第58回 味噌煮込みうどんの原型と噂される「太田屋本店」

2018年2月3日 12:00更新

東海ウォーカー

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細長い店構えの「太田屋本店」。向かって左側が駐車スペースになっているphoto by 加藤山往/(C)KADOKAWA


愛知県一宮市を東西に走る国道155号線。真清田神社があるあたりの住宅地にたたずむ「太田屋本店」は、味噌煮込みうどんの店として古くから地元に愛される老舗である。

母から継いだ4代目が守る老舗


店に飾ってある骨董品は、良浩さんの父が趣味で集めたものや客から譲り受けたものなどphoto by 加藤山往/(C)KADOKAWA


「太田屋本店」は、4代目の坪内良浩さんが妻の史子さんと一緒に店を守っている。店は良浩さんの祖父が創業し、父が継いだが、父は良浩さんが高校生の時に急死。母が継ぐことになった。良浩さんは高校を卒業してすぐ家業を手伝うようになり、24年が過ぎた。

注文を受けてから麺を茹で始める。調理は主に良浩さんが担当するphoto by 加藤山往/(C)KADOKAWA


店のホームページには「創業110年」と書かれているが、良浩さんは「実際にはよく分からないんです」と打ち明ける。先代がそう言っていたそうだが、正確な記録が残っているわけではないという。「100年を超えているのは間違いないのですが」と自信なげに続ける。

店内に貼られたこのメニュー表が「森田屋本店」で食べられるすべての選択肢だphoto by 加藤山往/(C)KADOKAWA


「太田屋本店」の特徴はシンプルなメニュー構成にある。店内の品書きに書かれた「うどん」の文字は、味噌煮込みで調理される、いわゆる味噌煮込みうどんのことを指しており、それ以外はサイドメニューである。だからこの店を訪れる客は、このうどんが目当てで、あとはあれこれとオプションを付けるかどうかを検討するのみ。なお、周辺地域に「太田屋◯◯店」という似た形態の店が4店舗あるが、それらは良浩さんの兄や、父の弟子、孫弟子にあたる人などがそれぞれ営む店である。暖簾分けの形であり、メニュー構成などもそれぞれで異なる。

土鍋でなく丼で出す味噌煮込みうどん


【写真を見る】丼で出される「うどん」(750円)に、サイドメニューの「御飯」(150円)と「海老と小柱のかき揚げ」(400円)。味噌は八丁味噌を含む2種類のブレンドだphoto by 加藤山往/(C)KADOKAWA


看板メニューというか、オンリーワンのメニューである「うどん」(750円)は、味噌味のツユに麺が入り、具はかしわ、かまぼこ、長ネギ。器が丼という見た目の違いが大きいものの、名古屋の名物として挙げられる味噌煮込みうどんと比較して、ツユはまろやかでとろみがあり、麺はやわらかく煮込まれ味噌味が染み込んでいる。

乾麺の状態から10分以上煮込んで完成するうどん。味噌の味がしっかりと染み込んでいるphoto by 加藤山往/(C)KADOKAWA


麺には乾麺を使用していると良浩さんは話す。「乾麺の状態から10分以上煮込みます。ゆがいたものを入れるのではなく、味噌で煮ています。だから塩抜きの麺を使うというのが、昔からのスタイルです」。麺は基準の茹で加減がありつつ、客のオーダーによって「硬め」「やわらかめ」といった希望に応じる。また、味噌ツユを薄くするなどのアレンジも可能だ。サイドメニューの「玉子」(50円)を追加オーダーして、溶き卵にして麺のつけ汁にしたり、麺を食べ終わった残りツユに「御飯」(150円)を投入したり、客によってアレンジはさまざまらしい。

家庭で太田屋本店の味を再現できる持ち帰り用のセット(700円)も販売しているphoto by 加藤山往/(C)KADOKAWA


最近では夏季に限って「ざるうどん」(550円)を出しているそうだが、その付け合わせとして「海老と小柱のかき揚げ」(400円)を追加したら好評だったため、これだけは通年のサイドメニューとした。だが、最近の変化はそれだけであり、ほかは昔から変わらない形で営業を続けている。

地元の人から愛され続ける味


店内はテーブル席と座敷席がおよそ半分ずつというシンプルな空間photo by 加藤山往/(C)KADOKAWA


創業年こそはっきりしないものの、90年以上の歴史がある「太田屋本店」は、創業当時から味噌味のうどんを出していた。その点からか、この店で出すうどんを「味噌煮込みうどんの原型」と呼ぶ客がいるという。しかし良浩さん自身は「どっちが先か分からないんですよね」と首をひねる。

店内に飾られた笹竜胆は坪内家の家紋。木材はすべてケヤキらしく客から褒められることが多いというphoto by 加藤山往/(C)KADOKAWA


昔から営業を続けている店らしく、こんなエピソードがある。近所で葬儀が行われた際、故人が「死ぬ前に太田屋のうどんが食べたい」と言って亡くなったそうで、霊前に供えるものとして注文を受けたという。故人にとっては子どものころから変わらない、大好きな味だったのだろう。しかも、そんなことが数回あったというから驚きである。今も客層は地元の人が多く、遠方から足を運んでくれる人も増えてきた。

永平寺の住職に書いてもらったという「山如静」が店に飾られているphoto by 加藤山往/(C)KADOKAWA


変わらないメニューを出し続け、男女問わず幅広い年齢の客から愛される「太田屋本店」のうどん。良浩さんを支える妻の史子さんは、嫁いでくる以前は味噌煮込みうどんがあまり好きではなかったそうだが、「店のうどんは毎日でも食べられる」と微笑む。食べる人を引き付ける、変わらない、こだわりの味と店。「いい意味で変化はしていきたいですが、基本的には味を守りながら、できるかぎり続けていきたいですね」と良浩さん夫婦はニコリと笑った。

加藤山往

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