はーこのSTAGEプラスVol.73/長塚圭史、主演・白石加代子と魂に響く傑作に挑む!

関西ウォーカー

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演劇ライターはーこによるWEB連載「はーこのSTAGEプラス」Vol.73をお届け!

劇作家・演出家・俳優として活躍する長塚圭史が2019年、KAAT神奈川芸術劇場の芸術参与となった。長塚が芸術参与就任後に初めて手掛けるのが、秋元松代の『常陸坊海尊(ひたちぼうかいそん)』。かつて蜷川幸雄(釜紹人と共同演出)が演出を手掛け、白石加代子と寺島しのぶらが出演。「もう一度チャレンジしたい」と希望した白石を主演に、伝説の戯曲に挑んだ。

伝説の舞台「常陸坊海尊」に挑む長塚圭史にインタビュー


秋元松代は、「近松心中物語」などで知られる、戦後を代表する劇作家の1人。『常陸坊海尊』は、初めて日本でオリンピック大会が開催された64年(昭和39年)に発表し、演劇界に衝撃を与えた傑作だ。12月にKAATでの公演を終え、いよいよ兵庫県立芸術文化センターへやってくる。

稽古に入る前、時間をかけて準備していた長塚が来阪した。困難な作品へ向かう想いと、生々しい作劇への道のりを話す長塚の言葉は、この作品を一層味わい深いものにするはず。読んでから、観て!

【常陸坊海尊のこと】

源 義経の忠臣として武蔵坊弁慶らと共に都落ちに同行、義経最期の場所である奥州平泉での衣川の戦いを目前に主を見捨てて逃亡し、その後、不老不死の身となり、源平合戦の次第を人々に語り聞かせたと言われる伝説の人物。

【写真を見る】主演・白石加代子。写真はKAAT神奈川芸術劇場プロデュース 「常陸坊海尊」撮影:岡千里


【物語】

東京から疎開に来た啓太と豊は、美しい少女・雪乃(中村ゆり)と出会う。常陸坊海尊の妻と名乗るおばば(白石)と暮らす雪乃に、海尊のミイラを見せられる2人。烈しくなる戦争で両親を失った少年たちは雪乃にひかれていくが、啓太は母恋しさでおばばに母親の姿を重ねていく。16年後。東京に戻り成人した豊(尾上寛之)は、岬に近い格式の高い神社を訪れる。そこには巫女をつとめる雪乃と、戦後おばばたちと共に消息を絶った啓太(平埜生成)の姿があった…。

KAAT神奈川芸術劇場プロデュース 「常陸坊海尊」撮影:岡千里


【長塚圭史、作品を読み解く】

東北の仙人伝説を背景に、戦中戦後の学童疎開と、人間の“生”や“性”、そして格差や差別といった問題を描いた本作。秋元は、主君を裏切った自分の懺悔を続けつつ、その身に人々の罪を引き受け、その罪を救う存在として海尊を描いた。

作品を読み「ものすごく胸を打たれてしまって」と語る長塚。『常陸坊海尊』は「弱者が追いやられる話です。東北の山に来た学童疎開の子供たち、イタコ、山伏、娼婦…社会に必要とされない者たちが、国家の都合によって徹底的に追いやられていく。戦争が終わると、今度は復興の名のもとに歯車のように働かせていく。生きている実感がない弱者に、海尊は語り掛ける。あなたの罪を、罪深い人間の罪を私が背負いましょうと。一番弱い人のために、僕ら人間の弱さを救ってくれる“海尊様”という存在があるんじゃないかと僕は感じています」。

【長塚が求めるもの】

『浮標(ぶい)』など、昭和初期から戦後の復興期に活動した小説家・劇作家の三好十郎作品に新たな命を吹き込み、高く評価された長塚。秋元は、三好十郎の弟子であり三好を父と敬愛していた。

「この作品はあらゆる時代に通用すると同時に、格差社会と言われている現在にも大きく響く劇になりうるなと思いました。そして僕らの住んでいる、この大地に脈々と続く血脈のようなものが感じられる作品になれば。僕らを支配しているものは何なんだろう、何か上と下に世界がグウッと流れていくようなものを僕は感じていて、この感覚を頼りに、何かすごいものにしてやろうと思っています」。作品に取り掛かり始めた頃、長塚はそう語っていた。

