第57回 職人気質と愛嬌で慕われる名古屋・内田橋の大衆食堂「天麺 大黒屋」

2018年2月2日 12:00更新

東海ウォーカー 加藤山往

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内田橋商店街にある「天麺 大黒屋」
photo by 加藤山往/(C)KADOKAWA

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名古屋市西区の円頓寺、南区の柴田と並び称され、知多街道の入り口としてかつてにぎわいをみせた内田橋エリア。今では静かな雰囲気になってしまった商店街だが、ここで長年営業を続けている「天麺 大黒屋」は、今も地元客に愛される店として知られている。

夫婦で営む地元密着の大衆食堂

【写真を見る】見た目ではわからない!? 3代目主人の黒川英勝さんは元広告デザイナーという経歴。妻のつなえさんと2人で店を切り盛りするphoto by 加藤山往/(C)KADOKAWA

「天麺 大黒屋」は、3代目主人の黒川英勝さんが、妻のつなえさんと2人で守っている。かつては料理人がさらに2人いて、周辺への出前もやっていたそうだが、職人が独立するなどして辞めていった。それでも「お客さんが来てくださる以上は、2人でできる限り続けていこう」と、店内営業だけに絞り、営業時間を減らすなどして続けている。英勝さんは77歳、つなえさんは71歳。後継ぎの予定はないそうで、この2人の「できる限り」が店を支えている状況だ。

調理は英勝さん、接客はつなえさんが担当するphoto by 加藤山往/(C)KADOKAWA

高齢ではあるが、2人は生き生きとした表情で店を回している。「こういう商売が好きでね。お客さんと話すのが好きだから、この歳でも続けていけるんですわ」とつなえさんは明るい笑顔を向ける。つなえさんはお見合いで黒川家に嫁いできたそうだが、サラリーマンとの縁談があっても断り、家業として商売をしている家との縁談を選んだという。

昔ながらの店内空間には、有線によるムーディな歌謡曲が流れるphoto by 加藤山往/(C)KADOKAWA

一方、調理を担当する英勝さんは、若いころに家業を継ぎたくないと一旦は広告デザインの仕事に就いた。しかし、親が体調を崩したことにより、20代後半で店へ入ることになった。「これも運命なんだろうね。そういう流れになったのよ」と英勝さん。デザイナーと料理人。ジャンルは違えど「よいものを作る」という職人気質は共通なのだろう。つなえさんが「お父さん(英勝さん)は優しくて、真面目で仕事熱心な人です」とのろける。

創業90年ほど、3代目による変化

店内には手書きのメニューを貼り、季節の食材を案内しているphoto by 加藤山往/(C)KADOKAWA

家業は英勝さんの祖父が始めたが、正確な創業年は分からないそう。英勝さんは「昭和の初期に始めたらしいから、90年ぐらいかなあ」と答える。もともとはうどん・そばの店だったが、3代目として英勝さんが店を回すようになり、天ぷらを充実させることにした。かつての店名「大黒屋」から「天麺 大黒屋」になったのは、英勝さんによる変化というわけだ。そのために日本各地へ足を運び、研究を続けたという。

天ぷら盛り合わせときしめんのセット「天めん」(1000円)photo by 加藤山往/(C)KADOKAWA

昔からやっていた麺類に天ぷらを増やした。天ぷらは単品で注文することもできるし、麺とセットにしたメニューを増やして選びやすくした。例えば「天めん」(1000円)は、きしめんと天ぷら盛り合わせがセットになったもの。「麺は注文を聞いてから茹でますから少し時間かかりますけど、おいしく提供したいもんで。お客さんもよく知ってくださってますよ」とつなえさん。ダシにはカツオ節やムロダシなどをブレンドしているが、そのいずれも上質なものを選んでいるという。天ぷらはサラダ油とゴマ油をブレンドして揚げる。天つゆも付けられるが、サクサクとした食感を楽しめるよう塩で食べてもいい。

「デラックス味噌煮込み定食」(1250円)。味噌は八丁味噌や白味噌など4種類をブレンドしているphoto by 加藤山往/(C)KADOKAWA

寒い季節にうれしい味噌煮込みうどんは、具の選択肢を増やして多数のメニューを用意している。「デラックス味噌煮込み定食」(1250円)は卵やエビ天など具だくさんでご飯も付く人気メニュー。味噌は4種類をブレンドして、まろやかな味噌味を英勝さんが“デザイン”している。「八丁味噌は、一番いいやつを使ってますよ」とつなえさん。

「来てくれたお客さんが、また来てくれるように」

先代が参加していた「呑助会」から贈られた「千客万来」が店内に飾られているphoto by 加藤山往/(C)KADOKAWA

「お客さんと出会えたり、話したりするのが大好き」とつなえさんは話す。取材中にも来店した客へ、明るい笑顔を向けて歓迎する様子を目にした。豊富なメニューを見て悩んでいる客がいれば「おすすめはこれですよ」と声をかけ、常連らしき客とは世間話に花を咲かせ、それでいてほかの客にも気を配り、お茶が減ればすぐに持っていく。「顔を見れば初めてのお客さんかどうかは分かります。初めてでも来てくれてうれしいし、よく来てくださっているならやっぱりうれしい。なにかお返ししたいと思うんです」とつなえさんはニコニコと笑う。

かつてあったうどん店の集まり「釜揚同好会」に参加して研究を重ねていた名残が店先に残るphoto by 加藤山往/(C)KADOKAWA

「1度来てくれたお客さんを歓迎して、おいしい料理を出してます。それでまた来てくださったり、誰かを連れてきてくださったり。それがとってもうれしいんです」とつなえさん。英勝さんは静かに微笑みながらうなづいている。「この商売が好きだからこそ、70過ぎても続けていけるんですね」とつなえさんが続ける。店の雰囲気や魅力は、2人が元気でいてこそのもの。「2人とも健康そのものですよ」とつなえさんは力強く笑ってくれた。

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