異常気象が常態化!気象予報士の高森泰人さんに聞く、これからの日本の天気
東京ウォーカー(全国版)
日本の気象を支える最先端の予測システムと防災情報の進化
ーー天気の予測精度を向上させるために利用されている最新の技術やシステムについて教えていただけますか?
【高森泰人】今の天気予報は、観測データの収集、大型コンピューターでのシミュレーション、そして予測結果の補正、この3つのプロセスで行われています。特に、線状降水帯の予測が難しいのは、水蒸気量の正確な観測が難しいためです。そのため、アメダスや気象レーダーなどの観測機器が高性能化しており、水蒸気や雨雲の状況を正確に捉えることが重要になっています。最近では、アメダスの一部で日射量の観測を湿度測定に切り替えるなど、水蒸気量を正確に測るためのシステム改良が進められています。さらに、数値シミュレーションの結果を現実の予報に応用するガイダンスデータも、今ではAIに置き換えられつつあります。AIの学習能力を活かすことで、より高精度な予測情報が得られるようになり、私たち日本気象協会でもAIによる予測モデルの開発を進めています。
【高森泰人】また、気象衛星「ひまわり」からの観測データも飛躍的に増えており、観測機器や衛星データの精度向上によって、シミュレーションに使う元データが充実し、より正確な予測が可能になっています。こうした技術の進化によって、天気予報の精度がさらに高まっている状況です。

ーーAIがどのように天気予報の精度向上に寄与しているか、少し詳しく教えていただけますか?
【高森泰人】AIの活用が予報精度に貢献しているのは、予測シミュレーションの結果に補正を加えられる点にあります。現在、2キロメートルや4キロメートルといった細かい精度でシミュレーションを行っていますが、それでも計算上表現できない要素や不足している情報が残る場合があります。AIはそのような「存在しない要素」を補完し、予測結果に反映することができるのです。
ーー日本の天気予報の技術について、他国と比較した際の強みや特徴があれば教えてください。
【高森泰人】日本の天気予報の強みは、気象観測データの計算に使われるコンピューターの性能もさることながら、その計算精度の細かさにあります。例えば、ヨーロッパの気象予報モデルでは、予測精度を10キロメートル単位に設定して計算していますが、日本の気象庁や日本気象協会では、2キロメートルから5キロメートル単位まで細かく予測を行うことができるんです。この高精度な計算が、日本の天気予報の大きな特徴であり、強みと言えます。
【高森泰人】日本は地理的に中緯度帯に位置し、気団の境目にあるため、災害リスクが高い地域が多いんです。そのため、ゲリラ豪雨や線状降水帯といった局地的な気象現象の予測精度を上げる必要があり、特に地域ごとの警報や「キキクル(危険度分布)」のような詳細な情報の提供にも力を入れています。こうした詳細な予測情報は他国にはないもので、日本の気象予報がより高度化されている部分ですね。また、予測の速さも重要で、計算が迅速に終わらないと予測自体の価値が損なわれてしまいます。そのため、日本では計算時間を最適化し、短時間で精密な予測ができるシステムが構築されています。こうした細かくリアルタイムに近い予測が、日本の気象予報の特徴といえますね。
ーーそう言われてみると日本の天気予報は緻密ですよね。
【高森泰人】そうなんです。ヨーロッパは生活のリズムに合わせて中期予報、つまり数日から1週間先の予報を重視する傾向があります。特にバカンスが大切な文化なので、先の天気を見て予定を立てることが多いんですね。私たちも中期予報の面ではヨーロッパの予報モデルを参考にさせてもらっています。
【高森泰人】一方で、日本では1時間後や5分後の天気を知りたいという、超短期予報が求められる傾向があります。日本の予報は、生活に密着している分、より細かく精密な情報が重要視されるんです。実際、海外から来られた方が驚かれるのは、この細かすぎる天気予報ですね。「これほど細かい予報が必要なのか?」とよく驚かれますが、日本ではそれが普通なんです。
ーー現在の防災情報の具体的な提供方法について教えていただけますか?
【高森泰人】台風の場合、気象庁は5日先までの進路予測を出していますが、日本気象協会では、気象庁の予報モデルだけでなく、他国の予報モデルも参考にして、10日先までの台風進路を予測することもあります。台風進路の予測では、確実性が増すように、複数のシナリオを用意します。例えば、進路の可能性を40パーセント、25パーセント、20パーセントといったように3つのシナリオを示し、台風の進路とともに、雨や風のピークを予測します。これによって、いつ雨がピークを迎えるか、河川やダムの水位がどれだけ上がるかなどを見極め、インフラ管理にも役立てていただけるようにしているんです。
【高森泰人】また、防災情報は、「tenki.jp」の「気象予報士のポイント解説(日直予報士)」や防災レポートといった形でも提供しています。これにより、台風や豪雨の際、100ミリ超えや200ミリ超えの降水が発生する確率をパーセントで予想、表示し、わかりやすく伝えるよう工夫しています。例えば、房総半島では200ミリを超える確率が100パーセントでも、駿河湾では20パーセントといったように、リスクを細かく示して、視覚的に理解しやすい防災情報を提供しています。
【高森泰人】このリスク情報には、アンサンブル予報と呼ばれる技術を使っています。最初の予測計算で51通りの微妙に異なるシナリオをシミュレーションし、そのばらつきを分析して確率を算出するんです。こうして得られたシナリオに基づいて、複数のケースを想定した情報を提供します。「このシナリオではこの時間帯に雨がピークになります」「風はこの時間帯に強まります」といった形で、具体的なリスク情報を提示できるんですね。これにより、設備やインフラの管理を行う方々に、より適切に活用していただける防災情報を提供できるよう努めています。

