コーヒーで旅する日本/関西編|台湾産コーヒー復権の立役者。「GOODMAN ROASTER Kyoto」が伝える“幻のコーヒー”の進化と真価
東京ウォーカー(全国版)
復活した“幻のコーヒー”を台湾から日本へ

とはいえ、当時の阿里山は高級茶の産地として有名でも、生産に手間暇のかかるコーヒーの栽培はわずかに残るのみ。自らが感動したコーヒーを、このまま埋もれさせないために、その後も何度となく台湾に足を運び、ついには2010年、家族と共に台湾に移住した伊藤さんは、かつての名産地・阿里山のコーヒーを復活させるプロジェクトを現地で立ち上げる。
当初は何の伝手もなく中国語もわからなかったが、旅行代理店の現地人社員の協力を得て、阿里山に点在するすべての農園に足を運んだ。生産量とクオリティの向上に取り組むと共に、2011年からは現地でポップアップストアを展開し、台湾産コーヒーの存在を広めていった。とはいえ、「このときが、一番苦しい時期でもありました」と伊藤さん。「当時は台湾の人であっても、誰も自国のコーヒーに興味がなかったんです。それでも人気のセレクトショップや空港にも置いてもらえるようになり、お土産として徐々に広がっていきました。時期的に、サードウェーブの世界的な広がりにも後押しされたのは大きかったですね」

苦労を重ねつつ、現地でのプロジェクト活動を続けること3年、2014年に台北に「GOODMAN ROASTER」の1号店をオープン。自家焙煎での豆の販売を始め、台湾のコーヒーを現地で広める拠点を作ったあと、満を持して2019年に日本1号店を京都に開店する。一見、意外なロケーションに思えるが「東京は地元である分、知り合いに頼ってしまいそうで、まったく知らない土地でやりたかったというのが理由の1つ。また、台湾の方は京都が好きで人気観光地でもあるので、旅行で来られる方も多いと思って」と伊藤さん。台湾からのいわば逆輸入の形で誕生した店は、ロースター激戦区の京都でもほかにはない個性で支持を得ている。
店で提供するのは、看板の阿里山コーヒー2種と、各国のシングルオリジン3~4種。一口に阿里山といっても、長大な山脈を成すことから農園も数多い。伊藤さんが扱うのは、原住民・ヤムイ族の農園で完全オーガニック栽培された豆。ナチュラル、ウォッシュド共に、48~72時間のアナエロビックプロセスを経ているのが特徴だ。「いろんな産地のコーヒーと飲み比べて、台湾のコーヒーの個性を評価してもらうという意図もあります。また、日本では台湾のコーヒーの特別感を出したかったので、提供スタイルを変えています」と、阿里山コーヒーは、台湾の茶藝よろしく急須と茶器で供するのが、京都店ならではの趣向だ。

ナチュラルは、紅茶やシナモンを思わせる芳香、ダークチェリーのような甘味が相まって、後味の芳醇な香気が印象的。片やウォッシュドは、烏龍茶にも似たみずみずしい清涼感、さわやかな果実味が清々しい。小さな茶器でちびちび飲むことで、余韻はさらに後を引き、すいすいと杯が進むのが心地よい。台湾では、この形で出している店はないそうだが、「現地の友人たちと茶器でコーヒーを飲んだ時間が楽しくて、その印象が鮮明に残っていたんです」という思い出が特別な一杯に込められている。
進境著しい台湾コーヒーシーンに膨らむ期待

開店直後にコロナ禍に見舞われるという不運はあったが、逆に台湾では自国のコーヒーにフォーカスするきっかけになり、現地での支持は高まったのだとか。現在、京都店は、海外からの観光客が集う定番の一軒としてにぎわっているが、「意外に台湾からの方が少ないので、もっと多くの方に来てもらいたいですね」と期待を込める。伊藤さんが、台湾のコーヒーに出合ってから15年。いまや栽培品種もゲイシャやティピカ、SL-34など幅が広がり、スペシャルティグレードの豆も登場。今年から、台湾のカップオブエクセレンス(COE)もスタートするまでにクオリティは向上した。
「農園や生産者も増えて、COEオークションができるほどに質量ともに高まった。台湾のロースターの競技会では、ギーセン15キロ焙煎機が優勝賞品になっている。自分もほしいくらいですが(笑)。それほど、参加者と運営側の熱意がスゴイ。進化のスピードが目覚ましく、台湾国内でも技術レベルは急速に上がっていて、あと5年もすれば世界のレベルに追いつくはず」と伊藤さん。失われかけた台湾のコーヒーを復活し、新たなブランドとして世界に広めた功績は現地で高い評価を得ている。

一杯のコーヒーから始まった開拓精神は、仕事のうえでの師である藤巻商店・藤巻さんによる薫陶も大きい。「“日の当たらないものでも、少し場所をずらすだけで脚光が当たるようになる”というのは、台湾コーヒーに当てはまること。より広くブランディングできるかどうか、まだまだこれからです」と伊藤さん。折しも、現在、台湾ではハイブリッド交配で全く新しい品種の開発が進んでいるとか。「もし実現されれば、新しい名前を持つ品種になります。これはインパクトが大きい」と期待を寄せる。台湾はお茶のイメージがいまだ強いが、“台湾と言えばコーヒー”といわれる時代の到来は、思うより近いかもしれない。

伊藤さんレコメンドのコーヒーショップは「COYOTE coffee」
次回、紹介するのは、京都市の「COYOTE coffee」。「京都に来てから知り合った店主の門川さんは、いい意味で“コーヒークレイジー”と呼びたい方。エルサルバドルのコーヒー専門店というコンセプトもユニークで、産地にもたびたび訪れていて、出で立ちも現地の農園からやってきたような雰囲気。うちと同じく、1つのオリジンにフォーカスするお店として、親近感を覚える存在です」(伊藤さん)
【GOODMAN ROASTER Kyotoのコーヒーデータ】
●焙煎機/ディードリッヒ 5キロ(半熱風式)
●抽出/ハンドドリップ(カリタウェーブ)、エスプレッソマシン(ラマルゾッコ)
●焙煎度合い/浅~中煎り
●テイクアウト/ あり(600円~)
●豆の販売/ブレンド1種、シングルオリジン5種、200グラム1620円~
取材・文/田中慶一
撮影/直江泰治
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