コーヒーで旅する日本/関西編|コーヒーが日常の中にあるために。「NAKAZAKI COFFEE ROASTER」が考える、お客本位の懐深い提案

関西ウォーカー

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“スペシャルティ以前”を経験したからこその懐深い提案

台所に設置した年代ものの焙煎機は、前職の取引先だった喫茶店から譲り受けたもの

その後、会社は廃業したが、得意先からの要望もあって、地元の姫路で独立することになった中崎さん。当初は明石で焙煎機を借り、前職時代のお客向けの卸専業として始めたが、ほどなく実家が空いたのを機に焙煎機を導入し、2016年に「Sakura Coffee」として開店。1年ほど経つと、近隣から小売の要望が増え始め、2017年に「NAKAZAKI COFFEE ROASTER」と屋号を改め、卸と小売の二本柱にして心機一転、再スタートを切った。

同じ時期に、方々で耳にする機会が増えたのがスペシャルティコーヒーの存在だった。「その頃は、良い豆が出てきたということは知っていましたが、ぼんやりとしたイメージしかなかったですね。逆に“スペシャルティって何?”と、自分でも疑問を持ちました。お客さんからの問い合わせも増えていたので、求められているなら知識が必要だと感じて勉強を始めました」という中崎さん。店の仕事の傍らSCAJのセミナーに通い、さらにコーヒーマイスターやQグレーダー資格までも取得。スペシャルティコーヒーに対する自問に答えるように、新しいコーヒーの理解に努めると同時に、今までにない特徴も感じていた。

「前職時代、最初に扱ったのがコモディティコーヒーやプレミアムコーヒーだったので、浅煎りでも鮮やかに香りと風味が出るスペシャルティコーヒーのすごさは、人一倍感じられました。ただ、仕入れる時にグレーゾーンの豆が混ざってくることもあったので、仕入れ元の決めた基準ではなく、自分で判別できるようになっておきたかったんです」と、各所で学ぶなかで自らの基準を作ることに重きを置いていた。

生豆はすべて当年産のニュークロップを使用。幅広い焙煎度に耐える豆を吟味する


以来、店で扱う豆もスペシャルティコーヒーが占めていったが、100%専門店ではないところが、この店の懐の深さ。中崎さんならではの提案は豆の品揃えに現れている。とりわけユニークなのは、3種のブレンドのうち一つだけ、プレミアムグレードの豆だけを配合したブレンド・Deepを常備していること。

「スモーキーでレスクリーン、いかにもコーヒーとしてイメージしやすい味わいです。“とにかく酸っぱくないコーヒーがいい”という方には、こちらを勧めています」。直火で焙煎するプレミアムグレードの豆は、いわば“昭和のコーヒー”に近いテイスト。かつてはじっくり時間をかけて深煎りに仕上げることが多かったが、「豆の水分が多い最初に強火で芯まで焼き込む、スペシャルティコーヒーの焙煎アプローチだと印象が変わります。同じ焙煎度でも、今のやり方なら風味や余韻に透明感が出るんです」という通り。軽やかな飲み心地は、まるで別物の感覚だ。

スペシャルティコーヒーが主流の今、あえてこのブレンドを置くのは、お客の求める味の幅が広がり、嗜好の違いもより明確になったから。「スペシャルティの基準だとクリーンカップで甘さや酸味、フレーバーの個性を追求するという方向ですが、毎日ガブガブ飲む人は、多少レスクリーンでも、しっかり飲み応えある味を求められます。ただ、時には味の変化が欲しくてスペシャルティを求められることもある。逆に、普段はスペシャルティを好む方も、時に飲み疲れが出て、“何も考えずに飲めるコーヒーが欲しい”ということもある。そんな時に、プレミアムグレードの豆も躊躇なく提案できるのは、前職での経験が大きいですね」

ブレンドはSpecialとBitter、Deepの3種。本来は卸用のDeepは、とろりとまろやかな香味とチョコのようなビターな余韻が印象的


片やシングルオリジンはすべてスペシャルティグレードだが、同じ銘柄でも異なる焙煎度で2、3種類を用意するのが、この店ならでは。基本は産地ごとに分け、時季により品種や農園などは変わるが、味の方向性は同じになるように心がけている。「スペシャルティコーヒーが出始めた当初、浅煎りに偏った時期がありましたが、カッピングに対する誤解があったのかも知れないと思っています。カッピングは豆が持っている風味の要素を判断するための手段であって、そこで豆の味が決まるわけではない。あくまで、“どうしたらおいしくなるか?”というアプローチを考える基準になるものですから、ここではあえて深煎りにすることもあります」

