コーヒーで旅する日本/関西編|コーヒーに触れる場をより広く、楽しく。新たなファンを引き寄せる「LiLo Coffee Roasters」の懐深い提案

東京ウォーカー(全国版)

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スタッフの個性と異なる空間で、幅広い楽しみ方を提案

2号店の「リロ珈琲喫茶」は、元々老舗のココア専門店・赤い鳥の跡地を継承

開店時は6種でスタートした豆のラインナップは徐々に増えていき、今では常時22、3種が並ぶまでに広がった。この種類の幅広さも「LiLo Coffee Roasters」の個性の一つだ。「焙煎機の容量は大きくなっても、回数は変わらないから、めっちゃ大変(笑)。そんな大変なことは、みんなやらないから、あえてやっているというところもあって。コーヒーは誰もが参入しやすい業種だから、差別化が大事」と中村さん。

それゆえ、生豆の仕入れ先も多岐にわたり、現在、取引するインポーターは10社を超えるが、それもまたLiLoの強みの一つ。「インポーターごとに扱う豆の得手不得手もあり、同じ銘柄でもプロセスが違うこともあります。担当者ごとの人柄や各社の特徴を把握して、この店でアソートしている感覚です。とにかく仕入れ先が多いので、同業者には『中村さん、どこのカッピング会場にもいますね』と言われます(笑)」と、オンリーワンの魅力を作るための努力を厭わない。

「リロ珈琲喫茶」の店内には、継承前の店の雰囲気がほぼそのまま残されている


開店から1年ほどは、中村さんが店のすべてを一人で切り盛りしていたが、2年目に大きなケガを負った際、常連の一人に手伝ってもらったのを機に、スタッフを増やす方向に。と同時に、各自のキャラクターを生かす独自のシステムを築いてきた。「スタッフは自分と同じ代わりにはならないので、それぞれの個性を生かすことを考えました。スタッフは顔写真入りのショップカードを持って、コーヒーだけでなく自分自身もアピールしてもらう。スタッフのキャラクターも、この店を選んでもらうきっかけの一つなんです」。いわば、一人ひとりにプロ意識が求められる、フリーエージェント的なシステムだ。

リロ珈琲喫茶オリジナルのコーヒージェリー650円は、深煎りのエチオピア・ナチュラルを贅沢に使用。コーヒーの果実味とナッツの香ばしさ、レモンピールの芳香が好相性


また、採用の際にハンドドリップの試験も課しているが、正しく抽出する技術だけが目的ではない。「ハンドドリップは、人の手業が大きく影響し、いつも同じようにはならない。店の味にブレがないことも大事ですが、逆にドリップには性格が出るということ。それをネガティブに捉えず、レシピを守りつつ、うまく個性として出していきたい」

20種を超えるコーヒー、スタッフのキャラクターに加え、3つの店でまったく異なるコンセプトも楽しみの一つだ。原点である「LiLo Coffee Roasters」は、多様なコーヒーの中からお客が好みの味に出会える場所。会話の中からそれぞれの嗜好に応える、肩肘張らないカウンセリングが真骨頂だ。2018年に開店した「リロ珈琲喫茶」は、一転して、純喫茶を改装したクラシックな空間。豆の種類を絞り、抽出器具を7種類から選べる趣向で、コーヒーとより深く向き合えるひと時を提案。純喫茶仕様のスイーツや軽食とのペアリングも、ここならではの楽しみ方だ。

現在、週2日は「Factory」で焙煎に専念。金髪、メガネ,ヒゲは、創業時から変わらない中村さんのトレードマーク


そして、2020年に焙煎所として、福島区に立ち上げた「LiLo Coffee Factory」は、他の2店とは好対照のミニマルな店構え。中にはメカニックな最新鋭の焙煎機が鎮座し、店頭では、大阪市内でも数少ない全自動ドリップマシン・プアスティディで、テイクアウトのコーヒーのみを提供する。「ここは、ほとんど人の手が介在していないスタイル。最終的にはAIが店を切り盛りしたらおもしろいかも」と中村さん。レトロな純喫茶からハイテクのロースタリーまで、時代やジャンルを超えたコーヒーシーンを体現。同じ屋号だが別の顔。しかし、どれもがコーヒーを楽しむ場であることには違いないと気付かされる。

