コーヒーで旅する日本/四国編|カメラをポットに持ち替えて。のどかな山懐で気持ち解ける、職人気質の一杯。「Coffee stand CANS Hutte」

東京ウォーカー(全国版)

X(旧Twitter)で
シェア
Facebookで
シェア

全国的に盛り上がりを見せるコーヒーシーン。飲食店という枠を超え、さまざまなライフスタイルやカルチャーと溶け合っている。4つの県が独自のカラーを競う四国は、県ごとの喫茶文化にも個性を発揮。気鋭のロースターやバリスタが、各地で新たなコーヒーカルチャーを生み出している。そんな四国で注目のショップを紹介する当連載。店主や店長たちが推す店へと数珠つなぎで回を重ねていく。

山々に抱かれた店先で飲むコーヒーは格別。屋号は娘さんのニックネーム・かんちゃんから命名


四国編の第43回は、高知県梼原町の「Coffee stand CANS Hutte」。高知県北西部、愛媛県と境を接する梼原町は、四万十川源流域にあたる山間の町。町を貫く国道沿いに立つ店は、まさに「Hutte(ドイツ語で山小屋や小屋)」の店名通り、山小屋の趣だ。店主の石戸谷光さんは、調理師、写真家を経て、コーヒー店を開いた、ユニークな経歴の持ち主。東日本大震災を機に移住したこの地で始めた店は、8年を経て界隈の拠り所となっている。「自ら手を動かす仕事が性に合っているんです」という職人気質の石戸谷さんが、新天地で見つけたコーヒーの魅力とは。

店主の石戸谷さんと奥様の美穂さん


Profile|石戸谷光(いしどや・ひかる)
1971年(昭和46年)、神奈川県生まれ。調理師専門学校を卒業後。飲食店の現場を5年経験。その後、ワーキングホリデーでオーストラリアに滞在し、帰国後はカメラマンに転身。約20年、広告、ファッションなど幅広い分野で活躍。2011年の東日本大震災を機に和歌山へ移住し、紀州備長炭の炭焼きの仕事に5年ほど携わった後、2016年に高知県梼原町へ。2017年に「Coffee stand CANS Hutte」をオープン。

ユニークな仕事遍歴からたどり着いた新天地

木の温もりに満ちた店内は、まさに山小屋の雰囲気

「目の前にある太郎川公園の『道の駅 ゆすはら』は、おでかけやドライブコースになっているレジャースポット。この店の建物は、もともと直売所のような施設の跡なんです」。そう話す、店主の石戸谷さんが、東京から梼原町に移住してきたのは2016年。ここにいたるまでの仕事遍歴が実にユニークだ。振り出しは料理人を目指した高校時代。調理師専門学校を経て、5年ほど飲食店で腕を振るった。その後、ワーキングホリデーでオーストラリアに渡り、帰国後はカメラマンに転身。アシスタントから独立し、フリーランスとして20年、広告、ファッションなど第一線の現場で活躍してきた。そんな石戸谷さんに転機が訪れたのは2011年、東日本大震災の発生がきっかけだった。

店内には、石戸谷さんが撮影した写真や、愛用のカメラもディスプレイ


「震災が起こったのが、妻が妊娠中のことで、身の安全を考えて、子育てするなら田舎がいいと考えたんです」と、東京からの移住を決め、最初に移ったのは和歌山県。写真の仕事から、今度は、当地の特産である紀州備長炭の炭焼きに5年ほど携わる。「移住するなら山間部がいいなと思ってたんです。仕事についても、やると決めたら、修業して技術を習得する。何かしら自分で手を動かしてやることが性に合っているんです」と、一見、意外な転身も根っからの職人気質が所以だ。とはいえ、炭焼きは体力仕事、慣れない田舎での生活5年目にして体調を崩し、大病を患う。静養を兼ねて四国を巡ったときに、縁を得たのが梼原町。清流・四万十川の上流、山深い町に満ちる清らかな水と空気、美しい自然が残る町は、求めていた暮らしの場に相応しい環境だった。

梼原町に移住後も、炭焼きの仕事を続ける選択肢もあったという石戸谷さん。だが、当時、空き店舗となっていたこの物件を、偶然目にしたことで新たなアイデアをひらめく。「かつて道の駅には雲の上ホテルがあり、そのころは営業していてにぎわっていたが、こちらの店舗は閑散としていました。でもロケーションもよく、ゆったり過ごすのに活かせる場所だと感じて。ここならコーヒースタンドがぴったりだと、イメージが湧いたんです」