「気さくな“街のコーヒー屋”として親しまれる店にできれば」と中崎さん


店に並ぶ豆は、カッピングスコアでいえばおおよそ80~84点。ロースペシャルティもしくはハイコモディティと呼ばれるゾーンに絞って仕入れ。「それ以上になるとコストが高すぎるので、トップオブトップの豆を入れるのは特別な時だけ」と中崎さん。100グラム・650円~という設定も十分良心的だが、さらに300グラムで1割引、500グラムで2割引になるため、毎日飲む人にとってはコスパがグッと上がる。実際、訪れるお客は、100グラムずつ3種類といったまとめ買いが多く、時には1キロ近くになることも珍しくない。

「同じコーヒーを長く飲んでいると飽きたり、しんどくなったりする時期が必ずあります。リセットしてまた続けて飲むためには、お客さんが違う焙煎度や豆のグレードなどを行ったり来たりできる幅を作ることが必要。その方が結果的に安心して、長く楽しんでもらえますから」。コーヒーが日常の中にあるために。その思いが、店の随所に体現されている。

2018年に、ハンドドリップの競技会・JHDCで3位入賞。2号店開店のきっかけとなった


お客の声に応え続けるため、より多くの知識と技術の引き出しを

本店とは打って変わって、本町店はスタイリッシュな店構え

一方で、スペシャルティコーヒーを扱い始めて、浅煎りの豆の抽出が詰まり気味になることが多いことに気付いた中崎さん。「調べてみたら、豆の芯まで焼けていない時に起こることが分かりました。ただ、その時に抽出のことは何となくの感覚で答えていたこともあり、改めて見直す必要を感じました」

そこで抽出の技術を磨くべく、2018年からハンドドリップの日本一を決める競技会・JHDC(ジャパン ハンドドリップ チャンピオンシップ)に参加。初出場で3位という好成績を収めたが、中崎さんの目的は入賞とは別のところにあった。「実は順位よりも、審査のスコアシートがほしかったんです。人の意見を聞いてみたい、というのが大きな動機。審査員はみなQグレーダーで、普段自分が見えていないこともシビアに評価してもらえる。ネガティブなことも含めて、冷静にテキストと数字で出してもらえるのがありがたかった」と中崎さん。

とはいえ、初出場3位の反響は大きく、やがて店でも中崎さんの淹れたコーヒーを飲みたいというお客が増えた。その声に応えて、2022年、新たに姉妹店としてコーヒースタンドをオープン。「買った豆を実際に淹れた時にどういう味になるか知りたい、という本店の常連さんが多いですね。聞いてもらえれば、抽出時は目の前でレクチャー的にお伝えすることもあります。スタンドで抽出するようになって、お客さんが最後まで飲み切れる濃度を考えるようになりました」と、中崎さんにとっても大いに刺激があるようだ。

本町店は姫路城の目の前。天守を望む公園でコーヒーを楽しむのもおすすめ


振り返れば、節目節目でお客の声に応えるため、自身の知識や技術を磨き直し、着実に定評を得てきた中崎さん。「やるからにはお客さんにちゃんと伝えないと、と思いますし、何より自分が分からないままにしたくないので、常に自身で検証したことを元に応えられるようにしています。お客さんが聞きたいことは自分が聞きたいことでもあって、これまで曖昧に答えて後悔した経験もあるので、なおさらきっちりやろうという思いは強いですね」

スタンドでは、抽出前に挽いた粉の香りを試してもらうひと工夫も


今年は、かねてから出場を考えていた、焙煎技術を競う大会・JCRC(ジャパン コーヒー ロースティング チャンピオンシップ)にも参加予定という中崎さん。「自分の思い描くイメージをコーヒーで表現できるように、焙煎も、抽出も、常に多くの引き出しを持っておきたいというのが大きな動機。ただ、競技会での評価がどうあれ、お客さんが飲んでおいしいと感じることが大事なので」と、目線はあくまでお客本位。穏やかな人柄に揺るがぬ芯を秘めて、これからもコーヒーのある日常に寄り添い続ける。

好みの豆を選べる、ドリップコーヒー(600円)


中崎さんレコメンドのコーヒーショップは「K COFFEE」

次回、紹介するのは、奈良県大和郡山市の「K COFFEE」。
「奈良県のロースターとしては先駆け的な存在で、店主の森さんとはSCAJチームチャレンジという焙煎合宿で一緒になって以来、よく情報交換をする間柄。いつも飄々としていますが、当初からコーヒーに真摯に取り組む情熱家です。以来、めきめきと焙煎技術を上げている実力派にして個性派。同業者からも近年、注目を集める存在です」(中崎さん)

【Nakazaki Coffee Roasterのコーヒーデータ】
●焙煎機/フジローヤル 3キロ(直火式)
●抽出/ハンドドリップ(ハリオ)
●焙煎度合い/浅煎り~深煎り
●テイクアウト/あり(600円)※本町店のみ
●豆の販売/ブレンド3種、シングルオリジン約10種、100グラム650円〜

取材・文/田中慶一
撮影/直江泰治


※新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大防止にご配慮のうえおでかけください。マスク着用、3密(密閉、密集、密接)回避、ソーシャルディスタンスの確保、咳エチケットの遵守を心がけましょう。

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