【第39回】伊勢うどんの新スタイルを拓く三重・伊勢「駒鳥食堂」

東海ウォーカー

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「駒鳥食堂」の店舗は1F部分のみ。2・3Fは住居になっている


三重県伊勢市の伊勢神宮。その周辺には地元の名物である伊勢うどんを出す店が多い。JR伊勢市駅の北西にある新道商店街で長年営業を続ける「駒鳥食堂」は、おいしい伊勢うどんが食べられる店として知られている。

異業種から転身した2代目主人


2代目主人の大西貢さんと久子さん


伊勢神宮の外宮、その別宮である“月夜見宮”近くにある一之木交差点から北を向くと、3階建てのビルに掲げられた大きな縦書きの看板が目に入る。書かれた店名は「駒鳥食堂」。見た目こそ新しいが、この場所で長い歴史を重ねた歴史ある店の1つだ。

貢さんは6:00から仕込みをはじめ、毎朝30人から40人分のうどんを手打ち。売り切れる日もある


「駒鳥食堂」は、2代目主人である大西貢さんが中心となり、奥様の久子さんとパートさんたちで店を回している。店は1952(昭和27)年に貢さんの父が創業し、1965(昭和40)年あたりから貢さんも店で働くようになった。貢さん自身は大学で化学を学び、ある大手企業に就職していたのだが、サラリーマン生活を3年ほど経て家業にUターンした形となる。店を手伝うようになった理由を聞くと貢さんは「昔すぎて忘れましたわ」と笑う。

テーブル席と座敷席がある。以前の店から残してあるものは置物数点ぐらい


創業から65年を数える「駒鳥食堂」は2015年12月に建て替えており、店内は明るい雰囲気で、あらゆる世代が居心地よく感じられるだろう。「建物の老朽化とかいろいろあったけど、お客さんにはできるだけ清潔感のあるところで食事してもらいたいっていうのだね」と、貢さんは改装の理由を話す。

伊勢うどんの新しい展開


【写真を見る】「伊勢まいりうどん」(830円)。は具だくさんで満足度が高く、写真映えもする人気メニュー


「駒鳥食堂」を象徴するメニューの1つが「伊勢まいりうどん」(830円)だ。「私が始めたころは、伊勢うどんと言えば具のないものか、卵入りうどんぐらいしかなかったけど、お客さんはこういうのを求めてるんと違うかと思って、作り始めました」と貢さん。こうして生み出された「伊勢まいりうどん」は、狙いどおり観光客を中心に人気メニューとなり、その評判を聞きつけてか他店でも具をのせた伊勢うどんが増えたという。この変化を貢さんは「よかったと思いますよ」と笑顔で頷く。

貢さんが研究を重ねて選んだ小麦粉をブレンドして使用する麺。ふんわりとした食感で、他店とは明らかな違いが感じられる


具だけでなく、麺にも工夫を凝らしてある。うどんの麺は毎朝手打ちしており、使用する小麦粉も吟味したものだと貢さん。「手打ちで伊勢うどんの柔らかさを出すのは難しくてね。この粉を使ってるのは伊勢でうちだけじゃないかな。差別化しようと思ったら、粉を変えないと」。かつては機械で打っていた時期もあったが、20数年前から手打ちに戻した。なお、タレは創業当時から変わらない自家製レシピ。伊勢うどんを出す店は多々あれど、麺とタレの両方とも自家製という店は数えるほどしかないという。

「伊勢松阪牛カレーうどん」(680円)は、「ほかでは食べられない」と、東京から帰省した客からも評判だ


「伊勢松阪牛カレーうどん」(680円)も人気メニューの1つだ。「駒鳥食堂」のカレーうどんは、ご飯にかけてカレーライスとして出しても通用しそうな、とろみの強いカレーを使用する。また、カレーの下には伊勢うどん用のタレが流し込まれ、上下2層になっている。「孫が来て食べたら『上はカレーうどん、下は伊勢うどんで2種類の味が楽しめるね』なんて言いますのよ」と久子さんが優しい笑顔を見せる。松阪牛による濃厚な脂の味わいも、満足感を高めるのに一役買っている。

“お客さんあってこそ”を意識した店づくり


伊勢うどんのほか、そば、ラーメンも自家製麺を使っている「駒鳥食堂」


伊勢うどんの豊富なバリエーションもあってか、麺の評判がすこぶるいい「駒鳥食堂」。ある客から「麺がおいしい店だから“めん処”に改名したら?」と言われたことがあるそうで、それを採用して、のれんには“めん処駒鳥”と書いてある。しかし、長年続いた“食堂”としてのスタイルも店のポリシーだ。「普段の食事に使ってくださる地元のお客さんもいるからね。できるだけ安く、通いやすいようにしないと」と貢さん。

ショーケースに並んでいるおかずは「刺身」(500円)から「野菜の天ぷら」(200円)までさまざま


店にあるショーケースにはさまざまなおかずが並べられており、注文すれば温め直してくれる、昔ながらの大衆食堂スタイルをとっている。また、地元客に限らず、観光客が伊勢うどんを注文し、もう少し食べたいと思ったときにも追加注文がしやすい。バリエーション豊富なおかずメニューは、「ナス味噌」(250円)、「鯖煮付」(300円)、「ミートボール」(250円)など、素朴なものが人気だという。おかずと組み合わせたい「御飯」は「大」(180円)から「小」(130円)まである。

「ナス味噌」(手前左・250円)、「鯖煮付」(右・300円)、「ミートボール」(奥・250円)など、家庭的なおかずが人気


観光客だけを向かず、利用してくれるすべての客に満足してほしい。そんな主人の心意気が、店のあらゆるところから感じられる「駒鳥食堂」。喜寿を迎えた貢さんは、サラリーマンだった時代を振り返り「そのまま会社におったらよかったかな」と冗談めかすが、元気に店で活躍する姿は、同年代のどの人よりも生き生きしているように見えた。【東海ウォーカー/加藤山往】

加藤山往

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