KAAT神奈川芸術劇場プロデュース 「常陸坊海尊」撮影:岡千里


【困難な作品と戦うために】

 「衝撃的なラストシーンに惹かれた」ものの「上演するのは非常に困難」と、山形にある出羽三山などで取材をするなど「自分の知らなかったことを手繰り寄せて」、白石らとも対話を重ねながら数か月かけて準備した。

 常陸坊海尊は、劇中、3人の異なる海尊として登場する。個性豊かな実力派キャストが顔をそろえるなか、「劇の柱となる俳優の肉体が、視覚的効果を生み出してほしい」と、第二の海尊にコンテンポラリーダンスのダンサー・振付家として国内外で活躍する平原慎太郎を起用。今回、俳優として参加し、ムーブメントも担当する。

 「こりゃあ大変だな、と思う時にはスタッフも力強い人たちを」と、平原のほか、劇空間を創り出す美術に堀尾幸男。「東北の山の中の匂いとかを感じさせられるような、思い切った風景を作って行こうと思っています。どういう形になるか楽しみにしていてください」。扮装(衣装・ヘアメイク)には「困難な道で頼りになる存在」の柘植伊佐夫、そして音楽にFPM(ファンタスティック・プラスチック・マシーン)の田中知之が長塚作品に初参加。「いたずらに盛り上がろうと電子音を使うのではなく、清廉なもの、祈りに通じる光線のようなものにつながっていけないかと」。すごいスタッフが集まった。

【白石加代子さんのこと】

KAAT神奈川芸術劇場プロデュース 「常陸坊海尊」撮影:岡千里


 長塚は白石と舞台をこれまで3作品、共にしている。今回「もう一回やりたい」と再チャレンジを所望した白石に「とてもうれしいです。非常に心強い」と長塚。彼女のすごさを聞いた。「身体がすごい! 立ち上がるだけでドラマになる女優ですから。ものすごい情報量の入った肉体なんですよね。彼女の持っている肉体、思考、発声とかは、さまざまな時代とエネルギーをはらんでいます。色気のあるおばばを演じてもらいます。加代子さんのすごみは、ここで存分に発揮されるだろうなと思いますよ。ワクワクしています」。

【長塚の目指すところ】 

 秋元自身が自分で驚いたという衝撃のラスト。「結末を読んで、ほんとに胸打たれてしまったんです。衝撃の結末に向かって突き進むというより、そこへきちんと必然的にたどりつけるように道を歩んでいかなければ、と考えています」。

【今の時代に届けたいこと】

「かつてあったこんな劇が、いま上演してもハッと身につまされる何かが感じられたら。そして多分この劇は、懐かしい、はずです。なぜかわからないけど、とにかく懐かしくなると僕は思っています。シンプルに響くように届けたい。鋭く響く懐かしさをお届けできたらいいなぁと思っています。若い方たちにも、是非観ていただきたい作品です」。

  

プロフィール

ながつかけいし●東京都出身。1996年、阿佐ヶ谷スパイダースを旗揚げ、全作品の作・演出を手掛ける。08年、文化庁新進芸術家海外研修制度にて1年間ロンドンに留学。帰国後の11年、ソロプロジェクト・葛河思潮社を始動、三好十郎作『浮標(ぶい)』などを上演。また、17年には福田転球、山内圭哉らと新ユニット・新ロイヤル大衆舎を結成し『王将』三部作を上演。KAATプロデュース作品では『セールスマンの死』(18年)などを上演。多くの舞台作品を生み出し、読売演劇大賞優秀演出家賞など受賞多数。俳優としてもNHK連続テレビ小説『あさが来た』ほかで活躍している。19年4月、KAAT神奈川芸術劇場参与に就任。

STAGE『常陸坊海尊』 チケット発売中

伝説の舞台「常陸坊海尊」を見逃すな!


日時:1/11(土)12:00、12(日)12:00 会場:兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール 作:秋元松代 演出:長塚圭史 出演:白石加代子、中村ゆり、平埜生成、尾上寛之、長谷川朝晴、高木 稟、大石継太、大森博史、平原慎太郎、真那胡敬二 ほか 価格:A席7800円、B席6000円 問合せ:0798-68-0255(芸術文化センターチケットオフィス) HP:http://www.gcenter-hyogo.jp

取材・文=演劇ライター・はーこ

高橋晴代・はーこ

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