目黒の森で出合う、都市のオアシス──国立科学博物館附属自然教育園で都心の暮らしに“深呼吸”を。

東京ウォーカー(全国版)

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都会に暮らす私たちが、ときどき無性に「緑」を欲しくなる理由はなんだろう。仕事、家事、人間関係が複雑に絡み合って隙間のない生活を送っているからかもしれない。実は、都市生活者はストレスを感じると、無意識に緑を求めるといわれている。遠出はしにくい。でも自然に触れたい。そんなジレンマを抱える多忙な都市生活者にこそ、知ってほしい場所がある。都会のど真ん中に、静かに息づく“東京の生物多様性を守る森”がある。それが国立科学博物館附属自然教育園だ。

目の前の大通りから一歩入っただけで、空気が変わる。森を感じる場所画像提供:国立科学博物館附属自然教育園


東京ドーム4.2個分の広大な森が、目黒駅からわずか徒歩約7分のところにある。この意外性が、まず心をつかむ。心が緑を求めるくらいのストレスを感じてしまう前に、リフレッシュしに行ってみたいおすすめスポットだ。

ACCESS|目黒から徒歩約7分。都会にあるとは思えない、平坦で優しいアプローチ

目黒駅・白金台駅のどちらからもアクセス良好。坂の多いエリアにありながら、自然教育園までの道のりは不思議と平坦で歩きやすい。歩きながら周りを見るとおいしそうなお店も多い。ランチをしてから自然教育園へお散歩に行くというのもおすすめだ。

駅から続くまっすぐな道。ベビーカー、車椅子、どんな人にも歩きやすい


園内に階段のあるところは一部あるものの、ベビーカーや車椅子でも無理なく楽しむことができるようなコースも用意されている。園内の森を感じながら歩ける通路は砂利が敷かれており、快適に歩けるよう整備されている。森の入口に到着した瞬間、木々の香り、ひんやりとした空気を感じるだろう。街の喧騒が遠ざかり、里山に紛れ込んだかのようだ。ここは、まるで都会に浮かぶ“天空の城”のようだ。

おすすめフォトスポット「物語の松」

樹齢約300年。江戸時代から景色を見続ける1本の松。見上げると、枝の隙間から見える空の形が美しい。樹形も独特で、写真を撮らずにはいられない。時代を超える存在感に、思わず息をのんでしまう。

紅葉の時期の物語の松画像提供:国立科学博物館附属自然教育園


HOW TO ENJOY|ただの散歩が、静かな冒険に変わる場所

この森の魅力は、余計な人工物がないことにある。遊具もカフェも派手な仕掛けもない。あるのは、ありのままの里山のような自然だけ。だからこそか、子どもたちは驚くほど生き生きとし始める。

光と影がゆっくり移り変わる森。余白の時間が、心をほどく画像提供:国立科学博物館附属自然教育園


「カマキリが卵を産んでる!」
「この実なに?」
「見て、この葉っぱ!」

普段は疲れた~などと連発していた子どもが、ここではまるで探検家のように歩きはじめる。大人としては、その姿を眺めるだけでうれしくなって、ふと、思う「ああ、この子だって“都市の住民″なんだよなあ」。

仕事、学校、友人関係、予定や習い事に追われる毎日。暇や余白のない都会の日々は子どもたちをも疲れさせてしまう。森にいることは、その“余白”を与えてくれるのかもしれない。なんて思う。

KIDS GUIDE|職員に聞いた、キッズとも楽しめる自然教育園

とはいえ、インドア派の子どもたちを外に連れ出すにはどうしたらいいのだろう。そこで、自然教育園の職員・下田さんに、大人にもおすすめな一歩先の楽しみ方や子どもを「連れ出す」ためのアイテムや工夫を聞いてみた。

小さなレンズ1つで、森は秘密基地に変わる


ーーただ散歩するだけでもいいと思うのですが、ツウな楽しみ方を教えてください。

【下田さん】ちょっとした観察ツールを持ってくると、見え方が変わるので楽しいですよ。たとえば、100円ショップで買えるスマホ用ズームレンズ。これはスマホのカメラレンズに取り付けられます。クリップ型で小さいのですが、葉脈、小さな虫までクッキリ見えるので、いつもと違う風景にびっくりしますよ。

そのままレンズをつけたままで、スマホ撮影もできます。レンズをつけて撮影した写真を拡大するとさらに細かいものも見えるので、普段遠くて見えない鳥などを撮影して画像確認すると、種類がわかったりして、とてもおもしろいと思います。

同じく、超小型のハンディ顕微鏡も、持っていくと落ち葉や実の構造、その内部の細胞の模様などが見えて、初めて見る形など発見があるのでおすすめです。

ーー子どもともっと楽しむには何かおすすめはありますか?

