コーヒーで旅する日本/九州編|家業の温泉宿でバリスタとしてできることを探して。「H_NNTO COFFEE」で味わう自愛の一杯
東京ウォーカー(全国版)

「後藤コーヒーファームのカスカラブレンドコーヒーのみだとコーヒーの味わいが強く出過ぎてしまうため、酸味があるカスカラをさらに追加して抽出するレシピを考案しました。抽出はペーパードリップなども可能ですが、コーヒー由来のまろやかさ、丸みを表現するためにネルドリップで淹れています。後藤コーヒーファームのカスカラブレンドコーヒー、ドリップバッグは一部で販売されていますが、こうやって店で飲めるのは、今のところ当店だけです」と河津さん。
まさか南阿蘇村において、地元とゆかりがあるコーヒーを飲めるとは。通常はお茶として飲むカスカラティー特有の酸味をほのかに感じられ、シンプルに深煎りのコーヒーとしておいしいので、味にこだわりを持つコーヒー好きにもぜひ味わってほしい。

JUST FOR YOUコーヒーはブレンドを2種、ニカラグア、デカフェの全4種の豆を準備し、今回は同店で最も浅煎りのニカラグアをチョイス。抽出方法は河津さんからアドバイスをいただき、エアロプレスにしてみた。さすが前職からさまざまなコーヒーに触れ、日々抽出を行ってきたバリスタだけに、フルーティーさ、余韻の甘さといったニカラグアの特徴がとても引き立っている。これはクリーンに抽出できるエアロプレスによるところが大きい。
コーヒーに詳しくなくても、河津さんと奥さんがおすすめの豆と抽出方法の組み合わせの提案をしてくれるので、気軽に聞いてみてほしい。きっと新たなコーヒーの魅力との出合いが待っているはずだ。

「H_NNTO COFFEE」の魅力はブラックコーヒーだけじゃない。阿蘇の食材を多用したフード、ドリンクにも注目したい。

「地獄温泉 青風荘.」の「すずめの湯」をイメージした地獄のコーヒー牛乳(550円)は阿蘇市のブランド牛乳・ASO MILKにこだわったり、奥阿蘇マスの自家製スモークサンドセット(1650円)も高森町の清らかな渓流で養殖されたマスを使っていたり、阿蘇エリアの魅力を食を通して発信。

購入したコーヒーやフードは「H_NNTO COFFEE」のテラス席で楽しむのもいいが、「地獄温泉 青風荘.」のライブラリーやレストランなどでイートインすることができるので、そういった場所で楽しむのもおすすめだ。
被災した経験をプラスの方向に

福岡市の専門学校に進学し、manucoffeeで働いていたときから、「いつかは故郷の南阿蘇村でコーヒーショップをやりたい」という目標を持って歩んできた河津さん。ただ、その夢を叶えるための道のりは決して平坦ではなかった。2016年(平成28年)4月に発生した熊本地震で、実家である「地獄温泉 青風荘.」(当時は清風荘)も被害を受けた。さらにそのおよそ2カ月後の豪雨によって起こった土石流が追い打ちをかけたのだ。3つあった源泉のうち2つが土砂で埋まり、建物も大きく損壊。ただ、唯一残った源泉・すずめの湯を柱に2019年(平成31年)4月から新たなスタイルの日帰り入浴をスタートしたときは多くのメディアに取り上げられ、震災からの復興のシンボルの一つになった。その後、宿泊も順次再開し、今に至っている。

実家である宿が地震、豪雨による被害を受けた時期、河津さんは福岡市でバリスタとして働いていたそう。「状況的にすぐに駆けつけることができなくて、気をもむことしかできなかったですね。自分の地元でコーヒーショップを開くという目標はその当時から抱いていたのですが、正直それどころじゃなくて。ただ、震災によって大きな被害を受けた故郷に、僕なりの形で恩返ししたいという気持ちをさらに強くしたのは事実。想定外なことはたくさんありましたが、その数年の間に僕の中で、ここだからこそできるコーヒーショップのカタチをイメージしてきました」

信念を貫いた河津さんをはじめ、旅館を再興させ、河津さんのコーヒーショップを受け入れられる施設へと生まれ変わった「地獄温泉 青風荘.」もすごい。新しい温泉のカタチを表現したすずめの湯に始まり、さらに現代的な湯治のスタイルを提案し、宿泊者向けのレストランも新たに開業。ただ単に1泊2食付きという宿泊体験に終わらない温泉宿を形成したからこそ、そこにコーヒーショップがあってもなんら違和感はない。むしろコーヒーショップがあることで、この場所をさまざまな目的を持って訪れる人々に、さらなる魅力的な選択肢が広がる。このスタイルができるのは同宿が親族での営みを長きにわたり続けてきたからこそで、さらに各々に新しいエッセンスを加えてきたからだ。その一つにコーヒーというホッとひと息つける要素を加えた河津拓さん夫妻。きっと、この場所だからこそのコーヒー体験を今後さらに発信していくことだろう。
河津さんレコメンドのコーヒーショップは「食堂喫茶 Alpha」
「大分県中津市にある『食堂喫茶 Alpha』は専門学校時代の同級生の吉田さんが店主を務める喫茶店です。吉田さんは先天的に耳が聞こえないのですが、学生時代からとても頑張り屋さんで、常に前向き。吉田さんの姿勢にいつも元気をもらっています」(河津さん)
【H_NNTO COFFEEのコーヒーデータ】
●焙煎機/なし
●抽出/エスプレッソマシン(LA MARZOCCO)、ハンドドリップ、ネルドリップ、フレンチプレス、エアロプレス
●焙煎度合い/中煎り〜深煎り
●テイクアウト/あり
●豆の販売/なし(ドリップバッグは1個300円)
取材・文=諫山力(knot)
撮影=坂元俊満(To.Do:Photo)
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