コーヒーで旅する日本/関西編|代替わりで心機一転。時代と共に進化を続ける、喫茶店ならではの憩いの提案。「喫茶ピュア」
東京ウォーカー(全国版)
お客の苦言を機に自家焙煎をとことん追求
そこからの松本さんの行動は速かった。当時スタッフだった、茶豆の店主・石井さんとともに、厨房のコンロで手網焙煎を数回試して、すぐに手回しの焙煎機を導入。半年ほど続けていたが、「店では1日に1キロの豆を使うから、到底追いつかない。ほかの仕込みも多いから体が持たない。それでも、最初は旨いコーヒーを作ろうというやる気に満ちていた」と、1年経たずして、1キロの業務用焙煎機を設置する。とはいえ、焙煎については全くゼロからのスタート。「やるならば自分の味を作りたいと思ったけど、当時は正解がわからんかった」と苦心するなかで、コーヒーと名のつくあらゆるセミナー・イベントに足を運び、コーヒー関連の本を片っ端から買い漁り、定休日にはコーヒー店巡りに出かけ、各地のロースターに話を聞きに回った。
まさに手探りで焙煎を続けるなか、何とか道が開けたのは、本連載にも登場した奈良のK COFFEE店主・森さんとの出会いが大きかったという。「イベントで初めて飲んだコーヒーがとにかく衝撃的で。今まで飲んできたものより、味の情報量が圧倒的に多かった。すぐに森さんに連絡を取って、教えてもらった焙煎のやり方が、今までと全く違った。まさに目から鱗で、今の自分の焙煎のすべての土台になりました」
新たになった看板のピュアブレンドは、ブラジル、コロンビア、グアテマラ、エチオピアの4種をあわせた中深煎りでスタート。当初は、お客の嗜好に合わせて、今まで仕入れていた豆をイメージしていたが、徐々に焙煎度は中煎りにシフト。現在は豆の配合も、ブラジル、コロンビア、マンデリンに変えて、より飲みやすさを追求したブレンドに進化している。
それでも、すべてが独学ゆえに、「コーヒーに関してはずーっと悩んでます(笑)。抽出も焙煎も、迷っていないときはないくらい」と、今も試行錯誤は続いているが、その積み重ねのなかから、店の方向性も見えてきたという。「やっていくうちに、浅煎りの酸味を打ち出したコーヒーは、うちには合わないなと思った。今は若い世代のお店も増えて、スペシャルティの個性的な風味を打ち出しているから、逆にうちはほっとする深煎り系で、万人受けする味でコーヒー好きになる入口を目指そうと。もっといろいろ飲みたいという方には、ほかのお店を紹介しています(笑)」
変化しながらも喫茶店ならではの味を継承
近年は、和歌山の若手ロースターが開く焙煎の勉強会にも参加しているが、あくまで喫茶店の味を志向して、一線引いたスタンスを心掛けているとか。「カッピングの感覚に慣れると、お客さんとの味覚のギャップが開くような気がして。勉強会では、どうしても浅煎りに引っ張られてしまうが、自店のお客が求めてるものとはズレがある。趣味として、こういう世界もあると知っておくレベルにとどめている。そう割り切って考えたら楽になった」
コーヒーのクオリティの底上げによって、新たなファンも広げている「喫茶ピュア」だが、老舗の人気を支える大きな柱は、今も充実したフードメニューにある。ドライカレーを卵で巻いたピュアライス、ライスが焼き飯になった焼きカレーなど、和歌山の喫茶店独特の名物に加え、ドライカレーを熱々の鉄板で供するコロンボライス、イノシシの生姜焼きなどジビエを使った定食など新趣向も創り出した。さらに2024年からはパン工房も新設。モーニングやサンドイッチに用いる食パンをメインに、週3回販売するパンの種類も増やしつつある。
以前よりメニューの数を絞って自家製に置き換え、自家焙煎コーヒー、手作りのパンにいたるまで、次々に改良を重ねてきた松本さん。「昔は、ボリュームを求める男性客がほとんどだったけど、最近は女性や子ども連れの家族が多くなっています」と店の変化とともに客層も目に見えて変わってきた。2025年には、新たにサイズアップした焙煎機も導入。20年前の機体を譲り受けたもので、計器類に頼らず、焙煎のプロセスは今もアナログ。「ハゼの音、豆の色の変化を見ながら、ストップウォッチの計測で時間を記録。今の人から見たら怒られるかもしれんけど、これが性に合ってるから」と笑う。
実は、子どもの頃は、家業で店をしていることに気恥ずかしさを覚えたこともあったそうだが、先代が病に倒れてから自身が継ぐことを自覚したという松本さん。「最初は店の仕事はあまり好きでなかったが、上達していくとやりがいが出てくる。自分のオリジナルにしていくという過程で好きになっていった感覚。今は、常に手を動かしてないと逆に調子がおかしくなる(笑)」。喫茶店ならではの魅力を残しつつ、時代を越えて変化を重ねたことで、今なお厚い支持を得る一軒だ。
松本さんレコメンドのコーヒーショップは「とびだす焙煎所」
次回、紹介するのは、和歌山市の「とびだす焙煎所」。「地元の焙煎卸の老舗・和歌山ダートコーヒーの、新たな直営店として話題の一軒。和歌山で初めてローリング・スマートロースターを導入するなど、老舗の思い切った試みが注目を集めています。コーヒーの焙煎を担う工場長の岩橋さんとは、ロースターの勉強会などでよく一緒になりますが。カッピングで嗜好が重なることが多く、個人的には岩橋さんの焙煎するコーヒーが一番、自分の好みに合いますね(笑)」(松本さん)
【喫茶ピュアのコーヒーデータ】
●焙煎機/ディードリッヒ 2.5キロ(半熱風式)
●抽出/ハンドドリップ(フラワードリッパー)
●焙煎度合い/中~深煎り
●テイクアウト/ あり(500円~)
●豆の販売/ブレンド1種、シングルオリジン6種、100グラム850円
取材・文=田中慶一
撮影=直江泰治
※記事内に価格表示がある場合、特に注記等がない場合は税込み表示です。商品・サービスによって軽減税率の対象となり、表示価格と異なる場合があります。
この記事の画像一覧(全13枚)
キーワード
- カテゴリ:
- タグ:
- 地域名:
テーマWalker
テーマ別特集をチェック
季節特集
季節を感じる人気のスポットやイベントを紹介
おでかけ特集
今注目のスポットや話題のアクティビティ情報をお届け
キャンプ場、グランピングからBBQ、アスレチックまで!非日常体験を存分に堪能できるアウトドアスポットを紹介






