コーヒーで旅する日本/関西編|日本茶の老舗が気鋭のロースターになるまで。「辻本珈琲」がコーヒーを通して広げる“すてきなじかん”

関西ウォーカー

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お客のニーズに応える多彩な豆の顔ぶれ

巨大なローリング・スマートロースターは、主にドリップバッグ、リキッド用の豆を焙煎

生来、何事も突き詰めて考える性格で、徹底して追求したいという職人気質の辻本さん。ECサイトも競争が激しくなる中で、コーヒーの品質や風味への関心を深め、SCAJや各種セミナーにも参加。スペシャルティコーヒーの品揃えを増やすなど、さらなる店のカラーを作ることに邁進。台湾やベトナム、タイなど産地への訪問にも出かけ、2015年にはブラジルの農園も視察。このとき、一緒に参加していた神戸のCoffee Temple店主・田和さんの誘いでSCAJの運営にも関わるようになり、新しいコーヒーの知識、技術を得る機会を増やしていった。その甲斐あって、ECでの販売が伸びてきたこともあり、2016年、新たな拠点として立ち上げたのが、現在の店舗だ。

「自家焙煎の準備もしていたが、決定的になったのは、ECの販売が順調に伸び、場所が手狭になったこと。スタッフの働く環境の向上も含めて、スペースを広げたかった」と心機一転。新店舗では、まず直火式焙煎機を導入し、少しずつ商品も自家焙煎に切り替えていった。同時に味作りには必須のカッピングスキルを磨き、Qグレーダーの資格も取得。カップオブエクセレンス(COE)の審査員も経験するなど、自らのスキルアップに努めてきた。その中で、コーヒーに対する向き合い方も変わってきたという。

店の半分はドリップバッグの製造を担うファクトリー。世界各国から届く何袋もの生豆が所狭しと並ぶ


「自分で生豆を買い出してから、集中して豆の個性を見るようになった。委託焙煎のときは自分の手を使ってないので、どうしても距離を取ってしまう、いわば別部署の話みたいな関わり方で、中身に自信がないまま発信している感じでした。焙煎を始めてからは、実感を持ってコーヒーを勧めることができるようになりました」と辻本さん。豆を選ぶ際には可能な限り産地に足を運んだり、サンプルを送ってもらったりと、実物に触れて吟味し、お客に明確に説明できるものを扱うことを心掛ける。

それでも、店で扱う豆は50種以上に上り、コモディティからスペシャルティまで、グレードの幅広さも実に幅広い。「自分は気が多いので(笑)、一つに絞れないところがある。良いものは良いという感覚で、お客さんに勧めています」と辻本さん。店頭ではスペシャルティグレード、シングルオリジンに絞って提案しているが、それでもメニューには20種近く。産地やプロセスもさまざまで、COEをはじめ希少な豆も数種含まれている。多様なコーヒーでお客の求めに応えたい、という思いがにじみ出る品揃えは、長らくECサイトで販売を続けてきた経験が大きい。

テイクアウトのスペシャルティコーヒー(583円~)。シーズナルやトップオブトップまで、約20種が揃う


「ここは、コーヒーの個性の幅広さに触れるショールーム的な位置づけ。ECが長かったので、対面販売は新鮮。やっぱり顔を合わせて話す方が好きなので。客層も若い方から地元の人まで。コーヒーを自分で淹れ始めたとか、浅煎りも飲んでみたいとか、苦手な方からのめり込んで好きな方まで、新しいご縁も広がっています」。多種多様な豆との出会いに加えて、コーヒーシーンのトレンドにも触れてもらえるよう、さまざまな抽出器具も販売。ドリップコーヒーの提供には、最新の全自動抽出マシン・ポアステディも導入。多彩なコーヒーの味をブレなく飲み比べできるようにしている。

コーヒーマイスターをはじめ、スタッフも積極的に資格を取得している


コーヒーから生まれる“すてきなじかん”

関西でもまだ数少ない、全自動ドリップマシン・ポアステディ。ブレなく抽出することで、多様な豆の風味の違いがより明確に

ここまで見ると、いかにもスペシャルティコーヒー専門店という印象を受けるが、辻本さんが届けたいのは、モノとしてのコーヒーだけでなく、“コーヒーを通して始まるすてきなじかん”。「辻本珈琲」を運営する会社名も、ズバリ“すてきなじかん”だ。「あの震災の体験から、コーヒーは人の気持ちを変えたり、切り替えたりできる力を持つと気付いたんです」、という店のモットーを体現するのが、“すてきなじかんプロジェクト”と銘打った独自の企画。その始まりは、創業15周年の記念の“雨あがりのじかん”から。

