コーヒーで旅する日本/関西編|個性派ぞろいのコーヒーに寄り添う看板スイーツとの名コンビ。「COLINA COFFEE」
関西ウォーカー
全国的に盛り上がりを見せるコーヒーシーン。飲食店という枠を超え、さまざまなライフスタイルやカルチャーと溶け合っている。なかでも、エリアごとに独自の喫茶文化が根付く関西は、個性的なロースターやバリスタが新たなコーヒーカルチャーを生み出している。そんな関西で注目のショップを紹介する当連載。店主や店長たちが気になる店へと数珠つなぎで回を重ねていく。
関西編の第6回は、小学生時代からのコーヒー好きという店主・岩田さんが、大阪・吹田に開店した「COLINA COFFEE」。多彩なコーヒーを呼んでやまない、看板スイーツとのペアリングで、界隈の厚い支持を得る一軒です。
Profile|岩田浩一
1967(昭和42)年、大阪府摂津市生まれ。大学卒業後、東京でシステムエンジニアとして勤務。仕事の傍ら、趣味でコーヒー店を巡るなかで、スペシャルティコーヒーとの出会いをきっかけに開店を志し、1年の準備を経て2017年、吹田に「COLINA COFFEE」をオープン。
小学生からのコーヒー好きが叶えた念願の開店
「COLINA」とはスペイン語で「丘・坂」の意味。その名の通り、吹田駅前から千里丘陵へと続く片山坂の途中に、木目基調のシンプルな店構えが見えてくる。「出身は隣の市なんですが、父が駅前にあるビール工場に勤めていたので、このあたりは馴染みのある場所。何らかのご縁を感じますね」。店主の岩田さんが、コーヒーを飲み始めたのは、小学生のころというから、まさに三つ子の魂何とやら。インスタントコーヒーから始まって、大学生になるころには自分でレギュラーコーヒーを淹れるように。以来、コーヒーは岩田さんの日常に欠かせないものになった。
大学卒業後、東京でシステムエンジニアとして働いていたが、時間があればコーヒー店を巡ったり、豆を買いに行ったり、趣味としてコーヒーとの関わりは続いた。「当時から東京のコーヒーシーンは進んでいたので、新しい店やコーヒーのイベントなんかも多くて、スペシャルティコーヒーのことを知ったのもちょうどその頃。関西は深煎りの傾向が強かったのもあり、浅煎りのコーヒーを飲んで、最初は“なんだこれは!?”という驚きと違和感だけが際立ちました。ただ、それが逆に印象に残って、何度も飲むうちに魅力が分かってきたんです」
システムエンジニアを仕事にしつつも、かねてから興味を持っていた飲食店のことが頭の隅に残っていた岩田さん。スペシャルティコーヒーとの出会いから一念発起。「やるからには、誰に出しても恥ずかしくないものを」と、開店前には焙煎や抽出など多種多様なセミナーや教室などで、コーヒーの知識や技術を基礎から研鑽。抽出一つとっても、ドリップに加えてエスプレッソの提供のためにJBA(日本バリスタ協会)のライセンス講習にも参加。バリスタレベル1の認定を受けるなど、ほぼ独学で入念に準備を重ね、念願の開店を実現した。
お客の嗜好を広げる個性派ぞろいのスペシャルティコーヒー
ユニークなスペシャルティコーヒーの持ち味を生かし、クリアな味わいを引き出すべく、焙煎機はオランダのギーセン社製を導入。「使うモノにこだわるタイプなので、焙煎機選びもいろいろ試しましたが、釜に厚みがあり蓄熱性が高いので、豆の芯まで火が通るのが一番の決め手でした。焙煎自体はセミナーで慣れたつもりでしたが、実際、店で初めて見ると感覚も違い苦労しました。ただ、この機体はパソコンをつないでプロファイルデータが取れるので、上手くいったプロセスを再現することで安定してきました」と岩田さん。データに基づいたアプローチは、前職の経験も生かされているようだ。
現在、コーヒーのラインナップは、定番のコリナブレンドと季節限定のシーズナルブレンドに、シングルオリジンが8~10種。しっかりコクのある深煎りから、フルーティな浅煎りまで、幅広い焙煎度を揃え、タイプの異なる銘柄を時々に入れ替えている。店の代名詞ともいえるコリナブレンドは、ブラジルをベースにケニアとコスタリカを合わせた、中深煎りのすっきりとした飲み口が魅力だ。一方、シーズナルブレンドは、配合はもちろんだが、焙煎度も夏と冬は深煎り、春と秋は中煎りと季節ごとの嗜好の変化まで考えている。
