異常気象が常態化!気象予報士の高森泰人さんに聞く、これからの日本の天気

東京ウォーカー(全国版)

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線状降水帯や爆弾低気圧とは?近年よく聞く天気用語を解説


ーー最近よく耳にする天気用語についても教えていただきたいのですが、まず「線状降水帯」についてです。最近は頻繁に聞くようになりましたが、以前はほとんど耳にしませんでしたね。
【高森泰人】次々と発生する発達した雨雲(積乱雲)が列をなし、数時間にわたってほぼ同じ場所を通過または停滞することで作り出される長さ50~300キロメートル程度、幅20~50キロメートル程度の線状に伸びる強い降水域を線状降水帯といいます。線状降水帯という言葉が定義されたことで、ニュースなどでも取り上げられるようになりました。観測技術が向上し、精密な解析が可能になったことも大きいですね。例えば、1982年7月に発生した長崎豪雨も、今でいう線状降水帯によるものと考えられます。昔から存在する気象現象ではあるものの、水蒸気の量が増えたり、観測精度が上がったことで、近年になって特に注目されるようになったんです。気象庁も線状降水帯に関する情報を発信するようになり、それが耳に入りやすくなってきたのではないでしょうか。

ーーなるほど、定義されるとともに耳にする機会が増えたわけですね。
【高森泰人】その通りです。

ーーでは、「爆弾低気圧」について教えてください。具体的にはどのような現象なのですか?
【高森泰人】「爆弾低気圧」は急激に発達する低気圧を指すもので、実は気象庁が公式に使っている用語ではないんです。気象庁の公式サイトには「気象庁が天気予報等で用いる予報用語」として気象用語がリスト化されていて、「爆弾低気圧」はその中には入っていません。気象庁では「急激に発達する低気圧」と表現することが多いですね。

【高森泰人】日本付近の緯度でいうと、24時間で20ヘクトパスカル以上気圧が下がった場合に、一般的に「爆弾低気圧」と言われます。この現象は、春と秋に多く発生します。北からの冷たい気団と南からの温かく湿った気団がぶつかり合うとき、気温差によって低気圧が急速に発達し、強風や大雨をもたらしやすくなります。日本海側を通ると、春なら「春一番」として風が吹き荒れることもあります。秋には「秋一番」という言葉はありませんが、同様に強い低気圧が発生しやすい時期です。特に春先は、積雪のある地域に暖かい空気が急激に流れ込み、雪解けが進むことで下流で増水するケースもあります。そうした間接的な影響を考えても、「爆弾低気圧」は注意すべき現象です。これも日本が中緯度帯に位置しているために、寒冷・温暖の気団がぶつかりやすい地理的条件が影響しています。

24時間で20ヘクトパスカル発達し、中心付近の気圧が下がれば「爆弾低気圧」と呼ばれるそう【撮影=藤巻祐介】


ーー大雨といえば、「ゲリラ豪雨」もよく耳にしますよね。
【高森泰人】「ゲリラ豪雨」というのは、局地的に非常に激しく降る雨のことを指しますが、具体的に何ミリ以上というような明確な定義はありません。また、気象庁でも明確に定義しておらず、メディアによっては「ゲリラ豪雨」という表現を控える場合もあります。いわゆるゲリラ豪雨は予測が非常に難しい現象で、気象庁でも時間的なスケールや空間的なスケールの限界があり、予測は難しい面があるんです。

【高森泰人】例えば、梅雨前線や台風は2〜3日前から予測が可能ですが、ゲリラ豪雨の場合は予測可能な範囲が2〜3時間程度に限られます。梅雨前線はスケールが1000キロメートル程度ですが、ゲリラ豪雨は直径10キロメートル程度の積乱雲が原因で、その影響範囲も30〜50キロメートルほどしかありません。さらに、そのなかで竜巻が発生するかどうかを予測するとなると、範囲は100メートル単位になり、発生直前にしか予測できません。そうしたスケールの小ささから、ゲリラ豪雨は予測が非常に難しいんです。

【高森泰人】具体的には今年の夏、埼玉県などで10分単位で雲が急速に発生し、激しい雨が降ったかと思えば短時間で収まる、ということが頻繁に見られました。さらに、「雨柱」と呼ばれる現象もゲリラ豪雨の特徴です。周囲が降っていない中で、狭い範囲に集中して10ミリや20ミリ以上の雨が降ることで雨柱が見えたりします。ゲリラ豪雨は、短時間で小規模ながら非常に強い雨が局地的に降る現象を指すんですね。

