コーヒーで旅する日本/関西編|関西随一のスケール感で進化を続ける、「TAKAMURA COFFEE ROASTERS」が目指す新しいロースターの形

東京ウォーカー(全国版)

X(旧Twitter)で
シェア
Facebookで
シェア

ロースターとして土台を作った小型焙煎機での試行錯誤

豆のサンプルは、焙煎を始めた頃から愛用するディスカバリーで焙煎

ただ、当時の大阪には、浅煎り主体のスペシャルティコーヒー専門店はほとんどなく、わざわざ京都まで豆を買いに行っていたこともあるとか。そんな時に、地元情報誌のコーヒー特集で目にしたのが、2013年の「TAKAMURA COFFEE ROASTERS」のオープンを知らせる記事だった。早速、豆を買いに行き、通うこと3年を経て、岩崎さんはバリスタとして、この店の一員となった。

当時、ローリング・スマートロースター35キロサイズを擁する店は大阪には他になく、ロースターとしてのスケールの大きさは関西でも一線を画していた。コーヒーと酒類では規模感がまったく異なる。先々の事業拡大を見越して、大型の焙煎機を先行して導入したのは、異業種からの参入したこの店ならではの考え方が見える。ただ、商品を流通させるだけのワインに対して、コーヒーには「焙煎」という加工を経るのが大きな違い。逆に言えば、店の個性を直接表現できることも、自家焙煎を始めた理由の一つだ。従来の焙煎機では豆に熱が直接当たるので焦げたニュアンスが多かったが、完全熱風で豆に熱を通すスマートロースターは、焙煎由来の味ではなく、豆の品種、畑の違いなどを生かしたコーヒーを目指すにあたり最適の機体だった。とはいえ、開店当初はまだ手探りの時期もあり、35キロの窯でたった1キロの生豆を焼くような時期もあったという。

カウンターの奥には、膨大な種類の生豆が入った箱が山積みに


当初はバリスタだった岩崎さんだが、「現場にいるとだんだん、川上の原料のことが気になり遡ってしまう。抽出をしていても、原料について知らないことが多かった」と、徐々に焙煎にも関心を向け始めていた。その頃、たまたま倉庫で見つけたのが、使われなくなっていた小型焙煎機・ディスカバリー。とりあえず、動かし方だけを教わって、営業後の店に残って、終電まで豆を焼き続ける日々が始まった。

「普通は触らせてもらえませんが、自由に使わせてもらえたのは、コーヒー専門ではないうちならではの大らかさ。店の生豆を自分で買って、最初はかなり無茶な焼き方もしました。あるとき、煎りあげまで5分で焼こうとして、“中華料理の炒め物みたいやな”と言われたこともありますね(笑)」と振り返る。しかも、当初「TAKAMURA COFFEE ROASTERS」は、ロースターとして後発ゆえに差別化を図ろうと、COE専門を謳っていた。つまり、岩崎さんが焼いていた生豆は、ほぼすべてCOEクラスというから驚く。教材としてはぜいたくに過ぎるが、ここでの試行錯誤は、ロースターとしての土台として生かされている。2年後にQグレーダーの資格を取得した際には、「グリーングレードという、生豆の状態でグレードを判断するテストがあったのですが、COEの豆しか見てないから他がわからない(笑)」というぜいたくな悩みも経験した。

コロンビアのアナエロビック・ナチュラルは、生豆からも独特の芳香があふれる


ダイレクトトレードで未知のコーヒーの紹介に注力

ペーパードリップに使うウェーブドリッパーは特注のカラーリング

2016年にヘッドロースターとなった後は、焙煎の競技会にも出場。2017年に初出場し、翌年の大会では決勝に残り、準優勝の成績を収める。「このときに勉強会に参加して、スキルを引き上げてもらった感があります。焙煎を始めて間もなくで、その輪に入れてもらえたのはラッキーでした。この2年間で10年分くらいの経験、知識が得られた感覚があります。ランドメイドの上野さんらに鍛えてもらい、原料以外の技術的な欠点の判断を徹底的に叩き込まれ、カッピングで良し悪しを明確にできるようになりました」と、ロースターとして着実に力をつけていった。