「雨の日に、大阪市内の店に買い物に入ったとき、店主さんが常連さんを送り出したら、ちょうど雨が上がったんです。その光景を見て、雨から晴れに変わるように、コーヒーでも気持ちの切り替わりを表現したいと思いついたんです」。このプロジェクトでは、ドリップバッグ“雨あがりのじかん”の販売と共に、それぞれがイメージする「雨あがりのじかん」をコラム、写真をお客から募集してコンテストを開催。普段はないコミュニケーションの機会となり、好評を得たドリップバッグは継続的に販売している。

すてきなじかんプロジェクトの第1弾として考案されたドリップバッグ“雨あがりのじかん”。好評を得て、現在も継続して販売中


また、第2弾の“ぱんじかん”では、4種類のパンそれぞれに合うスペシャルティコーヒーを提案。「スペシャルティコーヒーに傾倒すると、どうしてもスペックに寄って、横文字が並ぶことになる。個人的には好きだけど、お客さんはどうか?と考えたときに、何かとのマリアージュならもっと気軽に選べる。パンとコーヒーは最たるもの」と、コーヒーをあえて脇役にすることで、より親しみやすいフックを作った。さらにベーカリーにとっても、パンと組み合わせた商品として付加価値を生む提案も行い、三方よしの考えが形になった。現在、第4弾まで企画を実現しているが、このプロジェクトはいずれも、手軽なドリップバッグのみで展開するというのが、長年、製造に携わってきたこの店ならではのアイデアだ。

ドリップバッグ製造から始まっただけに、商品ラインナップは豊富。パッケージもバラエティに富んでいて、気軽なプレゼントにもぴったり


「今も主軸はEC。あちこちのいろんな人に届けられるのが魅力。一方で、ショールームは大きなものはないが新しい発見がある。お客のニーズを知る場所、卸の相談や生産者の方も来る。ここができてから発見の毎日」という辻本さん。今年は、よりコーヒーを深く楽しむための新機軸のイベント、コーヒーエクスペリエンスも開催。豆のプロセスやグラインド、抽出湯温・器具などの違いを飲み比べで体験できる、“コーヒーラボ”的な内容だ。とはいえ、「この企画は、自分の趣味的な面もあるので(笑)。あまりそちらにバランスを取られないように気を付けています。やはりお客さんのニーズが第一。レビューを見て味を見直したりもする。自分の持っている知識は知れてるので、周りに教えられることはとても多い」。すてきなじかんプロジェクトも、今年の秋冬に第5弾を予定しているとか。「店の顔になればいいなと思っていますが、気まぐれで、いつやるかはわからない(笑)。それもうちらしさかなと。“辻本珈琲らしいね”と言われる名物企画として、楽しんでもらえるものにしたいですね」。辻本さんが出会った素敵な時間が、どんな形で実を結ぶか。楽しみに待ちたい。

「 現在、スタッフは25名。焙煎や抽出、デザインやイラストなど、それぞれの得意分野を店作りに発揮してもらってます」と辻本さん


辻本さんレコメンドのコーヒーショップは「Lilo Coffee Roaster」

次回、紹介するのは、大阪市中央区の「Lilo Coffee Roaster」。
「大阪を代表する、“なにわのコーヒー屋さん”のイメージ。コーヒーのクオリティはもちろん、スタンドや純喫茶などさまざまなタイプのお店を展開して、他にないオリジナリティを生み出しています。何より、ヘッドロースターの中村さんをはじめ、スタッフの皆さんが各々のキャラクターを打ち出し、発信するパワーがすごい!今では海外のお客さんも多く、世界中にファンを広げている、目指すべきコーヒーショップです」(辻本さん)

【辻本珈琲のコーヒーデータ】
●焙煎機/ギーセン6キロ・250グラム(半熱風式)、ローリング・スマートロースター35キロ(完全熱風式)
●抽出/エスプレッソマシン(シネッソ)、ポアステディ、ハンドドリップ(オリガミ・フラワードリッパー)、
●焙煎度合い/浅~中深煎り
●テイクアウト/ あり(583円~)
●豆の販売/シングルオリジン24種、100グラム1080円~


取材・文/田中慶一
撮影/直江泰治

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