コーヒーで旅する日本/関西編|スペシャルティコーヒーが持つ、多種多様なテロワールの醍醐味を北摂から世界へ発信。「TERRA COFFEE ROASTERS」

関西ウォーカー

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ベルリンでの経験を生かした、ユニークなコーヒーの提案

「焙煎時は豆に極力熱量を与えず、素材由来の持ち味をボトムアップさせるのが理想」と山本さん

ベルリンに渡って、すぐにいくつかの店のトライアルを受け、幸先よくロースターリーカフェで働く場を得た山本さん。さらに、店の紹介を通して、現地のスペシャルティコーヒー専門店・WIM Kaffeeの立ち上げ、プロデュースに携わり、2年でメインバリスタを務めるまでに。ドイツのコーヒーカルチャーを吸収する中で、山本さんの仕事に対する心境にも大きな変化あったようだ。「日本では業務分担がはっきりしてますが、ドイツではバリスタ・トレーナー・ロースター・バイヤーとキャリアがつながっています。世界的にはバリスタだけを続けていては進歩がないので、ステップアップするには焙煎の知識や技術が必要と感じました。そのことは海外に行ってみて初めて気が付いたこと。それだけでも行った甲斐がありましたね」と振り返る。

そんな折に、出合ったのが、東ベルリンにできたばかりのPopulus Coffeeだった。「まだオープン直後で、スタッフを募集していたので、“ここなら焙煎に関われるチャンスがあるかも”と思って」と、飛び込んだ2日後にはトライアルに誘われ、新たな道を踏み出した山本さん。Populus Coffeeは、元ジャーナリストのオーナー・ヘンリック氏が始めたロースター。小さいながらも、豆のサステナビリティを明確に示す姿勢と、本来スペシャルティコーヒーのあるべき流通・循環を目指す店作りを体感し、本格的に焙煎の仕事に傾倒していった。

ラベルのデザインも多彩なボトルで豆を販売。金色のラベルは各国の品評会入賞豆


ベルリンでの4年半を経て、帰国後は、先輩の岡田さんからの誘いで、Okaffe kyotoの姉妹店で焙煎士として再スタート。この時、開店を構想していた「TERRA COFFEE ROASTERS」のオーナーが店を訪れ、山本さんのコーヒーに感銘を受けたことが、今に至る大きな転機になった。「全国各地のコーヒー店を巡っているアクティブな方で、“本物のスペシャルティコーヒーの醍醐味を世界に発信する”という思いに共感して意気投合。コーヒープロパーでない方と一緒に仕事することで、自分も幅が広がると思って」と飛び込んだ新天地「TERRA COFFEE ROASTERS」で、持てる技術と経験をいかんなく発揮している。

時季替わりで常時4~5種を提案するコーヒー豆は、ベルリン時代のつながりを生かして、独自の仕入れルートを開拓。Populus Coffeeのオーナーを通じて縁を得たフランス・ボルドーの商社や、ホンジュラスのエクスポーターからダイレクトに仕入れる豆は、ロットの違いまで明確に吟味し、関西でもここだけという希少な銘柄も少なくない。中でも、山本さんにとって思い入れが深いのが、ホンジュラス・エル・フィーロ農園のコーヒーだ。

「Populus Coffeeのオーナーが現地を訪ねて見つけてきた、Populusのルーツともいえるコーヒー。当時、実際に飲んでみて、“現地に行ってみたい”と思えるインパクトがありました。ただ、初めはうまく焙煎ができなくて、いい印象がなかったんですが、何年後かに生産者と話したり、周りの評価を聞いたりして、豆の個性そのものよりも、柔らかくバランスの良い風味が魅力と気付いて。僕にとって、焙煎を始めた頃に出合った原点のような豆でもあり、この経験が、今の焙煎のアプローチにつながってます」

