コーヒーで旅する日本/四国編|高知のコーヒーシーンの新風。幅広い提案で地元で新たな嗜好を広げる「sommarlek coffee roaster」
東京ウォーカー(全国版)
全国的に盛り上がりを見せるコーヒーシーン。飲食店という枠を超え、さまざまなライフスタイルやカルチャーと溶け合っている。瀬戸内海を挟んで、4つの県が独自のカラーを競う四国は、県ごとの喫茶文化にも個性を発揮。気鋭のロースターやバリスタが、各地で新たなコーヒーカルチャーを生み出している。そんな四国で注目のショップを紹介する当連載。店主や店長たちが推す店へと数珠つなぎで回を重ねていく。

四国編の第18回は、高知市の「sommarlek coffee roaster」。高知出身の店主・礒部さんは、東京でバリスタ、ロースターとして経験を積んだ後、6年前に地元で独立開店。喫茶店文化が根強く残る高知に新風を吹き込む、新たなスタイルのコーヒーショップとして注目を集めている。街のコーヒー店のスタンスを打ち出しながらも、「いろんな種類のコーヒーを体験してもらいたい」と、幅広い風味を提案する一方で、テイスティングイベントを主催するなど、浅煎りのスペシャルティコーヒーの醍醐味を伝える試みも積極的に展開。地元に新たなコーヒーの嗜好を広げている。

Profile|礒部仁孝 (いそべ・よしたか)
1987年(昭和62年)、高知県安芸郡生まれ。東京での学生時代にイタリアンバールでバリスタの仕事を経験し、スペシャルティコーヒーとの出合いを機にコーヒーの道へ。三軒茶屋のロースター・OBSCURA COFFEE ROASTERSで卸の発送業務の仕事から入って、焙煎にも携わる。2018年に高知に戻り、地元の奈半利町で焙煎所を立ち上げ、豆の販売、イベント出店をスタート。2019年に高知市内にコーヒースタンド「sommarlek coffee 洞ヶ島」をオープン。2021年に焙煎所も現在地に移設し、「sommarlek coffee roaster」として心機一転、新たなコーヒーイベントの開催にも力を入れる。
地元・高知に新たなコーヒーの嗜好を広げたい

高知の台所・ひろめ市場から北へ歩いて10分ほど。江の口川を渡る橋の先に見える、青いテントが「sommarlek coffee roaster」の目印。店の裏手には、地元で“くんてきさん”と親しまれる薫的神社が鎮座し、参道脇にあたる界隈は、城下町らしい落ち着いた佇まいを残している。Sommarekとは聞き慣れない響きだが、北欧の言葉で“夏の遊び”という意味だとか。「北欧を訪れたときに、どこを見ても緑があって、気候は真逆だけど高知に近い気がしたんです」という店主の礒部さんは、学生時代を過ごした東京で、イタリアンバールのアルバイトでバリスタの仕事を経験し、同時に方々のカフェを巡るなかで、スペシャルティコーヒーの醍醐味を知ってコーヒーに傾倒。当時、三軒茶屋にあった気鋭のロースター・OBSCURA COFFEE ROASTERSでコーヒーのイロハを学んだ。

「最初は卸の発送業務から入って、最終的に焙煎にも携わるようになりました。ちょうど、茶沢に焙煎所ができたり、姉妹店のコーヒースタンドができたたり、店が大きくなるタイミングに勤めていたのはラッキーでした」と振り返る。当時、関東は新たなコーヒーショップが各地に増えていた時期。すでに飽和しつつあった状況もあり、「店を開くなら高知で」と考えるようになった。ただ、地元での独立を促したのは、それだけが理由ではない。「むしろ、帰省するときにOBSCURAのコーヒー豆を持って帰って、家族に飲んでもらった体験が大きいですね。世代的にも深煎り嗜好で、案の定、浅煎りのコーヒーは酸っぱいと言われたんですが、試していくうちに、“これなら好みの味”と言われることも出てきて、それがうれしかった」と、新たな嗜好を広げていく体験が原点にある。
OBSCURAで4年半を経て、高知に戻った礒部さんは、まず実家のある高知県東部の奈半利町で、2018年に焙煎所を開業。当初は豆の販売とイベント出店からスタートし、本山町のJOKI COFFEEとの縁を得て、店を手伝うこともあったという。「そのころ、高知で浅煎りを推していたのは、JOKI COFFEEくらいで、まだ今のようなコーヒースタンドやロースターがなかったころに、かなり先を行っていた店だと思います」と礒部さん。その間に自店の存在も徐々に広めて、2019年に現在地に姉妹店として、「sommarlek coffee 洞ヶ島」をオープン。2年後に奈半利町の焙煎所も移し、「sommarlek coffee roaster」として心機一転のスタートを切った。

多彩な楽しみを広げる街のコーヒー屋さんを目指して

開店の前後の時期は、高知市内でもコーヒーショップが増え始めていたが、とはいえ、コーヒーの嗜好がすぐに変わるわけではない。「お客さんのほとんどはスペシャルティコーヒー初体験。ニーズはやはり深煎りが多くなりますが、逆に、以前は尖がった酸味の浅煎りが多くて、“それで本当にいいのかな”という感覚は持っていました。OBSCURAでは豆の品ぞろえ、焙煎度が幅広く、街のコーヒー屋さん的なスタンスだったことから、ここでも、そうした懐深い店作りを参考にしています」
開店にあたり、焙煎機は修業先で使っていた機体を譲り受けて使用。「味の輪郭がはっきりする直火式の味が好きで、その中に甘さがあることが重要。うまく引き出してフレーバーをはっきり出していけば、豆の個性が楽しんでいただけると思っています」と礒部さん。店の顔となる中深煎りのブレンドのほか、シングルオリジンは2、3カ月で銘柄を入れ替えながら提案している。「なるべく、いろんな種類を体験してもらいたい」という礒部さんにとって、中でも思い入れのある産地がブラジルだ。

「東京で初めて飲んで、印象に残ったスペシャルティコーヒーが浅煎りのブラジル。その焙煎度合で焼ける銘柄が少ないんですが、最近、手に入るようになったので、プロセスによる味わいの違いも試してもらいたい」と、ときにはラインナップにブラジルが2、3種入ることもあり、ハニーやナチュラルなど近年広がりつつある多彩なプロセスの提案にも力を入れる。
また、家庭でもおいしい一杯を楽しんでもらえるよう、最近、店で使う抽出器具にシンプリファイを導入。自店で商品を扱うDADA NUTS BUTTERを通じて、紹介されたのがきっかけだ。「ペーパードリップは普通、蒸らしの工程に30秒かけて4、5回に分けて注湯しますが、1回に注ぐ湯量やペースがわかりにくくブレが大きい。シンプリファイは注ぐお湯の量をそろえられるのが特長で、抽出のノウハウを共有しやすい。家で安定して淹れるのにぴったりです」と、より使いやすい器具選びにも腐心している。

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