ハンドドリップコーヒー(500円~)。抽出はペーパードリップとエアロプレスから選べる


開店時は6~8種、中煎りを中心にしていた豆のラインナップは、岩崎さんがヘッドロースターに就任以降、年々種類を増やし、焙煎度も浅煎り中心にシフト。15、6種まで広げていったが「オーナーからは、ワインが3700種あるのに比べたら少ないと言われて(笑)。加工があるから別物だと思いますが、コーヒープロパーではないからこその考え方、広い視点で客観的に捉えられるのが、うちならでは。例えばカッピングでも、ソムリエが参加すると、ストローで飲んだときの質感、のど越しとか、違った視点が入ってくるのがおもしろい」

その後もさらにラインアップは増えていき、現在は店頭に約30種、ストックも含めると50種近くにまで幅を広げた。近年は、ダイレクトトレードで仕入れる豆も充実し、日本にはまだない品種、農園の紹介にも力を入れる。「近年は、ダイレクトで仕入れるものが主になってきて、ないんだったら、うちが入れるという方向。COEのオークションもダイレクトに参加して、時季になると、自社入札のものだけで10カ国、各30ロットのサンプルが入ってくるので、ディスカバリーでひたすら焼き続けます。回数だけで言えば、日本一COEを焼いていると思います(笑)」

パナマで革新的なプロセスを行う、CCD(CREATIVA COFFEE DISTRICT)の豆も自社輸入。アートとコーヒーのコラボレーションもCCDの特色の一つ


ただ、品揃えはシングルオリジン、浅煎りがほとんどを占めるものの、決して深煎りやブレンドを否定するものではない。「最終的にジャッジはお客さんが良しとすればOK。実は、そこに至るには、あるスタッフの一言がきっかけで。“専門店を謳うと、スタッフが上でお客が下になっていますよね”、と言われたことにハッとして。以来、お客さんのシーンに合わせて提案することを心掛けています。豆の種類が多いのも、その一つ。全体の10%しかない希少なコーヒーを、どれだけハードル下げて提案できるかを意識しています」

そのヒントになったのがワインで実践する提案方法だ。店内にはワインのプリペイド式試飲マシン・エノマティックを設置し、超高級ワインも10ミリリットル単位で試飲することが可能。同じ手法をコーヒーにも生かし、テイクアウトのドリンクの場合は、豆の価格に関わらず一律の価格で提供。まずは経験してもらって、間口を広げることを重視している。

豆の販売コーナーでは、ポップに記された岩崎さん考案のキャッチコピーにも注目


2号店のファクトリーは、“From Seed to Cup”が体感できる場に

淡路島の「TAKAMURA COFFEE ROASTERS FACTORY AND CAFE」。まさに工場を思わせるスケールの大きさは圧巻

豆は1週間、早ければ数日で替わるものもあり、プレートに乗せるコメントとキャッチフレーズも、すべて岩崎さんが考案。 “爽快が止まらない!全身でレモネードを浴びましょう”、“ぴちぴちはずむ、ファンタグレープ”といった、インパクトのあるキャッチフレーズを楽しみにするお客も多いとか。「焙煎より、これを考えるのに時間がかかってしまって(笑)。日々入れ替わる豆があるとお客さんも楽しいし、喜んでもらえるなら」と、自身も楽しんでいるようだ。こうした日々の提案を積み重ね、お客の嗜好も徐々に変化してきているのを感じている。「味の許容範囲が広がっている感じはあります。“こういうのもいいね”といった声も聞かれるようになりました。こちらが積極的にすすめているのもあるが、せっかく街はずれまで来てくれたなら、うちならではの提案にチャレンジしてほしいなと思っています」

