【第31回】夫婦の優しさに包まれた「旭家食堂」――永く守り続けたい懐かしの味に出合う

2017年11月16日 13:41更新

東海ウォーカー

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「こんな古い店によう来てくれたね」。明るく歓迎してくれるお母さんの笑顔に、自然と顔がほころぶ。岐阜県土岐市に店を構える「旭家食堂」は、創業90余年を迎える小さな食堂。おしゃべり好きのお母さんと、寡黙だが、優しそうな表情を浮かべるお父さんの夫婦が切り盛りしている。

店内はこぢんまりとしたテーブルとイス、木札の品書き、古びた招き猫が配された昭和の雰囲気。その中で息の合った夫婦の働く姿を見ていると、まるで実家に帰ったような居心地のよさを感じる。

自家製の濃厚ソースが絡む「タレかつ丼」

この店の名物料理は2つある。どちらも長年にわたって親しまれている「タレかつ丼」(並760円)と「中華そば」(590円)だ。「あれこれ聞かんといっぺん食べてみて」とお母さんがまず運んできてくれたのは、土岐市のご当地グルメとしても知られる「タレかつ丼」。
ウスターソースとケチャップをブレンドした自家製ソースがたっぷりとかかり、これが柔らかなトンカツ、千切りキャベツ、白米によく合う。一口食べて「おいしい」と伝えると、お母さんは満面の笑みで「そうでしょ」と返してくれた。それを見計らったように「仕込んだソースは一晩寝かせるんだ。そうすると味が落ち着き、照りの色もよくなる」と丁寧に説明するお父さん。料理は手間暇をかけて作るように心がけ、使う食材はすべて国産にこだわっていることも教えてくれた。

スープの旨味が丁寧さを物語る「中華そば」

次に、「これも昔風なのよ」という言葉と共に出てきたのは「中華そば」。淡い色合いの醤油スープに、縮れた細麺、チャーシュー、カマボコ、麩を浮かべたラーメンは、確かにノスタルジーを感じさせる懐かしい見た目だ。「特別なことは何もしてないわ。鶏ガラで出汁をとって、醤油を合わせるだけ」とお母さんはこともなげに話すが、スープの深いコクからは使う食材の多さを感じられる。

創業時の製法を守る伝統の「うどん」

「旭家食堂」は元々うどん店として創業した。その証として店内に残るのが、額に収まった紙の品書き。「うどん六銭」「天麩羅うどん三十銭」といった文字が書かれている。

うどんを注文すると、「どこにでもある普通のうどんだよ」と謙遜しながら、シンプルな「志の田うどん」(550円)を作ってくれた。黄金色に輝く出汁は、宗田節、ムロ節、サバ節の3種類からとる。宗田節、ムロ節は削る前の「仕上節」を使用。時間をかけて作った出汁からは素材の旨味が伝わり、お母さんの「面倒はおいしいに繋がるの」という言葉も心に染みわたる。

創業100年に向かう老舗食堂

「旭家食堂」の創業は1924(大正13)年。当初は土岐市駅前に店を構え、建物の老朽化などの理由で1976(昭和51)年に現在の場所に移ってきた。長年この土地に根差し、地元の人は「土岐市に来たら旭家食堂に行かなきゃ」と口々に話す。「一度来てもらえると、10年、20年もお付き合いしてもらえる。この店のそんなところが好きね」とお母さん。

夫婦はそろって御年70歳を超える。永く店に立つ秘訣を聞くと「元気で、前向きに」とにっこり。「それでも、昔みたいに無理はきかなくなってきたね…」と2人は話すが、“懐かしの味”を求めて「旭家食堂」を訪れる客は後を絶たない。いつまでも元気で、創業100年に向けて頑張ってほしいと切に願い店を後にした。【東海ウォーカー/堀田裕貴】
堀田裕貴

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