コーヒーで旅する日本/関西編|時を止めた路地奥に満ちる新鮮なコーヒーの香り。日常を忘れさせる憩いの隠れ家。「自家焙煎珈琲 喫茶路地」
関西ウォーカー
“喫茶店の憩い”を大切に、コーヒーの提案はさりげなく

店の顏でもある路地ブレンドは、創業以来、ケニアとグアテマラの配合が基本。鮮やかな果実味と優しい香味の融合を目指した不動の定番だ。深煎り好きという岩金さんだけに、ブレンドも中深煎りとはいえ、2ハゼのピークまで持っていくため、他店なら深煎りと呼べる焙煎度だ。ひと口目こそ、どしっとコクがある印象だが、後味には柔らかい甘味、ほのかに果実とスパイスのニュアンス。華やかな風味とまろやかな苦味のバランスが身上だ。また、焙煎度の基準がやや深めゆえ、シングルオリジンも独特の個性を発揮。例えば、中浅煎りのエチオピアは、繊細な紅茶や花の香りを残しつつ、ボディがあり、蜂蜜のようなまろやかさが印象的だ。

もちろん、煎りたての美味しさが岩金さんの原点ゆえ、店で供するコーヒーも、焙煎後10日以内の豆のみを使用。「古くなると砂糖やミルクで味をごまかしてしまいがちですが、新鮮な豆であれば入れなくても美味しい。自分がかつて感じた驚きを、お客さんにも新たな気付きとして知ってほしくて」と、コーヒーはブラックが基本。もちろん、希望があれば対応するが、テーブルに置いておくとつい入れてしまうことも多いため、新鮮なコーヒーを使用していて、ブラックでも飲みやすい旨を一言添えて提供する。決して押し付けるわけでなく、さりげなく勧めるのが、岩金さんのこだわりだ。
メニューはコーヒーのほか、ほうじ茶、焼菓子があるだけで至ってシンプル。「時には、コーヒーしか出ない日もあります」という岩金さん。いかにもコーヒー専門店のように見えるが、それでも、屋号に“コーヒー”を入れることは考えなかったという。コーヒー店としてしまうと専門知識がいるかも知れない、という先入観ができてしまう。あくまで喫茶店として来てもらって、その延長でコーヒーを楽しんでほしいので」と、ここにも岩金さんならではの店作りが垣間見える。
緩やかに変わりながら、穏やかな空気はそのままに

来年で10周年を迎えるが、創業の頃は、「とりあえず待ってみようという気持ちで始めました」とひっそりとスタート。元々目立たぬ立地だったこともあり、知る人ぞ知る一軒として、口コミでじわじわと店の存在は広がっていった。それでも、「いまだに、“こんなとこに店があったの?”と言われますし、何回来ても道に迷うお客さんもいらっしゃいます」と笑う、岩金さんのスタンスは今も変わっていないが、店はその間、少しずつ新たな魅力を加えてきた。
近年では、コロナ禍に対応して、テイクアウトの窓口を設けると共に、店内のレイアウトも変更。陳列棚には、カフェラテベースやドリップバッグのほか、巾着、手ぬぐいなどのアイテムの販売もバラエティを広げている。中でもドリップバッグは、「カフェインに気を使う人にも気軽に上げられるように」と、デカフェの豆を半分配合したブレンドを、人気イラストレーター・朝野ペコ氏と協働で新たに開発した。

また、月ごとの展示作家の作品や季節のイベントにちなんだアイテムの販売や、コーヒーをさらに楽しんでもらうための催しも。例えば、秋の夜長に合わせた本と共に、夜でも飲みやすいデカフェのコーヒーをセットにするなど、自家焙煎店ならではの提案が好評だ。さらに今年、期間限定で登場し、人気を得てメニューに加わったのが、オリジナルの路地色もなか。西淀川区のわがし屋よだもちの白粒あんとキウイを合わせた一品は、コーヒーの友として新たな名物になりそうだ(時季により提供がない場合もあり)。
「年々コーヒー店が増えてきて、新しい豆の種類や技術も追いかけないと、と思いますが、流行に乗ることが大事というわけではないので」と、あくまでマイペースの岩金さん。緩やかに変化しながらも、穏やかな空気はそのままに。稀有なくつろぎの時間が、長年愛される所以だろう。昭和の香りを色濃く残す空間に身を置けば、振り子時計の音が響くばかり。日常から離れて、カップから立ち上る香味に浸るひとときは、この店ならではの贅沢だ。

岩金さんレコメンドのコーヒーショップは「煎りたて ハマ珈琲」
次回、紹介するのは、大阪市城東区の「煎りたて ハマ珈琲」。
「コーヒーの世界に入るきっかけとなった一軒で、元タバコ店を改装した空間は、うちの改装の際にも参考にさせてもらいました。店主の濵さんは、“コーヒーの鮮度”の大切さを伝え続けて、ついには自分で焙煎機を開発し、販売するまでになった、一本芯が通った人。今でも自分の師匠的な存在です」(岩金さん)。
【自家焙煎珈琲 喫茶路地のコーヒーデータ】
●焙煎機/煎りたてハマ珈琲 1キロ(直火式)、ラッキーコーヒーマシン 4キロ(直火式)
●抽出/ハンドドリップ(ハリオ)
●焙煎度合い/中浅煎り~深煎り
●テイクアウト/ あり(550円~)
●豆の販売/ブレンド1種、シングルオリジン3~4種、100グラム780円~
取材・文/田中慶一
撮影/直江泰治
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