異常気象が常態化!気象予報士の高森泰人さんに聞く、これからの日本の天気
東京ウォーカー(全国版)
猛暑、ゲリラ豪雨、線状降水帯と、私たちの周りでは異常気象が日常化しつつある。かつては四季の美しい移ろいを感じられた日本の気候も、地球温暖化によって大きく変貌してきている。真夏日のような暑さが春から秋まで続き、短時間に大量の雨が降る「ゲリラ豪雨」が頻発。さらに、「線状降水帯」や「爆弾低気圧」といった聞き慣れなかった気象用語も、日々のニュースに登場するようになった。このような気候変動に伴う気象現象の激じん化は今後も続くのか、日本の天候にどんな影響があるのか。今回は、一般財団法人日本気象協会の気象予報士である高森泰人さんに、近年の異常気象や気候トレンドについて話を伺った。気象予報の現場から見える日本の天気の未来と、私たちが備えるべきことについて深掘りしていく。
四季の変化に異変あり!地球温暖化で変貌する日本の気候トレンド
ーー近年観測されている異常気象や天候パターンの変化について教えてください。
【高森泰人】そうですね、やはり「猛暑」というのがひとつのキーワードになっています。日本全国にアメダスの観測地点があるんですが、日中の最高気温が35度以上の「猛暑日」を記録した場所が何地点あったかを計算してみると、昨年(2023年)は7084地点ありました。そして、今年はそれを超えて1万地点を突破するほどです。今までには考えられなかったほどの猛暑で、期間も長く、日数も増えています。このように、猛暑が顕著な特徴として見られます。
【高森泰人】さらにもうひとつ注目すべきは「短時間に降る強い雨」が増えている点です。気象庁のデータによると、1時間に80ミリ以上の猛烈な雨、いわゆるシャワーの中にいるような激しい雨が、1980年ごろと比べて2倍に増えているんですよ。ここ10年ほどは横ばいではありますが、ひと昔前と比べると、短時間の強い雨は確実に多くなってきています。
【高森泰人】それから、「線状降水帯」という言葉を最近よく聞くようになったかと思いますが、この線状降水帯が発生する頻度も、過去45年間の観測結果から見ると増えてきていることがわかっています。つまり、猛暑と短時間の強雨、この2つが日本の異常気象のキーワードといえるでしょう。
ーー日本全体が亜熱帯気候のようになってきている気がしますね。
【高森泰人】そうですね。地球全体が温暖化している影響もありますが、エルニーニョ現象やラニーニャ現象も関係しています。これらの現象については後ほど詳しく説明しますが、これによって太平洋高気圧の位置が変わっていくんです。今の状況でも、この太平洋高気圧が平年よりも少し北側に位置しています。そのため、相対的に暖かい空気が日本付近まで近づいてきているんです。こうした要因が重なって、アジアの亜熱帯に近い気候に感じられるところがあるのではないかと思います。
ーー現在の気候傾向が、日本の標準になりつつあると考えていいのですか?
【高森泰人】徐々にそうなりつつあると思います。地球全体が以前とは異なる気候パターンになってきているなかで、日本もその影響を受けています。また、高緯度帯や赤道付近に比べ、中緯度帯が特に気候変動の影響を受けやすいと言われています。日本付近もその中緯度帯に位置しているため、影響が大きいんです。ヨーロッパやアメリカも同様の状況だと思いますが、さらに日本の場合は海に囲まれているという特徴も加わっています。
ーーなるほど、そうした地理的環境の影響も大きいんですね。
【高森泰人】そうなんです。日本の気候には、太平洋高気圧がもたらす暑くて湿った空気や、春や秋に影響を与える大陸からの揚子江気団と呼ばれる移動性高気圧、冬の寒気を持つシベリア高気圧、オホーツク海からの冷たくて湿った空気など、さまざまな気団が関わっています。ですが、太平洋高気圧が以前よりも強まり、暑い空気が日本に入り込みやすくなっているんです。そのため、一年を通じて熱帯のような空気に覆われやすくなってきていると言えますね。
ーー日本は地理的に気候の影響を受けやすい環境の国なんですね。
【高森泰人】まさにその通りです。地理的な条件も相まって気候の影響を受けやすい環境にあるうえ、さらに太平洋高気圧が強まっていることで、その影響が一層大きくなっています。
ーー四季のある日本ですが、季節ごとの気候トレンドや、ここ数年で特に顕著な変化が見られる気象パターンについて教えてください。
【高森泰人】一昨年までの傾向として、春の桜の開花時期が非常に早まっているのが特徴的でした。私は今五十半ばですが、昔は学校の入学式のころに桜が咲いていたものです。今では卒業式に桜が咲いていることが多くなり、季節感がだいぶ変わってきています。昔の曲は桜のイメージが入学シーズンと結びついていましたが、今の若い世代の方が感じる桜の季節感は、私たちの時代とは違うかもしれませんね。
