コーヒーで旅する日本/九州編|“あなたに良いものは、地球にも良い”。身近なところからコーヒー業界の川上まで、そんな気持ちでコーヒーと向き合う。「ウミノネコーヒー焙煎所」

東京ウォーカー(全国版)

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全国的に盛り上がりを見せるコーヒーシーン。飲食店という枠を超え、さまざまなライフスタイルやカルチャーと溶け合っている。なかでも九州・山口はトップクラスのロースターやバリスタが存在し、コーヒーカルチャーの進化が顕著だ。そんな九州・山口で注目のショップを紹介する当連載。店主や店長たちが気になる店へと数珠つなぎで回を重ねていく。

駐車場は店舗裏手などに4台分用意

九州編の第92回は山口県下関市にある「ウミノネコーヒー焙煎所」。「しものせき水族館 海響館」などがある下関のベイエリアにあり、店名どおり波の音が聞こえてきそうなほど、海のすぐ近く。2階カフェスペースでは大きなガラス越しに関門海峡を望み、行き交う船を見ながらのんびり過ごすのもよさそう。

店を営む中村芳樹さん、美佐さん夫妻はともにコーヒー業界は未経験ながら、独立・開業を機にコーヒー店を開くことに決めたという。もともと芳樹さんは海外出張も多い輸入商社勤務、美佐さんは国際線のキャビンアテンダントと、ロースタリーのオーナーとしては異色の経歴。なぜコーヒーの道を選んだのか、そして2人だからこそできるコーヒーとの向き合い方、味わいづくり、フードペアリングなど、さまざまなことを聞いてみた。

店主の中村さん夫妻

Profile|中村芳樹(なかむら・よしき)さん、美佐(みさ)さん
兵庫県神戸市生まれの芳樹さんは、京都大学法学部を卒業後、輸入商社にて約19年間勤務。バイヤーとしてフランスやイタリア、ドイツ、アメリカなどに赴き、食品や菓子、ワインなどを買い付ける仕事を多くしてきた。美佐さんは山口県下関市出身。国際線のキャビンアテンダントとして約8年活躍。コロナ禍直前の2019年(令和元年)12月、「ウミノネコーヒー焙煎所」をオープン。

胸に響いた醸造家のある言葉

焙煎、抽出とコーヒー全般を担当する中村芳樹さん

中村さん夫妻が営む「ウミノネコーヒー焙煎所」。同店のことを語るうえで、芳樹さんが輸入商社のバイヤーとして海外で経験してきたことは外せない。京都大学在学中のロサンゼルス留学経験を活かし、輸入商社に入社した芳樹さん。ヨーロッパやアメリカで食品やワイン、シャンパンなどを買い付け、日本に広く流通させてきた。

ハンドドリップコーヒーは豆が選べ、1杯550円〜

「バイヤー時代、その商品のことを深く知って買い付けるというのが私のポリシーでした。ですから生産者さんの元へ必ず足を運び、商品に対するこだわり、どんな想いで作られているのかといったことにじっくり耳を傾け、『よりたくさんの日本人にこの商品を届けたい!』と感じたものを取り扱ってきました」と芳樹さん。

もちろん、生産者から直接説明を受けるにあたり、その商品について勉強することは必須だし、幅広く最低限の知識を蓄えてきたという。そんな姿勢で仕事に取り組む中で、ソムリエの資格を取得し、たとえばブドウからワインやシャンパンという飲み物ができあがる過程で生産者にはさまざまな苦労があることを実感。そんな丁寧に生産者に寄り添うバイヤーだった芳樹さんは、世界的に有名なシャンパンの醸造家から、こんな問いを投げかけられ、そして人生に関わるアドバイスを受けたのだという。

自分にしかできない価値を生み出すためにコーヒーの世界へ

「君は人が作ったものを吟味し、買い付けて日本に広めるという仕事をしているが、そこに自分ならではの価値の創造があるのか?小さくてもいいから、自分ならではの価値を生み出す仕事をしたほうがいい」。芳樹さんは「ハッとしましたね。バイヤーとして働く中でやりがいは感じていましたが、今の仕事を通して自分ならではの価値を生み出せているかと問われると、それはNOだと感じました。その言葉を投げかけられ、私だからこその価値を生み出せる“仕事”をしようと決心しました」と当時を振り返る。

作り手たちの物語に思いを馳せる

焙煎はほぼ独学。芳樹さんと美佐さんで試飲を繰り返し、よりよい焙煎プロファイルを模索

もともと前職の仕事柄、ソムリエの資格を有し、ワインへの造詣が深い芳樹さんと、チーズプロフェッショナルや薬膳コーディネーターの資格を持つ美佐さんだけに、独立するにあたり“食”に関連した事業にすることは決めていたそうだが、なぜコーヒーを柱に、かつロースタリーという道を選んだのか。

「祖父や父が、豆から挽いてハンドドリップでコーヒーを淹れて楽しむのが日常で、私自身、子どものときからコーヒーを一緒に飲んでいたのが理由のひとつ。さらにワインも木に実るブドウが原料で、コーヒーも同じようにコーヒーチェリーと呼ばれる果実から作られます。なによりスペシャルティコーヒーの定義である『From seed to cup』は、まさに私がバイヤーとして働いてきた19年間大切にしてきた考え方と通ずるものがあると強く感じました。生豆を厳選し、焙煎を通して自分ならではの価値を生み出そうと考えました」と芳樹さんは話す。

ドリップバッグで味比べをするのもおすすめ

開業当時から一貫してそういった考えを持っていたが、「特に2024年になってから理想的な環境になってきた」と続ける。その要因が自分たちが掲げているポリシーに合う生豆の仕入先と出合ったことだ。

芳樹さんは「前職の経験もあり、これまでもできるだけ自分の考え方に合う仕入先とお付き合いさせていただいてきましたが、最近出会ったインポーターさんは小規模ですが、生産者さんの顔が見えるお取引をされており、とても共感できる点が多い。たとえば、その方から仕入れた豆がこれです」と2つの豆をすすめてくれた。それが、タイ ドイパンコン ウォッシュド、インドネシア バリ島 ウォッシュドだ。インドネシアのコーヒーは比較的ポピュラーだが、バリ島のものは珍しい気がするし、タイのコーヒーも目にする機会はさほど多くない。

芳樹さんは「直接足を運んだわけではないですが、どんな環境でどんなこだわりをもって栽培されたか、それに裏付けされる品質のよさを説明いただき、仕入れることにしました。商社勤務時代もそうでしたが、裏側に流れる作り手の物語をちゃんと説明できるものを胸を張って販売できることが、私たちにとっても理想」と話す。

すっきりとした味わいを表現するために店では円錐形ドリッパーを採用

そんな「ウミノネコーヒー焙煎所」のコーヒーは、ソムリエ視点でワインと似た味わいの表現をしているが、どれもとても飲みやすい印象。生豆の香りは引き立てつつ、後味はすっきりとしている。深煎りでもいわゆる中深煎り程度の焙煎度合いで、苦みよりもフルーティーさ、甘味を大切に焙煎をしている印象。さらにどこか野性味、その生産国の風土を感じさせる味づくりを行っているのも特徴的だ。

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