私が営業として入りました。コーヒー業界に身を置く限りは最新の情報に積極的に触れたり、自ら取りに行く必要があると感じ、時間を見つけては福岡をはじめ九州各地のコーヒーショップに足を運びましたね。その過程で出合ったのがREC COFFEEさんのパナマ エスメラルダ農園のゲイシャ。一口飲んで、まさに衝撃の味わいでしたね。おいしい、おいしくないという次元を超えて、普段飲んでいるコーヒーとは比較できない飲み物だと感じたんです。運よくその時に岩瀬バリスタがお店に立っていらっしゃって、私が質問をすると包み隠さず、いろいろなことを教えてくださいました。私がスペシャルティコーヒーに心惹かれ、考え方を変えたのは間違いなくこの体験がきっかけでしたね」

生産の最上流にいる人々へのリスペクト

フィルターコーヒーはホット550円〜、アイス600円〜。写真はエチオピア モルケ(ホット700円)

「Saï Coffee Roastery」の前身である「オリエンタル」は自家焙煎をスタートした時期から、できる限り品質のよい生豆を扱っていた。ただ、齊藤さんは「これからの時代は、スペシャルティコーヒーに特化して、味わいから差別化を図ることはもちろん、生産している国のこと、農家さんのことまで考えたうえでコーヒーと関わっていかなければいけない」と2019年4月、自身が統括マネージャーを務める「Saï Coffee Roastery」を立ち上げた。

2024年5月現在、ダイレクトトレードしている生産国はエチオピアとインドネシア

「生豆選びは当然そんな想いを反映させてきましたし、なにより農家さんたちの手で丹精込めて育てられ、丁寧に精製処理を施し、はるばる日本へと渡ってきた生豆のクオリティを大切にする焙煎を心がけてきました」と話す齊藤さんには、開業後間もなくしてある素晴らしい出合いがあった。それがエチオピアのMETAD(メタッド農業開発)というコーヒー農園との出合いだ。METADはエチオピアの主力産業であるコーヒーの品質を向上させることで価格や価値を上げ、地域社会に貢献しようという考えを持っており、齊藤さんはその考えに強く共感。

「数年前にふらりと店を訪れた浅野さんという男性がMETADの日本代理人をやっていて、同社の存在を知りました。ぶっちゃけ最初はうさん臭い人が来たぞ(笑)って思っていたんですが、話を聞くにつれ、METADが素晴らしい考え方でコーヒー農園を営んでいて、しかも生豆のクオリティも圧倒的にいい。すぐにMETADから生豆を仕入れることを決めました。浅野さんは半年ほどかけて日本中のロースタリーを巡っていたそうで、その熱意にも心打たれましたね。METADのポリシーを広める一助になればと、中国・四国・九州のロースタリーを2週間ほどかけて一緒に巡ったのは、今ではいい思い出です」と笑う齊藤さん。

エチオピア METADのコーヒーは味わいも格別

そうやって信頼関係を築いたMETADのコーヒーを販売できるのが「Saï Coffee Roastery」の1つの強みだが、齊藤さんは「要望があればどんどんMETADの生豆を、ほかのロースターさんにも広めていきたい」と伝道師的な役割もいとわない。「METADの生豆を多くの人に購入いただければ、最終的にコーヒー生産の最上流にいる農家さんたちに還元されます。エチオピアの場合、そうやって農家さんたちに公正な賃金が支払われるというケースは決して多くなく、稼げているのは生産者ではなく輸出業者だけということは往々にしてあること。私はMETADの生豆を仕入れて、ほかのロースタリーさんに扱っていただくことで、そんな流通の実態をできるだけ多くの人たちに伝えていけたらと考えています」

実際、「Saï Coffee Roastery」は中国・四国・九州エリアにおいてMETADの窓口的な役割を果たし、さまざまなロースタリーに生豆を卸している。

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