【高森泰人】もっとも、今年は開花間近の時期に寒気が流れ込んだ影響で、桜の開花が少し遅れました。1月から3月の寒さが予想以上で、気象庁も含めてあれだけ長く寒い時期が続くとは予測できていなかったんです。ですが、ここ数年間は開花が非常に早く、あっという間に満開になっていました。おそらく来年以降も、桜の開花時期は昨年までの傾向が一般的になるでしょう。
【高森泰人】さらに、夏の期間が長くなっていて、「秋はあるのかな?」というまま冬に突入するような年が増えています。今年もまさにその傾向で、先日の3カ月予報でも11月までは気温が高いとされていますが、12月になると一気に気温が下がり、例年並みの冬に入ると予想されています。
ーー特に今年の秋は、日中ならTシャツで過ごせるほど暖かい日がありましたね。
【高森泰人】私も暑がりなので、日中の暖かさは正直つらいです(笑)。11月まではこの暖かい気温が続くと見られていますが、12月に入ると一気に寒さが訪れ、平年並みの冬になると予測されています。ただ、今年は海水温が高い影響で、雪の量が多くなる可能性があるんです。日本海の水温が高いと、大雪のもととなる水蒸気が多く発生し、冷たい空気が流れ込むと日本海側で大量の雪が降ることが多いんです。例年通りの寒気が入っても、海水温の影響で雪の量に違いが出てくると見込まれています。
ーー世界的な気候変動が日本に及ぼす影響について、詳しく教えていただけますか?
【高森泰人】2023年以降、気温の基準となるベースが上昇し、1週間ごとの気温推移を見ても、平年より高い日が続いている状況です。通常なら、平年より高い時期があれば、それを相殺するように平年より低い時期もあるものですが、最近はずっと高い状態が続いているんです。この高い基準がさらに上昇していくのが、気候変動の大きな特徴だと言えます。また、日本は周囲を海に囲まれているため、海水の温度が高いとしばらくその状態が続きやすいんです。水というものは温まりにくく冷めにくいという性質があり、この性質により日本周辺の海水温が、例えるならば「ぬる湯」から「湯」に変わってしまったような状況になっています。
ーーその状況が持続しているということですか?
【高森泰人】そうですね。日本周辺の海水温が高くなることで、水蒸気量も例年より増加し、それが熱帯地域に似た気候に近づいている要因になっています。海水温が高いと、台風の発達にも影響が出ます。台風は通常、海水温が28度以上で発達しますが、今年フィリピンに影響をもたらした台風20号も例年より高温の海水で強い勢力を維持して通過しました。さらに、台風21号も沖縄の先島諸島に向かって発達しています。東シナ海などの温度が低い海域に差し掛かかると急激に弱まるものの、熱帯低気圧として発達したままの形で11月2日、3日ごろに日本近くまで上がってくる可能性が出ています(※本インタビューは10月28日に実施。実際、11月2日は全国的に大荒れの天気となり、東海道・山陽新幹線が運転を見合わせたり、各地で冠水するなど、大きな影響や被害をもたらした)。それでも、11月に入っても台風が発達するほどの海水温になっているのは異常で、これまで11月に台風が日本に上陸した例はごくわずかです。
ーー確かに、11月に台風の印象はありませんね。
【高森泰人】最も遅い台風上陸記録は1990年11月30日の和歌山県白浜町でした。今年はそこまでには至らないと予測されていますが、10月末でも台風が発生することはやはり異例です。今年は台風だけでなく、海水温が高いことで雪の量も増える可能性が指摘されています。冬場に温かい海水から蒸気が上がり、日本海に冷たい空気が流れ込むと、その温度差で水蒸気がどんどん発生します。温泉に入ると冬のほうが湯気が大きく立ち上るのと同じような現象です。こうした水蒸気が雲を形成し、山間部に雪を降らせるのですが、今後も海水温が高いことで雪の量が多くなると予測されています。
ーー降水量や雪が増える条件が整っているということですね。
【高森泰人】その通りです。北日本の日本海側の海水温も例年より海域によっては約2度高い状態が続いており、こうした海水温の上昇が今後の気候に大きな影響を及ぼすでしょう。高温の海水があることで、台風の発達や大型化、さらには降水量の増加による災害リスクも高まってきます。特に、日本のすぐ南で台風が発生し、そのまま発達して上陸する可能性も増しているので、今後も台風や異常気象に対する警戒が必要ですね。
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