増加中の“不登校児”への適切な治療とは?発達障害の子を持つ専門医が治療法について問題提起

東京ウォーカー(全国版)

X(旧Twitter)で
シェア
Facebookで
シェア

2024年10月に文部科学省が行った「不登校児に関する調査」で、小・中学校の不登校児童生徒数が11年連続で増加し、約34万6000人であることが判明。

そのうち学校内外の機関で専門的な相談・指導などを受けていない児童生徒数が約13万4000人、その中でも90日以上欠席しているのが約6万7000人と、いずれも過去最多となった。また、高等学校の不登校の生徒数も約6万9000人と、過去最多という結果となった。

この問題に対して、島根県出雲市で不登校児を専門に診ている出雲いいじまクリニックの院長・飯島慶郎さんに、不登校児への接し方や保護者が気をつけるべきことなどについて話を聞いた。

年々増加する不登校児。その原因と適切な対応とは?


不登校の背景に潜む精神疾患と発達障害

不登校とは、「何らかの心理的、情緒的、身体的あるいは社会的要因・背景により、登校しないあるいはしたくともできない状況にあるために年間30日以上欠席した者のうち、病気や経済的な理由による者を除いたもの」(文部科学省 公式サイトより)と定義されている。

この定義に当てはまる子どもが、2025年現在では35万人を超えたという。その要因は明確ではないが、スマートフォンの普及とともに増加の傾向が見られるため、何らかの関係が示唆されている。

【画像】2024年のデータでは小・中学校合わせて約34万6千人もの不登校児が報告されている


「不登校児が増え続ける背景には、子どもたちにもメンタル系の病気を持つ人が増加しているのではないかと推測しています。不登校が続く要因としては『無気力』『不安』『生活リズムの乱れ』、大人でも社会問題として考えられている『うつ病』など。また、『注意欠陥多動症(ADHD)』、『自閉スペクトラム症(ASD)』といった発達障害も不登校の子どもたちにも見られ始めています」

意外なことに、不登校の要因として真っ先に思いつく「いじめ」は、上記の理由よりも少ないという。さらに、子どもたちは自分の状態を表現できる語彙力がまだ未発達なため、不登校の理由についてうまく説明できない。そのため、「面倒くさい」や「疲れた」「だるい」などと表現してしまうようだ。

不登校となってしまう要因として、意外にも「いじめ」より「無気力」や「不安」が多い

子どものボキャブラリーは大人よりもずっと少なく、自分の気持ちをうまく伝えることができない


「海外の論文を見ると、『不登校の背景には精神疾患があるケースが多い』と当然のように記載されていますが、日本ではその認識はまだありません。『子どもは精神疾患にならない』という誤ったイデオロギーが一般だけでなく医師の中にもあるせいです。さらに言えば、大人への反抗で不登校になる“非行型の不登校”の古いイメージを引きずっていて、今の不登校の背景が理解できないままになってしまっているとも思います」

実際には、若年層のほうが精神疾患を発症する可能性が高いのだとか。生涯で発症する精神疾患は、7歳までの発症が25%、14歳までが50%、24歳までが75%というデータもあり、世界保健機構(WHO)の見解としても、「若年層こそ正しい治療を施すべき」としている。

子どもでも適切な治療に薬剤は必須

出雲いいじまクリニックでは、診察は子どもと保護者で一緒に行うという飯島さん。多くの場合、子どもと保護者それぞれ個別で聞き取りを行うのが主流であるが、そうしないのはなぜなのか。そこには、2つの理由があった。

「一つは、子どもの本当の状態を保護者に正しく理解してもらうためです。不登校が子どものせいではなく、ベースにうつ病やADHDなどの病気があるせいだと知ってもらわなければなりません。もう一つは、クリニックの経営面からです。そもそも、精神疾患の初診は1時間以上かかることが多く、子どもの場合はさらに時間がかかります。そうなると、一日の診察可能な人数が少なくなってしまい、経営が成り立たなくなってしまうのです。この点は、苦労している児童精神科も多いと思います」

飯島さんは出雲市で不登校を専門にメンタルクリニックを開業


診察を終え、診断名がつくと治療が始まる。飯島さんは治療方針として、薬剤による治療を積極的に取り入れているそう。「子どもだからといって薬がいらないわけじゃない」と飯島さんは語る。

「風邪や腹痛、がんにいたるまで、どんな病気にも治すためには薬が必要です。うつ病の子どもには抗うつ薬を、ADHDの症状がある子には抗ADHD薬を処方するのが適切だと考えています。少ない用量からスタートして、副作用に注意しながら有効用量までしっかり使うことで、困っている症状を早期に治療することが大切です」

この考えには、子どもの親や医療従事者から「子どもに薬を使うなんて」と抵抗感をあらわにされることもあり、「カウンセリングを中心に治療にすべき」という声もあるそうだ。しかし、飯島さんは「カウンセリングは悩みを解決するもので、病気を治してくれるものではない」と話す。

「児童精神」への関心が高まったのも1970~1980年ごろと言われており、ほかの精神疾患と比べて研究も進んでいない


発達障害の子どもに親ができること

飯島さんにも発達障害を抱える子どもがおり、現在不登校となっているという。そのため、治療者側だけでなく親としての経験もあり、保護者の立場からできることもレクチャーしている。

「いろいろな病院を回って、何をやってもダメで、親も子どももボロボロの状態になって受診する家族をたくさん見てきました。私自身の経験を踏まえて、保護者の接し方などの相談にも応じています。その際は、患者である子どもと一緒に話をしながら関わり方を決めるようにしています」

飯島さんが大切にしているのは、「病気を治してあげること」と「症状を抑えてあげること」。あくまで医師は治療者の立場であり、友達ではないので、言いたくないことを話す必要はないのだそう。「困っていることを話してくれるだけで大丈夫なんです」と飯島さん。

発達障害の子どもへの接し方や治療については、まだまだ歴史が浅く専門医も少ないのが現状だ。日本では年々晩婚化が進み、高齢出産が増えたことから発達障害の子どもが生まれるリスクも自然と上がってしまっているそうで、より包括的に受け入れる施設や機関を整備する必要がある。

不登校の子どもを支えるシステム構築や親と医療者側の正しい認識も必要


特に夏休みなど、長期休暇明けには学校へ行き渋る子どもが増える傾向にある。そうした際に適切な対応を知っておくことが大切なのかもしれない。

取材・文=織田繭(にげば企画)

※記事内に価格表示がある場合、特に注記等がない場合は税込み表示です。商品・サービスによって軽減税率の対象となり、表示価格と異なる場合があります。

この記事の画像一覧(全7枚)

キーワード

カテゴリ:
タグ:
地域名:

テーマWalker

テーマ別特集をチェック

季節特集

季節を感じる人気のスポットやイベントを紹介

花火特集

花火特集2025

全国約900件の花火大会を掲載。2025年の開催日、中止・延期情報や人気ランキングなどをお届け!

CHECK!2025年全国で開催予定の花火大会

おうちで金麦花火セット

夏休み特集2025

夏休み特集 2025

ウォーカー編集部がおすすめする、この夏の楽しみ方を紹介。夏休みイベント&おでかけスポット情報が盛りだくさん!

CHECK!夏祭り 2025の開催情報はこちら

おでかけ特集

今注目のスポットや話題のアクティビティ情報をお届け

アウトドア特集

アウトドア特集

キャンプ場、グランピングからBBQ、アスレチックまで!非日常体験を存分に堪能できるアウトドアスポットを紹介

ページ上部へ戻る