「Factory」があるのは、福島区の大阪中央市場の目の前。ビル2階が倉庫、3階で菓子製造を行う


敷居は低く、間口は広く。新たなコーヒーファンの入口に

開業当初から希望していた、念願のローリングの焙煎機を2020年に導入。プロファイルを記録し、再現性を作れることも選んだ理由の一つ

開店以来、全店の豆の焙煎を一人で担っている中村さん。創業時は1キロの小型焙煎機を使っていたが、「2年経つ頃には1日70バッチを超えるようになって(笑)。浅煎りの限界も感じていたので、それに適した機体として当時から目を付けていたのが完全熱風式のローリング。ただ、心斎橋の店では収まらなくて、Factoryができるまで直火式を使っていました。だから、6年越しに念願叶った」と中村さん。現在、日々の焙煎をしつつ、先々は誰が焼いても再現性を高められるよう、プロファイルデータを蓄積している。

「Factory」で提供するテイクアウトコーヒーは、1カ月以上エイジングされた豆を使用。フードロスを減らすため、各店で使われなかった豆を有効活用する


いまや「LiLo Coffee Roasters」は、国内外にファンを持つ人気店となったが、中村さんが目指す先の一つが、“スペシャルティコーヒーの民主化”だという。「店を始めて以来、コーヒーシーン全体が徐々に底上げされてきた感覚はあります。それでも、スペシャルティコーヒーの魅力を体験してない人は、まだまだいっぱいいます。コーヒー店は専門化する方向が多く、ある程度、好きな人に向けたアプローチになると間口が狭くなります。その中で、LiLoのポジションはビギナーでも取っ付きやすいこと。全く関心ない人に“ちょっと飲んでみようかな”と思ってもらう、そういう層を掘り起こせるようにしたい。1を10にするのでなく、0を1にする、民主化=その人口を増やすことなんです」

「Factory」の2階には、温度管理ができる生豆の保管庫を設置


膨大な種類の豆をそろえ、テイストが違う店を作るのもそのため。きっかけとしては、どこから入ってもいい、自由で大らかな発想は、異業種コラボで始まった店の強みでもある。ただ、多くのフックを用意しているが、“最初の一口”を飲んでもらう、その仕事は人にしかできないこと。「コーヒーはわからんから飲まないという人も、“この人が言うなら飲んでみよか”ということはありえます。実際、まさに自分が、そういう出会いがあったことで変わったから」と、自身の経験に重ね合わせる。

「Factory」には、 NASAのエンジニアが開発した全自動ドリップマシン・プアスティディを大阪市内でも先駆けて導入


実は、LiLo全体で見れば、ヘアサロン、コーヒーショップのほかにも、サウナブランドや餃子専門店なども手掛け、より多様な顔を持っている。今に止まらない、アクティブな変化もまた、LiLoで感じる楽しさの元なのかもしれない。「やがて10年になりますが、明確に何かを目指すよりは、なにかおもしろいことが起きたときに、全力で乗っかれるような体制を作りたい。実際、5年前に2号店の純喫茶をやろうとか、考えてなかったですから(笑)」

「Factory」ではドリップコーヒーを300円で提供。写真はメキシコ・サンチュアリオ・パープルハニー


中村さんレコメンドのコーヒーショップは「TAKAMURA COFFEE ROASTERS」

次回、紹介するのは、大阪市西区の「TAKAMURA COFFEE ROASTERS」。「大阪を代表するスペシャルティコーヒーショップの一つ。店長の岩崎さんは、カッピングやバリスタの競技会などでよくご一緒しますが、コーヒーに対してストイックで、異業種からの転身という経歴も同じなので、勝手にシンパシーを感じています(笑)。2022年には、淡路島にオープンした巨大なファクトリーも話題。設備、品質、体制、あらゆる面でスケールが桁違い。訪ねるたびに参考にする部分や、勉強になることも多いですね」(中村さん)

【LiLo Coffee Roastersのコーヒーデータ】
●焙煎機/ローリング・スマートロースター15キロ(完全熱風式)
●抽出/ハンドドリップ(ハリオ)、エスプレッソマシン(サンレモ)
●焙煎度合い/浅~中深煎り
●テイクアウト/ あり(500円~)
●豆の販売/ブレンド5種、シングルオリジン18種、50グラム500円~

取材・文/田中慶一
撮影/直江泰治

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