天気予報専門メディア「tenki.jp」で報じられた「雨柱」



ーー昔は、夏の夕方に降る突発的な豪雨を「夕立」と呼んでいましたが、「ゲリラ豪雨」に変わってしまったのですか?
【高森泰人】夕立という言葉は今でも使われていますが、近年は雨の強さやインパクトが増してきており、それに「ゲリラ豪雨」という言葉がしっくりくるようになったのかもしれません。夕立というと、ザーッと降って少し涼しくなり、虹が出ることもあるような「夏の風物詩」のイメージですよね。しかし、ゲリラ豪雨は、川が溢れたり、膝まで水に浸かって歩かなければならないような激甚な現象で、夕立とは印象が違います。気象現象が激しさを増し、ゲリラ豪雨が増えたことで、夕立から言葉が変わりつつあるんですね。

ーーそもそも、こうした気象用語は誰が考えているんですか?
【高森泰人】おもしろい質問ですね。実は、「前線」などの用語も誰が考えたのかはっきりしていません。「桜前線」などの用語はおよそ60年前に広まりましたが、どうもベトナム戦争のころに天気予報番組で使われたのがきっかけとも言われていますが、諸説あるようです。

ーー夏や冬になると、「真冬日」「真夏日」「猛暑日」というワードを連日のように耳にします。これらはどれくらいの気温でそう呼ばれるのですか?
【高森泰人】まず「真冬日」は、1日の最高気温が0度未満の日を指します。「真夏日」は1日の最高気温が30度以上の日、そして「猛暑日」は1日の最高気温が35度以上の日ですね。これらはすべて気象庁が定義しているものです。ただ、私たち日本気象協会では、2022年の夏に「酷暑日」という新しい基準を設けました。これは、1日の最高気温が40度以上の日を指します。東日本では今年7月末までに66回も観測されていて、40度近くまで上がる日も多くなっています。こうした基準を設けた背景には、熱中症の予防啓発があります。気象庁は現在「猛暑日」までしか定義していませんが、気温が上がり続ける傾向が続く中で、40度を超える「酷暑日」も増えていくでしょう。来年も今年の傾向をさらに上回って増加するのではないかと思います。

日本気象協会では2022年の夏から、1日の最高気温が40度以上になる日を「酷暑日」としている【撮影=藤巻祐介】


ーー「エルニーニョ現象」と「ラニーニャ現象」についても教えていただけますか。
【高森泰人】エルニーニョ現象とラニーニャ現象は、海面水温の変動による気象現象のことで、それぞれが異なる影響を与えます。エルニーニョ現象が発生すると、フィリピンやインド洋付近の海水温が平年より低くなります。これにより、積乱雲や上昇気流の発生が例年より少なくなります。その結果、上昇気流と下降気流が弱まるため、太平洋高気圧も弱くなり、日本の夏は比較的涼しくなる傾向があります。

【高森泰人】一方、ラニーニャ現象は逆のパターンです。この現象では、フィリピンやインド洋付近の海水温が高くなるため、積乱雲が多く発生し、強い上昇気流が生じます。これにより、下降気流も増え、太平洋高気圧が強まりやすくなります。結果として、太平洋高気圧が日本付近まで厚く広がり、日本の夏は非常に暑くなる傾向が見られるのです。

ゲリラ豪雨などによって、落雷も頻繁にみられるようになった。日本気象協会関西支社から見えた落雷提供画像


ーー今後、我々が理解しておくべき、覚えておくといい気象用語や概念があれば教えてください。
【高森泰人】ひとつは「防災気象情報」についてです。現在、気象警報や注意報、特別警報などの防災気象情報が発表されていますが、これらの体系が将来的に整理され、変更される予定です。例えば、河川の状況はレベル1から5までで危険度が表示されていますが、気象情報にはレベル4までしかないものや、他の情報と整合性が取れていないものもあります。こうした不整合を解消し、わかりやすくするために、国土交通省と気象庁が協議を進めており、洪水注意報などの名称が変更される可能性もあります。この情報は、命を守るための避難行動につながるものなので、どのように変わるか注目していただきたいです。

【高森泰人】もうひとつ注目すべきは「海洋熱波」です。これは海水温が平年以上に高い状態が続く現象で、気象や生態系に大きな影響を及ぼします。最近では、北海道でブリが多く取れたり、利尻や礼文でウニが取れなくなったり、鮭の漁獲量が減少するなど、海洋熱波の影響が顕著に見られます。台風の発達や北日本の異常な高温も、この海洋熱波が関係しているのではないかと考えられており、今後、食料生産や水産物への影響も懸念されます。

【高森泰人】そして最後に、メモとして覚えておいてほしいのですが、「国土交通省と気象庁が共同で記者会見を行うときは、非常に危険な状況にある」ということです。例えば、大雪や台風、線状降水帯の発生、梅雨が活発になって長雨が続くような場合に、両省庁が共同で記者会見を行うことがあります。こうした記者会見が行われるときは非常に警戒が必要で、生命や財産に危機的状況を及ぼす「キケンな状況」だと考えたほうがいいでしょう。そのような際には、気象情報を頻繁に確認し、避難準備などの対策を検討し始めることが大切です。

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