コーヒーで旅する日本/関西編|焙煎卸の老舗がイメージ一新。和歌山初の試みの数々で地元ファンの裾野を広げる「とびだす焙煎所」
東京ウォーカー(全国版)
全国的に盛り上がりを見せるコーヒーシーン。飲食店という枠を超え、さまざまなライフスタイルやカルチャーと溶け合っている。なかでも、エリアごとに独自の喫茶文化が根付く関西は、個性的なロースターやバリスタが新たなコーヒーカルチャーを生み出している。そんな関西で注目のショップを紹介する当連載。店主や店長たちが気になる店へと数珠つなぎで回を重ねていく。
関西編の第112回は、和歌山市の「とびだす焙煎所」。和歌山で創業し、長年、地元の焙煎卸として親しまれてきた焙煎卸会社・ダートコーヒーが、従来にない趣向を打ち出したコーヒーショップとして開店。直営店としては30年ぶりの復活で、話題を集める一軒だ。「とびだす焙煎所」には、最新鋭の焙煎機からメニューにいたるまで、地域初となる新たな試みが随所に。ユニークな店名にも、心機一転の意気が込められている。創業から60年、地域密着の焙煎卸として支持を得てきた老舗が、新たなチャレンジを通して発信する、コーヒーの新提案とは。
Profile|岩橋亮治(いわはしりょうじ)
1988年(昭和63年)、和歌山市生まれ。ワインショップ勤務を経て、2015年頃から、元々関心があったコーヒーの移動販売をスタート。手網で焙煎を始め、独自に研究を重ねるなかで、ダートコーヒーとの縁を得て、2021年に焙煎担当として入社。本社焙煎工場長とともに、「とびだす焙煎所」の焙煎担当として実店舗の運営にも携わる。
地元の焙煎卸業者が打ち出す新たな試み
「かつては直営の喫茶店も展開していましたが、長らくの休止を経て新たに立ち上げたのが、この店。地域に親しまれた味をさらに広げるべく、和歌山から全国に飛び出していこう、というコンセプトで始まりました」とは、本社焙煎工場長の岩橋さん。以前はワインショップに勤めていた岩橋さんだが、元々はコーヒーに関心があり、自宅で手網焙煎を始め、ほどなくサンプルロースターを購入し、独自に焙煎を研究。2015年頃からキッチンカーでコーヒーの移動販売を始めるまでになっていた。
転機となったのは、懇意の自家焙煎コーヒー店でつながった偶然の縁だった。「自分で焙煎を始める以前から、かつらぎ町の歩里人珈琲によく通っていたのですが、和歌山のダートコーヒーの社長さんも常連で、店主の岩本さんの紹介でご縁ができました。その頃、ちょうど焙煎ができる人を探しておられたところで、幸運にも焙煎の仕事に就くことができたんです」
とはいえ、業務用の焙煎機を使うのは、ほぼ初めての経験。工場で扱うのは10キロ、60キロといった大型の機体だ。「いきなりサイズが大きくなって、最初はちょっと恐る恐るでしたが(笑)、幸い卸用の定番ブレンドは味を変えず、一定の焙煎プロセスを守ることが求められたので、まずはその型を覚えることに集中。社内の先輩や岩本さんにもアドバイスを受けつつ扱いに慣れていきました」と振り返る。折しも、岩橋さんが入社した頃は、ちょうど「とびだす焙煎所」の立ち上げ準備の最中。本社工場での焙煎とともに、新商品の開発なども携わり、並行して実店舗の開業に向けても動き出していた。
老舗のイメージを覆す“地域初”の新機軸
「とびだす焙煎所」のブランドは、2021年にECサイトからスタート。定番のブレンドのみならず、サイト限定のコーヒーとして、1週間の各曜日をイメージした7つのブレンド・7デイズコーヒーを考案。続いて、フルーティーな豆の風味を紅茶感覚で楽しめる、マドラー付きドリップバッグ・ベリーちゃこ、れもんちゃこなど、ユニークな提案を打ち出している。
一方、県外のお客に向けて発信するECサイトに対して、実店舗の「とびだす焙煎所」は地元に向けたアンテナショップ的な位置づけ。「今までにないチャレンジングな企画だけに、イメージをガラッと変えることが求められた」という、新機軸を象徴するのが店内でひときわ目を引く、ローリング・スマートロースターだ。和歌山では初の導入にして、唯一の店として話題を集めた。
「地域初というインパクトと、環境に優しい構造というのが導入の決め手。ここでは、シングルオリジンのスペシャルティコーヒーも幅広く提案しています」と岩橋さん。深めの焙煎のブレンドをペーパードリップで、浅煎り中心のシングルオリジンをフレンチプレスで、豆の特徴に合わせた抽出で提供する。どちらかというと深煎り志向が強い土地柄だが、浅煎りで際立つ多彩な個性を広めるのも、この店の役割の一つだ。
多彩な豆の中でも、おもしろいのが看板のとびだすブレンド。豆の配合は、ダートコーヒーの卸用と同じだが、本社で焙煎するECサイト向けは遠赤外線で焼くクラシックな焙煎機で、片や「とびだす焙煎所」では最新鋭の熱風式焙煎機と、機体の新旧、熱源が異なる。「機械が変わると同じブレンドも味が変わる。ローリングはデータもPC制御だが、本社の焙煎機はマニュアル作業。熱風だとクリアな風味になるので、本社でやるときとは別物と考える。同じ名前でテイストが違うのも楽しみの一つと捉えています」と岩橋さん。ECサイトと実店舗の客層が重ならないからできることでもある。逆に、ローリングで焙煎したブレンドを、ダートマイスターとしてECサイトで出すなど、機体の違いを活かした提案もしている。
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