ーー災害時に取るべき行動や対策について、日本気象協会が伝えている重要なポイントがあれば教えていただけますか?
【高森泰人】災害時に重要なのはリスク情報を早期に把握し、最適な判断を行うことです。台風の場合、1週間ほど前から「台風が接近しています」と警告が始まりますが、その時点で予測には複数のシナリオがあります。例えば、「最も危険なパターン」「雨は少ないが風が強いパターン」「影響が軽度なパターン」といった複数のシナリオを提供することで、どのパターンが発生しても備えられるよう情報を工夫しています。こうしたシナリオがあることで、利用者は自分が取るべき行動を判断しやすくなるのです。
ーーなるほど、自分が動く際の指針になるわけですね。過去の経験から、効果的な情報提供の方法や、今後強化したい点があれば教えてください。
【高森泰人】そうですね、災害情報提供において重要なのは、単なる「総雨量」ではなく、その地域ごとの影響度を把握することです。例えば、100ミリの雨量は和歌山県南部では日常的なものですが、北海道で100ミリ降ると非常に大きな影響が出て、河川の氾濫などが起こりやすいです。そのため、日本気象協会では全国各地の降雨量や被害データをもとに、過去の最大降雨量と比較し、今回の雨がその地域にどれほどのインパクトを与えるかを算出しています。
【高森泰人】私たちはこの指標を「既往最大比」と呼んでおり、例えば「既往最大比が150を超える場合、人命に関わるリスクが高まる」といった形でリスクを伝えています。この指標により、どの程度の雨量がその地域にとって危険かがわかりやすくなり、人々の避難判断やインフラ管理の際に役立ててもらえるようにしています。このように、地域に根ざしたリスク情報を提供することが今後も重要だと考えています。

ーー天気にまつわる仕事も、さまざまな分野に広がっているわけですね。
【高森泰人】本当にそうですね。日本気象協会は戦後、1950年に設立されました。もともとは戦後の荒廃した国土の強靱化、特に橋や河川、ダムの整備など大規模な建設に必要とある気象情報、防災情報を提供してきましたが、今では洋上風力発電や太陽光発電といった再生可能エネルギーに関するコンサル業務も重要な業務のひとつとなっています。
【高森泰人】例えば、洋上風力の発電施設の設置場所を選定する際に、その地域の風の特性や天候パターンを調査しますし、太陽光発電の発電量予測も、気象データを用いて行っています。再生可能エネルギーの発展に伴い、こうした気象データの活用がさらに重要になってきているんです。
ーーそれは、全く予想できない事業でした。気象データは我々だけでなく、さまざまな企業の事業にも役立てられているんですね。本日はありがとうございました。
気候変動の影響が身近に感じられる昨今、天気に対する私たちの意識は確実に変化している。日本における猛暑や線状降水帯の増加、台風の発達により、かつての四季の姿は徐々に変貌しつつある。今回、高森泰人さんから聞いたお話は、まさにこの「異常」が当たり前となりつつある現実を突きつけてくれるものだった。日々進化する予報技術と防災システムに支えられ、私たちは新たな気候環境と共存していくための準備を求められている。気象予報は単に天気を伝えるだけでなく、災害リスクの把握や避難指示、再生可能エネルギーといった分野にも影響を与える。その重要性が今後ますます増していくなか、個々に天気予報をチェックし、いざという時に判断する意識を高めておくのがベストだろう。
取材=浅野祐介、取材・文=北村康行、撮影=藤巻祐介
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