【下田さん】はい。先ほどご紹介したカメラや顕微鏡などは、子どもとも一緒に楽しめるおすすめツールです。あとは、園オリジナルの『スパイTHEネイチャー』という子ども向けのパンフレットもご用意しています。入口そばにあるので、ぜひこのパンフレットを手に出発してください。

園内の自然を守るルールや楽しみ方のコツを“スパイのミッション”として書いた名作パンフレットです。自然のスパイになりきってもらえたらとっても楽しめます。ミッションがいくつか書かれていて「森の落とし物の手ざわりを確認せよ」など、自然を楽しむコツが詰まっているんですよ。

たとえば、“華麗なスパイの作法” として、“森の落し物は元の場所にそっと戻す”などと書いてあります。楽しみながら、園内の自然を守ることができるように、ネイチャースパイ指南があるんです。園内散歩が終わったら、ミッション終了!ということで、特製スタンプを押すスペースもあるので、スタンプを押して記念に持って帰ってください。

ぜひこのパンフレットを開いてスパイになりきろう


園内のことを楽しく説明してくれる職員・下田さんのおすすめフォトスポットは「水生植物園」なんだそう。背の高い木々に囲まれた園内で、水生植物園からは水辺を縁取る木立の向こうに、ひょっこりと都会のビル群がみえるというギャップのある景色がよいのだという。園を知り尽くした人ならではの視点だ。

水辺に揺れる草花の向こうに高層ビルがみえる。都市と自然のコントラストを感じる場所画像提供:国立科学博物館附属自然教育園


FOR ADULTS|大人こそハマる静かな宝探しをしよう

まずは、入口の近くに掲示してある、「自然教育園見ごろ情報」のポスターを探そう。そこで紹介された見どころの動植物を探しながら園内を歩くのがおすすめだ。なお、この見ごろ情報は毎週新しいものに更新されているので、こまめにチェックしたい。

お目当ての植物は数種類絡み合ったり、重なって見にくい場所にあったり、草木の影にあったりと、なかなか簡単には見つけることはできないのが楽しさを倍増させてくれる。目を凝らして園内を歩いていると、まるで宝探しをしているようだ。ほかのおもしろい植物や動物を見つけることもできるかもしれない。

あれ、どこだ、見つからない時間すら心地いい。大人のための宝探しの地図、“見ごろ情報”をチェックしよう


何度か往復して(見つからないこともあるが)、やっと探していた植物と出合えた瞬間の静かな喜びをぜひ味わってみてほしい。ここにいたんだね!と植物に語りかける自分の姿すら楽しくなってくるはずだ。建物だらけの都会の生活では味わいにくい、丁寧で、自然を相手に心弾む時間がそこにある。

HISTORY|この森が、何度も消えそうになったという事実

自然教育園のある場所一帯には、はるか縄文の昔から人が暮らしてきたという。室町時代には豪族の屋敷、江戸時代は松平讃岐守の下屋敷もここにあった。明治時代は陸軍の武器庫が作られ、大正時代には宮内庁の御料地となった。戦後は一部田畑が作られて地域を支えた時期もあったという。

時代が変わっても守られ続けた森にすむ動物たち画像提供:国立科学博物館附属自然教育園


そして昭和には首都高建設計画、ホテル買収計画の話などもあったそうだ。そういった都市化の波に飲み込まれてこの森は何度も消えかけたが、そのたびに学識者と地域住民によって守られてきたという大事な歴史がある。

東京という目まぐるしい都市に、これほどの森が残ったのは、人々の強い意志と深い知識の積み重ねのおかげだろう。

BIODIVERSITY|たった20ヘクタールが、都市の生態系を支えている

自然教育園の敷地面積のうち、一般公開の区域は全体のわずか15%。残り85%は非公開区域となっている。非公開区域では人の影響を極限まで減らし、都市の中で自然がどう変化するのかを、観察、研究し続けている。

研究によれば、この森は東京の生物多様性の基盤となっている。ここで育った昆虫、鳥などが周囲の小さな緑へ飛んで生き、都内でかろうじて姿を消さないように命をつないでいるのだ。そして森を保つことにより、ヒートアイランド現象の緩和にも効果を発揮している。森の中は、周辺の気温よりマイナス4度。周囲の住宅地の気温にもよい影響を与えている。

森の空気は、都市を確かに支えている。平均マイナス4度の“天然クーラー”画像提供:国立科学博物館附属自然教育園


もし23区に、このスケールの森が各区に2〜3つずつあったなら——東京の現実や未来はきっと違っただろう。自然教育により、森や動植物がどんなに大事なのかがもっと周知の事実になれば、東京の森は増えるかもしれない。そうしたら未来は少し明るくなる。

自然は、人間にとっても都市にとっても、決して“贅沢なこと”ではなく、必要なものなのだとよくわかる。

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