豆は焙煎後1週間経った時点でカッピング。現在は10種類の豆で2セットを行う


多彩なコーヒーを日常的に楽しむ文化が広がる起点に

開放的なでモダンな空間の千里東店。奥にゆったりとしたイートインカウンターを併設

いずれ劣らぬユニークな個性を持つコーヒーの醍醐味を引き出すべく、山本さんは、豆の鮮度はもちろんのこと、焙煎におけるテイストバランスをより重視する。「豆の個性といっても、インパクトのあるフレーバーが突出すると飲み疲れします。“もう一杯飲みたい”と思える味わいが理想。そのためには、口当たりや甘味、酸味の余韻など、テイストバランスがより大事になります、ベルリンでの経験から学んだのは、フレーバーの特徴だけにフォーカスするのでなく、トータルで考えて心地よい飲み心地を目指す味作り」と山本さん。例えば、ホンジュラスなら、ほのかな香味と共に鼻に抜けるグリーンな香りの爽やかさ。エクアドルなら、柔らかな酸と甘みが織りなすみずみずしい果実感。決して、華美な風味が際立つばかりではない。すっとしみ込むような、穏やかなフレーバーと余韻の透明感こそ、山本さんがイメージする浅煎りの真骨頂だ。

脱プラスチックの一環として、テイクアウトのアイスコーヒーは缶に詰めて提供


「コーヒーの支配的な味わいである苦味を抑えて、繊細な酸や甘味を感じやすくするアプローチで、テロワールを表現したい。これを感じられるのは、人間の味覚の特権なので。コーヒーは苦いというのが一般的だが、従来と別のジャンルと考えた方がいい。こういうコーヒーもある、というのを知ってもらえれば」と山本さん。従来のコーヒーとは一線を画す、未体験の味わいと出合えるのはここならではの楽しみ。現在は卸先も広がり、焙煎量も急増、関西のコーヒーシーンに新風を吹き込むニューカマーとして存在感を増している。今後は、地元を中心に、お客一人ひとりに、いかにコーヒーの魅力を伝えていくかが大きなミッションだ。

「ヨーロッパに行って、想像以上にみんながコーヒーを飲んでいて、日常に根付いていると再認識しました。日本では多彩なコーヒーを楽しむ文化がまだまだ足りないと感じました。長い目で見て、スペシャルティコーヒーを少しでも身近にしていくことが、この店の役割。文化を作るというと大げさですが、単においしいだけでなく、いろんなコーヒーの味わいを知ってもらって、日常で楽しめるように。まずは地元密着で広めていきたい」。いずれは関西から全国、さらに世界へ。ユニークな提案でコーヒーの多様性と楽しみを発信する気鋭の一軒。これからの展開を楽しみにしたい。

「自分を高めるためのアンテナを張って、常に職人であり続けたい」と山本さん


山本さんレコメンドのコーヒーショップは「Kurasu」

次回、紹介するのは京都市の「Kurasu」。
「“日本のコーヒー器具を世界に発信する”というコンセプトから始まったお店で、今では、日本のロースターのコーヒーを世界に発信するサブスクリプションや、自社焙煎も行っている、京都コーヒーシーンを代表するロースターの1つです。ヘッドロースターの良原くんは、元々、小川珈琲にいた間接的な後輩。ギーセンとローリングというタイプも大きさも違う2種類の焙煎機を使いこなし、浅煎りから深煎りまで焼く技術はすごいと思います」(山本さん)

【TERRA COFFEE ROATERSのコーヒーデータ】
●焙煎機/ローリング 7キロ(完全熱風式)
●抽出/ハンドドリップ(エイプリル)、エスプレッソマシン(シモネリ)
●焙煎度合い/浅煎り
●テイクアウト/ あり(500円~)
●豆の販売/シングルオリジン4~5種、100グラム1000円~

取材・文/田中慶一
撮影/直江泰治


※新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大防止にご配慮のうえおでかけください。マスク着用、3密(密閉、密集、密接)回避、ソーシャルディスタンスの確保、咳エチケットの遵守を心がけましょう。

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