父の死を悼む家族の絆に涙。個体数が減少するゾウの飼育について聞いてみた【会えなくなるかもしれない生き物図鑑】

東京ウォーカー(全国版)

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野生を身近に感じられる動物園や水族館。動物たちは、癒やしや新たな発見を与えてくれる。だが、そんな動物の中には貴重で希少な存在も。野生での個体数や国内での飼育数が減少し、彼らの姿を直接見られることが当たり前ではない未来がやってくる、とも言われている。

そんな時代が訪れないことを願って、本連載では会えなくなるかもしれない動物たちをクローズアップ。彼らの魅力はもちろん、命をつなぐための取り組みや努力などについて各園館の取材と、NPO birthの久保田潤一さんの監修でお届けする。第3回の今回は、愛媛県「愛媛県立とべ動物園」の椎名修さんにお話を聞いた。


社会性の高いゾウ。子育ては群れから学ぶ

――同園で現在飼育されているのは、3児を出産した肝っ玉母さんのリカ(推定36~37歳) 、15歳の繊細な女の子・媛(ひめ)、8歳のお転婆な末娘・砥愛(とあ)のメス3頭。リカの仔はほかにオスの砥夢(とむ)がいるが、こちらは現在多摩動物公園で暮らしている。

左からリカ、砥愛(とあ)、媛(ひめ)。「ごはん命!」な砥愛は、姉の媛とエサを巡って小競り合いになることも写真提供:愛媛県立とべ動物園


ゾウは大別してアフリカゾウとアジアゾウがおり、アフリカ大陸に生息するアフリカゾウには森林に棲む森林ゾウ(マルミミゾウ)と、サバンナに棲むサバンナゾウがいます。今、当園で飼育しているのはサバンナゾウで、最初のペアのアフくん(オス)とリカさん(メス)は34年前、密猟によって親とはぐれた仔ゾウを保護する施設から、2~3歳の幼さでやってきました。当時、ゾウを愛媛県の子供たちに見てもらいたいと願っていたので、それが叶ってとてもうれしかったです。

ゾウは社会性が高く、群れで暮らします。メスの子供はお母さんやお姉さん、おばさんなど年上のメスの出産や育児を見て、時に助けてもらいながら、子育てを学んでいきます。オスの子供はそうしたメスの発情や繁殖を体で学び、ある程度大きくなると群れから離れて若いオスの群れを作ります。ところが、動物園のゾウは1~2頭で来園しますから、子育てを学習していません。

人工哺育で育った媛ちゃん。国内では希少な成功例に

よく見ると媛の牙は折れている。イライラした時についぶつけて折ってしまったのだそう写真提供:愛媛県立とべ動物園

うちのリカさんも無事に媛ちゃんを出産しましたが、子育てに関する知識が全くなく、自分の子供として認識できなかった。人間の世界でもネグレクトが問題になったりしますが、動物の世界でも同じようなことがあるわけです。

私たちは何とか媛ちゃんの命を助けようと、人工哺育に踏み切りました。当時、ゾウの人工哺育の例は日本国内では少なく、アフリカゾウは当園が初めて。王子動物園のインドゾウの先例や、海外のデータを参考に取り組みました。

媛。ゾウ舎の壁には高さを示す印があり、大きさを実感できる写真提供:愛媛県立とべ動物園


下痢や熱中症などのトラブルもありましたが、媛ちゃんの「生きたい」という強い意志もあり、無事に育ってくれました。国内の人工哺育の例は現在まで媛ちゃんを含めて4例ありますが、3頭は足の骨折で幼くして死亡。成長できたのは媛ちゃんだけです。今こうして大人になった姿を見られていることは、私としてはうれしい限りです。

次に生まれてくる子供は自分の母乳で育ててほしいと考えていたので、人工哺育中はリカさんの隣で媛ちゃんにミルクを与えていました。それを見て育児を学び、母として成長してくれたリカさん。その後砥夢くんが生まれ、今度はちゃんと子育てをしてくれました。

媛ちゃんは人工哺育で育ったこともあり、人間との距離が近く依存度も高いのですが、ゾウらしく育ってもらうためにリカさんの子育てを見せたりしました。でもやっぱり彼女の中では、今でも半分人間で半分ゾウのようなところもあったりします。

リカと、生まれたばかりの砥愛。体の大きさの違いに驚かされる写真提供:愛媛県立とべ動物園


アフくんの死を悼む姿に感じる家族の絆

――こうしてとべ動物園では3頭の仔が生まれたが、2016年4月14日、3頭の父親のアフが突然死亡してしまった。その時のことを椎名さんは振り返る。

タイヤで遊ぶ砥愛。動物園ではこんな楽しい姿も見られる写真提供:愛媛県立とべ動物園


アフくんが亡くなった時、リカさんや子供たちはアフくんの死を認識し、悲しんでいる様子が印象的でした。隣の部屋で死んでしまったアフくんを見ながら、彼女たちも夜眠ることができなかったようです。のぞき窓から離れることなく、鼻を伸ばしてアフくんの匂いを嗅いだり、体を触って元気づけようとするような様子も見られました。

夜に眠れていないので砥愛ちゃんは、運動場で昼間に体を横たえて寝てしまうんですね。するとお母さんと媛ちゃんが体を寄せ合って、砥愛ちゃんのために日陰を作ってあげるんですよ。ゾウの群れ、家族の強い絆を感じる出来事でした。

リカの第3子・砥愛。ゾウの8歳はまだ少女だ写真提供:愛媛県立とべ動物園

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