湯を沸かすのは茶道で使う鉄製の釜。当初は炉を置き炭火で沸かしていたそう


開店にいたる原点は海外のカフェカルチャー

コーヒーは豆を多めに使って抽出し、同量の差し湯をする、きゃろっと式を採用

石戸谷さんが、コーヒースタンドの発想にいたったのは、海外で訪ねたカフェ体験があったから。とりわけ、オーストラリアのカフェカルチャーに惹かれたことが、今につながっている。「今から30年ほど前。まだ日本ではイタリアンのレストランでしか本場のカプチーノが出なかった時代。現地ではエスプレッソを中心としたカフェ文化が根付いていて、すごいなと感嘆した。以来、何となく興味を持ち始めて、カメラマン時代に3カ月アパートを借りて滞在したニューヨークでも、本屋やカフェ巡りをしながら海外のカフェ文化に触れてきました」。ちょうど石戸谷さんが東京を離れるころには、日本にもアメリカのサードウェーブコーヒーが上陸し、それまでにないスタイルのコーヒースタンドが印象に残っていたという。

愛用の手回し焙煎機は、大坊珈琲店と同じ限定モデルを使用


もともとは、コーヒーをブラックでは飲めなかったという石戸谷さんだが、奥さんがブラックを愛飲していた影響を受けて、自身も飲むようになった。「コーヒースタンドを始めたのは、物件との出合いと、妻がコーヒー好きだったことも理由の一つ」と、夫婦で開店準備を進め、2017年、「CANS Hutte」をオープン。実は、高知県内でもいち早くスタンド形式を取り入れた、先駆け的な存在でもある。

開店当初、コーヒー豆は石戸谷さんが訪ね歩いた東京や福岡のロースターから仕入れていたが、2021年から自家焙煎に切り替え。持ち前の職人気質をコーヒーにも発揮。「続けるうちに、自分で納得する味を作りたいという思いが強くなって。コーヒーは全くの独学ですが、焙煎を始めてみると、実は炭焼きに通じるものがあると感じて。原料を蒸し焼きにして、水分を抜いていくという過程は同じ。備長炭はできるまで1週間かかるけど、コーヒーなら15~20分くらいでできるので、焙煎の作業は楽しいですね」と、意外な形でこれまでの仕事の経験が活かされている。

美穂さんの地元・青森から届くリンゴがたっぷりの、津軽りんごパイ450円は冬限定の逸品


開店前までにコーヒー店を数々巡り、中でも手回し焙煎で深煎り主体の店、やはり職人的な味作りに魅力を感じたという石戸谷さん。とりわけ心惹かれたのは、今はなき大坊珈琲店のスタイルだという。「残念ながら、店で飲むことはできなかったけど、イベントに行ったり、豆を取り寄せたりして飲んだコーヒーは格別で、大坊さんのようなスタイルでやりたいと憧れました。やるからには、誰が淹れても同じという店にはしたくない、自分が淹れるからこそ出せる味を提供したい、という思いは強いですね」

グルテンフリーの、チョコがけ米粉マフィン370円。スペルト小麦のスコーン・紅茶370円。ベイクは高知市や土佐市、いの町でも定期的に販売


  1. 1
  2. 2

この記事の画像一覧(全12枚)

キーワード

テーマWalker

テーマ別特集をチェック

季節特集

季節を感じる人気のスポットやイベントを紹介

いちご狩り特集

いちご狩り特集

全国約500件のいちご狩りが楽しめるスポットを紹介。「予約なしOK」「今週末行ける」など検索機能も充実

お花見ガイド2026

お花見ガイド2026

全国1400カ所のお花見スポットの人気ランキングから桜祭りや夜桜ライトアップイベントまで、お花見に役立つ情報が満載!

CHECK!2026年の桜開花予想はこちら

CHECK!河津桜の情報はこちら

おでかけ特集

今注目のスポットや話題のアクティビティ情報をお届け

アウトドア特集

アウトドア特集

キャンプ場、グランピングからBBQ、アスレチックまで!非日常体験を存分に堪能できるアウトドアスポットを紹介

ページ上部へ戻る