コーヒーで旅する日本/関西編|日本茶の老舗が気鋭のロースターになるまで。「辻本珈琲」がコーヒーを通して広げる“すてきなじかん”

関西ウォーカー

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全国的に盛り上がりを見せるコーヒーシーン。飲食店という枠を超え、さまざまなライフスタイルやカルチャーと溶け合っている。なかでも、エリアごとに独自の喫茶文化が根付く関西は、個性的なロースターやバリスタが新たなコーヒーカルチャーを生み出している。そんな関西で注目のショップを紹介する当連載。店主や店長たちが気になる店へと数珠つなぎで回を重ねていく。

店の半分はドリップバッグの製造を担うファクトリー。世界各国から届く何袋もの生豆が所狭しと並ぶ


関西編の第69回は、大阪府和泉市の「辻本珈琲」。120年以上続く日本茶の老舗・辻峰園の5代目でもある店主の辻本さんが、畑違いのコーヒーを扱い始めたのは、今から20年前。ドリップバッグの加工・製造に始まり、ECサイトでの販売を経て、ロースターへと進化した、ユニークな経歴を持つ一軒だ。現在もECサイトでの販売を軸に、お客の好みに応える多種多様な豆を扱う「辻本珈琲」が目指すのは、コーヒーを通して生まれる“すてきなじかん”の提案。まったく偶然の縁からコーヒーの世界に踏み出し、多くの支持を得るまでに至った足跡を伺った。

店主の辻本さん。店頭の焙煎機・ギーセンでは小ロットのスペシャルティコーヒーを焙煎


Profile|辻本智久 (つじもと・ともひさ)
1979年(昭和54年)、大阪府和泉市生まれ。1899年創業の茶舗・辻峰園の5代目として、大学卒業後から家業に携わる。日本茶を取り巻く環境の変化を感じ、2003年から新事業としてコーヒーのドリップバッグ加工・製造を始め、2005年に「辻本珈琲」としてECサイトを開設。以来、コーヒーの品質や風味への関心を深め、Qグレーダー資格取得、産地の訪問など研鑽を重ね、2016年に本社と実店舗を新設。3年後に焙煎所を増設し、店頭では多様なスペシャルティコーヒーと共に、独自の商品企画で“コーヒーを通して始まるすてきなじかん”を提案する。

日本茶からコーヒーへ。老舗に訪れた大きな転機

すっきりとモダンな店構え。2階が張り出したデザインがユニーク

大阪府の南部、広大な丘陵地に里山の風情も残る和泉市。大阪のベッドタウンとして近年、新たな住宅地や大型商業施設が増えているが、今もまだのどかな自然が感じられるエリアだ。実は、「辻本珈琲」は元々、この地で100年以上続く日本茶の老舗。店主の辻本さんは5代目にあたる。「子供の頃から、父母の姿を見ていて、家業は継ぎたいと思っていました」という辻本さんが、なにゆえコーヒー専門店を開いたのか。そこには、日本茶を取り巻く状況の大きな変化があった。

辻本さんが社会人になった頃には、日本茶を家庭で淹れる習慣が薄れてきていたことに加えて、ペットボトル飲料の1ジャンルとして日本茶が定着。コンビニなどでの販売も急速に普及。茶葉を使うことなく、手軽にいつでも飲めるものになりつつあった。辻本さんの祖父の代までは、茶の栽培も手掛けていたそうだが、時代の変化を見るにつけ、「これは、ひょっとすると自分の代で終わってしまうかもしれない」と、家業の行く末に危機感を抱いていた。そんな折、転機となったのは、コーヒーのドリップバッグの加工に携わっていた同業者との縁。2003年に新たな事業として、ドリップバッグのOEMに参入したのが、コーヒーとの関わりの始まりだった。

充実したギフトも人気。カラフルなパッケージデザインが目を引く


「当時は、缶コーヒーで満足していたくらいで、コーヒーに特段の興味を持っていたわけではなかった」と振り返る辻本さん。それでも家業を立て直すために、とにかく目の前にある仕事、依頼のあるものをこなすことに注力した。とはいえ、「単に注文されたものを作るだけでは、自分が苦しくなる感覚があって。せっかく始めたのなら、独自のコーヒーを提案したい」と、2005年にECサイトを開設。オリジナルのコーヒー販売をスタートしたのが、「辻本珈琲」の原点にある。

OEMによる製造のかたわら、委託焙煎でブレンドを作ったり、当時グルメコーヒーと呼ばれた高品質の豆の品揃えを増やしたりと、オリジナルの商品開発に試行錯誤。さらに、焙煎から24時間以内の加工で豆の鮮度を打ち出し、“お茶屋が考えるまろやかブレンド”といったユニークなネーミングで差別化に腐心した。

家庭用の多彩な抽出器具も販売


家業の茶舗では対面販売が当たり前だったが、ECサイトでの販売を通じて、オンラインならではのメリットも感じたという。「全国各地、まったく縁のない土地の人々からも注文が入り、つながりができるのはECサイトならではの魅力」と辻本さん。2008年に登場したデカフェの豆をはじめ、各地のお客の声をヒントに生まれた商品も多い。何より、コーヒーを扱う仕事に向き合う姿勢を、改めて感じさせられたのが、2011年の東日本大震災で被災したお客からの声だった。「東北のお客さんから、震災の何カ月かあとに連絡があって、多くのものを失った状況でも、“コーヒーがあったおかげで平静を保つことができた”といった言葉に、コーヒーの持つ力と、それを届ける仕事の意義を見出した思いでした。以来、品質と鮮度の追求をよりいっそう意識するようになりましたね」と、このときの経験は「辻本珈琲」にとっての、大きなターニングポイントになった。

店内の一角では日本茶も取扱い、急須や茶筒なども販売


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