コーヒーで旅する日本/関西編|京都のコーヒーシーンを牽引する「WEEKENDERS COFFEE」。尽きぬ探求心で進化を続ける先駆者の“今”
関西ウォーカー
全国的に盛り上がりを見せるコーヒーシーン。飲食店という枠を超え、さまざまなライフスタイルやカルチャーと溶け合っている。なかでも、エリアごとに独自の喫茶文化が根付く関西は、個性的なロースターやバリスタが新たなコーヒーカルチャーを生み出している。そんな関西で注目のショップを紹介する当連載。店主や店長たちが気になる店へと数珠つなぎで回を重ねていく。

関西編の第11回は、今も新店が相次ぐ京都で、長年、コーヒーシーンを牽引してきた「WEEKENDERS COFFEE」。関西でいち早くエスプレッソをメインにしたカフェをオープンし、自家焙煎をスタートして以降はスペシャルティコーヒーの醍醐味を追求し、世界基準の味作りに邁進する店主の金子さんは、いまや海外にもその名を知られる存在となった。創業から17年、バリスタからロースターへとスタンスを移し、今も変化し続けるパイオニアの足跡をたどる。

Profile|金子将浩
1977(昭和52)年、福島県生まれ。大学卒業後、京都の大学に進学。2005年に左京区元田中に「Café Weekenders」を開店。2011年に自家焙煎をスタートし「WEEKENDERS COFFEE」としてリニューアル。2016年に中京区に姉妹店の「WEEKENDERS COFFEE TOMINOKOJI」を展開。2019年には、元田中の店舗も中京区に移転し、「WEEKENDERS COFFEE ROASTERY」をオープン。
エスプレッソから広がったコーヒーの世界

「WEEKENDERS」という屋号を聞いて、思い浮かべる店の姿は、訪れた時期によって随分と違うだろう。90年代から始まったカフェブームの余韻も残る、2005年の創業時からしばらくは、フード・スイーツも充実したカフェ。自家焙煎を始めた2011~15年なら、自家焙煎のコーヒーを主役に据えた専門店。さらに2016年、富小路店のオープン以降はイメージを一新。町家を改装したコーヒーショップは、京都の新名所として国内外に知られる存在に。もはや創業時の姿が想像できないほど、大きく変化を遂げてきた「WEEKENDERS COFFEE」。いまや京都のコーヒーシーンを牽引する存在となったが、この17年の足跡のいずれもが、店主の金子さんの“今”を映したもの。その原点には、一杯のエスプレッソがあった。

金子さんがエスプレッソの存在を知ったのは、学生時代に京都のカフェでアルバイトを始めた時。「コーヒーはもちろん、機械を触るのも好きだったので、見様見まねでマシンの操作を一から覚えました。当時から、“どうしてその作業をするのか?”という理由を逐一考えてましたね」と振り返る。まだ、バリスタという言葉もまだ知られていなかった時代。エスプレッソについての知識や技術もほとんど伝わっていないなかで、抽出の検証を重ね、独学で技術を磨いていった金子さん。
日本では数少なかった“本物”のエスプレッソを求めて、方々の店を飲み歩くなかで出合ったのが、島根の名店・CAFÉ ROSSOだった。CAFÉ ROSSO店主の門脇洋之さんは、2002年から始まったWBC(ワールド・バリスタ・チャンピオンシップ)の日本代表として、日本人バリスタとして当時最高位の準優勝2回。スペシャルティコーヒーの登場以降、新たなコーヒーシーンを開拓した先駆的存在だ。「おいしいエスプレッソが飲める場がまだほとんどなかった時に、CAFÉ ROSSOのエスプレッソは、液体の濃度、密度が段違いでした」と金子さん。この出会いが大きな契機となって自身も、関西でいち早くエスプレッソを主体としたカフェ、「Café Weekenders」をオープンする。

「開店当初は、門脇さんのような味を出したいという思いが明確にあり、CAFÉ ROSSOから仕入れた豆でエスプレッソを提供していました。その頃は、焙煎のことなど考えもしませんでしたし、コーヒーをここまで好きになるとは思わなかった」とはいうものの、開店後はスペシャルティコーヒーの急速な普及と共に、世界各国でコーヒーを取り巻く環境の変化が加速。その波が大きくなるに連れて、金子さんのコーヒーへの関心度も深まっていった。「その頃、門脇さんのコーヒーも、訪ねるたびにどんどん変わって、進化していました。2007年にはWBCが日本で開催されましたし、海外ではノルウェーのティム・ウェンデルボー、イギリスのジェームズ・ホフマンら、歴代のWBCチャンピオンが自店を開き、新たな提案を発信していました。各国のコーヒー界の動向を見て、“世界のコーヒーを知りたい”と思ったことが、焙煎に目を向けるきっかけになりました」