開放的な空間に焙煎所も併設。地産の素材を使ったカフェラテやドーナツ、ホットサンドなど淡路島オリジナルメニューも好評


いまや大阪を代表するスペシャルティコーヒー専門店の一つに数えられるまでになった「TAKAMURA COFFEE ROASTERS」だが、まだまだ進化は途上。それを示すのが、2022年に淡路島で立ち上げた2号店、「TAKAMURA COFFEE FACTORY&CAFE」だ。およそ1万坪の広大な敷地に現れた、アーチ形の巨大な建造物は、まさに工場と呼ぶに相応しい存在感で地元の人々の度肝を抜いた。「卸も増えて、製造が追いつかなくなったので、新たな焙煎、物流拠点として立ち上げたもの。日本でも数台しかない、70キロサイズのスマートロースター3台が稼働する規模の大きさは今までないもの」と岩崎さん。もちろん、焙煎所と共に豆の販売もあり、シングルオリジン15、6種を揃え、ドリンクの提供やオリジナルドーナツも新たに加わった。

だが、すごいのは規模の大きさばかりではない。先々はコーヒーの栽培までも視野に入れているという。「まだまだ先の話ですが、実際にコーヒーノキの育成も始めていて、ゆくゆくはコーヒー農園として栽培、収穫までできる場を目指しています」。まさに、スペシャルティコーヒーが体現する“From Seed to Cup”を、居ながらにして体験できる壮大な試み。先入観にとらわれない発想から生まれる、新たなチャレンジを楽しみに待ちたい。

淡路島のファクトリーで作られるドーナツは大阪でも販売。本店限定のチョコレートフレーバーも人気


岩崎さんレコメンドのコーヒーショップは「GOODMAN ROASTER」

次回、紹介するのは、京都市の「GOODMAN ROASTER」。「店主の伊藤さんとは、イベントや展示会で最近知り合ったのですが、第一印象は元気で、パッションがあって、声が大きい(笑)。明るく情熱的なキャラクターそのままに、お店の雰囲気も活気があります。伊藤さんは、先に台湾でお店を開いてから、逆輸入の形で関西に出店されたという珍しい経験の持ち主です。日本でまだ飲む機会が少ない、台湾のコーヒーならではの個性と、今注目の現地のコーヒー事情にも触れられる貴重な存在です」(岩崎さん)

【TAKAMURA COFFEE ROASTERSのコーヒーデータ】
●焙煎機/ローリング スマートロースター 35キロ・15キロ(完全熱風式)、ディスカバリー(半熱風式)
●抽出/ハンドドリップ(カリタウェーブ)、エスプレッソマシン(ラマルゾッコ)
●焙煎度合い/浅~深煎り
●テイクアウト/ あり(350円~)
●豆の販売/シングルオリジン約30種、100グラム1080円~


取材・文/田中慶一
撮影/直江泰治

※新型コロナウイルス感染対策の実施については個人・事業者の判断が基本となります。
※記事内の価格は特に記載がない場合は税込み表示です。商品・サービスによって軽減税率の対象となり、表示価格と異なる場合があります。

  1. 1
  2. 2

この記事の画像一覧(全16枚)

キーワード

テーマWalker

テーマ別特集をチェック

季節特集

季節を感じる人気のスポットやイベントを紹介

花火特集

花火特集2025

全国約900件の花火大会を掲載。2025年の開催日、中止・延期情報や人気ランキングなどをお届け!

CHECK!2025年全国で開催予定の花火大会

夏休み特集2025

夏休み特集 2025

ウォーカー編集部がおすすめする、この夏の楽しみ方を紹介。夏休みイベント&おでかけスポット情報が盛りだくさん!

CHECK!夏祭り 2025の開催情報はこちら

おでかけ特集

今注目のスポットや話題のアクティビティ情報をお届け

アウトドア特集

アウトドア特集

キャンプ場、グランピングからBBQ、アスレチックまで!非日常体験を存分に堪能できるアウトドアスポットを紹介

ページ上部へ戻る