「店としてはシングルオリジンが主体ですが、一番人気はブレンドですね。シングルオリジンは他に日替わりのコーヒーもあって、そこを入口に違う銘柄に興味をもってくださる方もいらっしゃいます」。シングルオリジンでは、ジューシーで酸味がまろやかなニカラグア・アナエロビック(※1)・ナチュラル、店と同じ名の農園で生産されるグアテマラ・アンティグア・ラ・コリーナが人気。実は、これらの豆は岩田さんのお気に入りでもあり、「やっぱり自分の好みのコーヒーは、定番的に多く仕入れるようになって、たびたびお勧めしているうちに、お客さんにも飲んでくれる方が増えたんです」
“コーヒーの国”生まれの、看板スイーツとのペアリング
当初、自分で店を開くなら“ほぼコーヒーだけの店”を考えていたが、「住宅街で女性客も多い土地柄、看板となるスイーツがあれば」と思案していた岩田さん。東京で開店準備をし始めた頃、インパクトのあるメニューを探していた最中に出合ったのが、いまや店の看板メニューとなったブラジルプヂンだ。
プヂンとは、コンデスミルクと牛乳、卵で作ったプリンを、ココアスポンジに乗せて焼き上げる、ブラジルの家庭のおやつの定番。「東京のコーヒー店で初めて食べて“これだ!”と、ピンと来て。インパクトもあって、何よりコーヒーに合う。自分は甘党ではないですが、ビターな風味で甘すぎないのもいいなと。メニューに“中津さんの~”とあったのを見て、本人に直接聞きに行こうと思ったんです」。その“中津さん”こそ、日本唯一のブラジルプヂン研究家の中津雄春氏。個人の趣味で研究したレシピを公開し、現地の味を伝えるプヂンの伝道師だった。
「レシピをいただいて、中津さんが作ったものと味を比べながら試作を重ねて出来上がったのが、この店のプヂン。開店の時には中津さんもわざわざ試食に来てくださいました」。スポンジとプリンの2層を焼き上げるプヂンは、たっぷりのカラメルの香ばしい甘味が、スポンジにもじわっと染みて、こっくりとミルキーなプリンのコクを引き立てる。
「見た目はプリンですが、ココアスポンジの風味と相まって、ビターな大人の味わいになります。しっかり広がる甘苦い余韻でコーヒーが進むので、おかわり必至です」と岩田さん。ブラジル・サン・マリノ・ドライオンツリー(※2)など苦味の効いた深煎りもおすすめだが、「プヂンは甘さ控えめなので、浅煎り~中煎りも合います。コスタリカなんかは、ジューシーな酸味が加わって味に奥行きが出ますよ」。プリンに合わせるか、スポンジに合わせるかでも味わいが変わる、個性派ぞろいのコーヒープヂンとのペアリングは、この店ならではの楽しみの一つだ。
自らの開店の経験を活かして次世代をサポート
この店ができる前には、ロースターはほとんどなかった界隈。オープンから5年を経て、街に欠かせない存在になりつつある。「お客さんもなじんできて、最初はカフェの利用が多かったが、最近は豆を買いに来る方も増えてきました」という通り、常連さんと思しきお客の中には「いつもの豆を」とオーダーをする声もあり、この店のコーヒーが街の味として浸透していることをうかがわせる。
今後は、豆の販売とともに、開業希望者のサポートにも力を入れていきたいという。「お店を始めたいと思う人が、学ぶ場所がなかなか少ないのではと感じて。実際、自分が店を始める際もどこに行ったらいいかわからず、苦労した経験があるので、これから始めようとする人に還元したい」という岩田さん。丘の上の小さな店から、また新たなコーヒーの輪が広がっていきそうだ。
岩田さんレコメンドのコーヒーショップは「とある珈琲」
次回、紹介するのは大阪市・淡路の「とある珈琲」。「店主の紙谷さんが吹田駅前の自家焙煎コーヒー店で働いていた時に、来店してくれたのがご縁の始まり。今は店主同士、コーヒー豆の情報交換をよくしています。フットワークが軽く、いろんな場所で出張出店されていて、実店舗の開店日にタイミングが合わず、なかなか行けないので、いまだに“気になる店”でもあります」 (岩田さん)
【COLINA COFFEEのコーヒーデータ】
●焙煎機/GIESEN W1M 2キロ(半熱風)
●抽出/ハンドドリップ(コーノ式)、エスプレッソマシン(シモネリ アッピアⅡ)
●焙煎度合い/浅煎り〜深煎り
●テイクアウト/あり(400円~)
●豆の販売/ブレンド2種、シングルオリジン10~12種、100グラム648円〜
※1…コーヒー豆の精製過程で、密閉して酸素に触れずに活動できる微生物のみによる発酵で風味を形成する嫌気性発酵プロセス。今までにない風味を生成する発酵処理として近年、世界中から注目されている
※2…収穫したコーヒーの実を、果肉が付いた状態でそのまま乾燥させる精製方法。果肉の甘さや酸味によって独特な風味を生み出す
取材・文/田中慶一
撮影/直江泰治
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