“淹れる技術”から “味を判断する技術”へ

創業から6年を経て自店に焙煎機を導入。「WEEKENDERS COFFEE」と店名を改め、よりコーヒーに特化した店へとリニューアルした。「この頃には自家焙煎やエスプレッソ主体の店も増えて、コーヒーを目当てに訪れるお客さんも明らかに増えてきました。当初はカフェとしてフードも提供していましたが、なかなかコーヒーが評価されないという状況もあって、自分がやりたいことに集中した方がいいと考え、メニューもほぼコーヒーのみに絞りました」
一方、エスプレッソを軸としたメニューに、今までなかったドリップコーヒーが加わったのも、この時の大きな変化の一つ。「いろんな豆の個性を楽しんでほしい」と、日替わりのストレートはフレンチプレスやエアロプレスなど、抽出器具との組み合わせで提案するといった新たな試みも加えつつ、自身はロースターの仕事に専念していった。

とはいえ、焙煎の経験といっても、手網で豆を焼いたり、焙煎機を1カ月ほど触った程度。初めは手探りで、自分の感覚を信じて日々検証を重ねた。と同時に、日本でも北欧やアメリカなど、世界各国で先端を行くコーヒー豆を入手する機会も増え、個性的な豆の持ち味を生かす浅煎りのアプローチに惹かれていった。「飲んだ時に、今までのコーヒーとは違うと感じたんです。自分自身はクリーンなコーヒーが好きなのですが、クリーンには“きれい”のほかに、“豆の特徴がはっきりしている”という意味合いもあります。この時に飲んだ海外のコーヒーと同じように、豆の持つ甘味や果実味、フレーバーをどうしたら出せるのかと考えながら、今の焙煎のやり方を作っていきました」。京都と言えば深煎りの嗜好が根強いが、その中にあって世界基準のコーヒーを明確に目指すようになったのが、焙煎を始めてからの何より大きな変化だった。

エスプレッソから始まった“淹れる技術”から、焙煎における“味を判断する技術”へ。それまでは、流行廃りのない、毎日飲めるコーヒーをイメージしていたが、リニューアル後は、「単に“飲みやすい”という曖昧な評価より、豆の特徴を魅力として伝えたい」と、心境にも変化が現れた。とはいえ、目指す味の提案には苦心も少なくなかった。
「今とやっていることは変わっていませんが、当初は自分が伝えたい味がなかなか伝えられないもどかしさがありました。スペシャルティコーヒーが広がり初めた頃で、最初は浅煎りの強い酸味の印象が強かったということもあり、お客さんがまだ慣れていない状況で、イメージのギャップもあったかもしれません。人にインパクトを与えることは難しいこと、ましてや今までにないものとなると、最初のハードルは今より高かったと思います」

そんな金子さんの逡巡を見抜いたのは、先述のティム・ウェンデルボーだった。2014年、自店で開催するイベントにゲストとして招待した時の出来事は、今でも鮮明に覚えているという。「ティムに自分のコーヒーを飲んでもらったら、一口でダメだしされて、衝撃的な記憶として残っています。といっても、悔しいという思いはなくて、心の中でもやもやと抱えていたことをズバリと言われて、はっきりと自覚できたことが大きかった。その時に分かったのは、考えるべきは焙煎の技術ではなくて、クリーンな味わいの基準、さらに遡ると生豆の選択の良し悪しの判断だということ。今思えば、ここから意識が変わりました。当時は焙煎だけに悩んでいましたが、原料に目を向けることで、考え方も洗練されていった感覚があります」
以来、豆の買い付けや産地の訪問で海外のロースターと同行し、世界のスタンダードに触れる機会が増え、求める原料への知識を深めたことで、より繊細な味作りに磨きをかけた。よりクリーンな味わいを目指すべく、現在、シングルオリジンの豆は、ほぼすべてウォッシュドプロセスを使用。

「ナチュラルプロセスはキャッチーな味で分かりやすいけど、クリーンな味作りに向いているのはウォッシュド。クリーンという言葉も誤解しがちで、単に薄いと思われることが多いですが、しっかり“豆の特徴が出た薄味”と“味が薄い”のは全く違います」。その心は金子さんのコーヒーを飲んでみれば瞭然。香りの華やぎと滑らかなコク、何より後味に立ち上る、曇りなき余韻の透明感に目を見張る。
現在、時季替わりで店頭に並ぶコーヒーは6~7種に絞り、スペックなどは事細かに記さない。「頭で考えながら飲むより、感覚的に味わった方がおいしいと思うので。メニューにはあえて“本日のドリップ”とだけ記しているのは、こちらからおすすめすると、どんなコーヒーでも抵抗なく飲んでもらえることが多いから。できるだけ素の状態で味わってもらって、そこから豆への興味を持ってもらえるよう提案しています」
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