松井玲奈の書き下ろしエッセイ 『ろうそくを吹き消す瞬間』インタビュー「一瞬で消えてしまうけれど、大切なものは確かにある」

東京ウォーカー(全国版)

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真っ暗な部屋の中で、揺れる炎にぼんやり照らされたバースデーケーキ。ろうそくを吹き消す特別な瞬間は、写真にも映像にも残せない、自分だけの大切な記憶――。

エッセイ集『ろうそくを吹き消す瞬間』を刊行した松井玲奈さん


俳優・松井玲奈さんによるエッセイ第3弾にして、初の書き下ろしとなる『ろうそくを吹き消す瞬間』が2026年1月30日に刊行。食べること、芝居をすること、そして自分の思いを文章に綴ること。全47編には、松井さんの“幸せ”がたっぷり詰まっている。エッセイ集が生まれた経緯や思い出深い一編について、松井さんに話を伺った。

“幸せ”は、バースデーケーキのろうそくを吹き消す瞬間

――『ろうそくを吹き消す瞬間』は、松井さんにとって初の全編書き下ろしエッセイです。刊行の経緯、1冊を通してのテーマを教えてください。

【松井玲奈】今回のエッセイ集は“幸せ”にフォーカスしています。以前、SNSで旅行の写真をシェアしようとしたときに、身近な人から「それって幸せ自慢になってない?」と言われ、その言葉に驚いたことがありました。

今では幸せなことや人に共有したいことを、SNSで発信するのが日常になりつつあります。でも、考えてみると、かつては家族や友達と会ったときに個人的にシェアしていたものだったと思います。そう気づき、今回は“幸せ”や目に見えなくて形のわからない感情にフォーカスしてエッセイを書こうと思いました。

――執筆期間はどれくらいかかりましたか?

【松井玲奈】2冊目のエッセイを刊行してすぐに、3冊目のお話をいただきました。2024年10月から書き始めて……え!8月にはもう書き終えていたので10カ月ですか!そんなに短い期間で書いていたなんて、今気づいて自分でもびっくりしました(笑)。

――『ろうそくを吹き消す瞬間』というタイトルの由来を教えてください。

【松井玲奈】タイトルを決めるにあたって、「“幸せ”って、どんな瞬間なんだろう」と考えたんです。そのときに思い浮かんだのが、バースデーケーキのろうそくを吹き消す瞬間でした。

誕生日に、みんなが注目する中、ろうそくを吹き消す瞬間ってその場が幸せに包まれると思うんです。でも、その瞬間は写真に切り取ることができず、その場にいる人たちの目と記憶にしか捉えられません。だからこそ、よりいっそう大切な時間に感じられます。

一瞬で消えてしまうけれど、心の中に留めておきたいものはある。そんな思いを、『ろうそくを吹き消す瞬間』というタイトルに込めました。

「“幸せ”って、どんな瞬間なんだろう」と考えたときに思い浮かんだのが、バースデーケーキのろうそくを吹き消す瞬間だったという


幸せは人から与えてもらうもの。心の余裕がなければ受け取れない

――今回は書き下ろしなので、連載とは違って締切や各編の長さなどの自由度が高かったのではないかと思います。これまでの連載形式との違いについて教えてください。

【松井玲奈】連載の場合、「いつまでに」「どれくらいの分量を」という枠組みがはっきり決まっています。その形式が私には合っていると感じていましたが、今回は初めての書き下ろしということで、なんだか急に大海原へ船で漕ぎ出してしまったような気持ちでした。

ただ、文字数の制限がない分、これまでは決まった分量の中で流れを作っていたところを、1ページにも満たない短い文章を差し込んだり、逆に少し長めに書いたりできて。エッセイ集全体にリズム感が生まれましたし、ぎゅっと短く凝縮した文章だからこそ伝わるものもあるなと思いました。ほかの方のエッセイ集で、短い一編が織り挟まれているものを読み、ちょっとした憧れを抱いていたので、挑戦できてよかったです。

漕ぎ出した当初は「どうしよう、泳ぎ方も船の漕ぎ方もわからないかも」と不安がありましたが、最終的には自分が行きたい目的地までたどりつけた感覚がありました。今は、初の書き下ろしをちゃんと書き切れたという達成感を覚えています。

初の全編書き下ろしは「大海原に船で漕ぎ出してしまったような気持ち」だったと振り返る


――エッセイのアイデアはどんなときに浮かんできましたか?日ごろ、創作のために習慣にしていることはありますか?

【松井玲奈】おもしろいものに触れたときに一番創作意欲が湧きます。エッセイや小説、映像、舞台などから刺激を受けると、「私もいいものを作りたい」という気持ちになります。

また、エッセイは日常を切り取って書いているので、人と会ったときにもアイデアが湧きやすいです。ただ、「今日友達と話したことをエッセイに書いたら嫌がられるかな」という心の中のせめぎ合いもあって(笑)。ですから、まずは日記に書いてみることが多いです。エッセイを書くときに、その日記を振り返って強く印象に残っているものをあらためて文章にすることもあります。日記に書き残していなくても、心の中に残っているキーワードや情景を引っ張ってくることが多いです。

――人と会ったときにアイデアが生まれるのは、これまで気づかなかった考え方や物の見方と出合えるからでしょうか?

【松井玲奈】そうですね。気づかされる部分と考えさせられる部分があるような気がします。たとえば友達から「生まれてきたからには意味があると思うの」と真剣に言われ、「あ、私、何も考えていなかったな」と思ったことがあって。帰り道に、「あれってどういう意味なんだろう」と考え続け、頭の中を整理するためにエッセイにしてみました。

海外旅行に行くお友達からお土産のリクエストを聞かれ、「気を遣わないで」と返したところ「気を遣ってるんじゃないの、お金を使うのよ」と言い切られたときもクラクラしました(笑)。すごくかっこよくて、「こういう大人になりたいな」と思って。そういった、日常の中で受けた小さな衝撃や刺激を書き留めておきたいと思うんです。

――なにげない日常の中で幸せを感じるために、普段から心がけていることはありますか?

【松井玲奈】幸せって、自分がもたらすものというより人から与えてもらうものなのかなと今は思います。誰かに何かをしてもらったり、サポートしてもらったり、楽しい時間を共有したり。映画や本などの作品を見て「わ、すごい。よいものを見た。幸せだな」と思うのも、誰かがそれを作ってくれたから受け取れるものだと思うんです。だから、常に「受け取る気持ち」を持てるように、心を広くしておくことが大切なのかもしれないです。

心に余裕がなければ、差し出されたものを受け取ることもできません。受け取れたとしても、心が動かず「全部おもしろくなかったな」となりがちです。人と会うときも、作品に触れるときも、ほんのちょっとでいいから心に余裕を持っておくことが大事なのかな……なんて思いながら、いつもフラフラ生きています(笑)。

日常の中で受けた小さな衝撃や刺激をエッセイに書き留めているという


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