『カメラを止めるな!』監督が告白「愛を持って撮ったからこそ、自信を持って、胸を張って、声を上げていける」
東京ウォーカー(全国版)
60点70点のものに落ち着いたら俺は死ぬ、と思った
頓花:それで、クリエイターとしての話になるのですが、ものづくりへの愛情は止められないけど、環境だったり、評価だったり、って絶対いままでにあったと思うんです。監督の中で「カメラを止め”よう”!」と思った瞬間ってあったのでしょうか。
上田:そうですね。僕は中学・高校のときから自主映画やコント映像を撮って、将来も「映画監督になるぞ!」と言ってきたんですが、20歳から25歳のあいだ、映画とは関係のない、カフェを出店したり、SF小説を出版しようとしたりしていたんですね。それは、大好きな映画一本で真っ向勝負することが怖かったからだと思うんです。だって、それでうまく行かなかったら、自分に才能がないっていうのがわかってしまうじゃないですか。でも、25歳で映画だけに集中しよう、という覚悟を決めてからは、うまくまわり出したと思います。
頓花:それからは、順調だったのでしょうか。
上田:いえ。この『カメラを止めるな!』を撮るまでに、短編映画を8本くらい作っていて、ありがたいことにいろいろな映画祭で賞もいただいたんですが、その時の審査員の方たちには「君の映画は、よく出来ているけど、よく出来ているだけだね」とか「小ぎれいにまとまっちゃっているね」とか、結構言われてしまいました。その時は「うるせー」とも思いましたが、実は心当たりがあったというか、自分の手に負えることをやってしまっているんじゃないか?という自覚があったんです。なので、必ずしもうまくいっていたわけではないんですが……。
頓花:でも、今回は、手に負えないことをしたと。
上田:そうですね。手に負えない、手が届くかもわからないというなかでやっていくと、ほつれとかほころびとかが出てくるんだろうなって思っていたんです。でも、その、ほつれとか、ほころびとかのおかげ、というかそれらがフィクションとせめぎあうことで、ライブ感、というか2度と撮れないものが出来るな、と。なので、僕は今回、それらを丸ごと映画のなかに閉じ込めたんです。
頓花:それがワンカットの部分ですね。ここまで大きな移動とか、アクションを伴いながらの、しかも特殊メイクや血糊などの演出を含んだワンカットって、前代未聞だと思っていたんですが、このワンカットを撮っているあいだ、監督はなにを考えていたんでしょうか。
上田:正直、僕も夢中で一緒になって走っていたので、すごく考えられていたかというとそうではないんですが、でも、あのワンカットは、脚本もリハーサルもしっかりと固めて本番に入ったのですが、正直「なにかトラブル起きてくれ!」って思いながら撮っていましたね。「誰か噛んでくれ!」とか「コケてくれ!」とか(笑)。やっぱり、そういう予期せぬトラブルが起きることによって、さっきも言ったライブ感が生まれてきて、二度と作れない映画になると思うんです。なので、もちろん「トラブルよ、起きないでくれ!」とも思っていましたが、「トラブルよ、起きてくれ!」とも思っていましたね。
頓花:手に負えないことをした、とのことですが、手に負えないことをして、それでしかもそれが面白く昇華されるって、ものづくりをする人は嫉妬してしまう奇跡だと思うんですよね。でも、やりたいけどいろんな事情もあってできない、という。どうして今回はこんなにうまくいったんでしょうか。
上田:そうですね……。自分がいままで生きてきて、その人生のなかで好きだったものを詰め込んだ結果、それらが混ざり合って、うまくハマったのが大きいかもしれませんね。もちろん、それがうまくハマるかは僕自身も分からなかったし、いままでずっと短編を作ってきて、渾身の長編ということで、これでまあまあのものを作ってしまったら、60点70点のものに落ち着いてしまったら、きっと俺は死ぬな、とまで思っていました。今回に関して言うと、0点か200点しかないなという気持ちがありましたね。
頓花:もしかしたら0点の可能性もあったと?
上田:もちろんです。37分ワンカットがどうなるか分からない。でも、そんな戦場を走り抜けるしかなかったんですよね。なんで走り抜けられたのかって聞かれると、全員で頑張った、としか言えないですが。
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