スピルバーグが“今”求めるのは…、「フェイク」なんて言わせない“仕事人”!<連載/ウワサの映画 Vol.26>

東海ウォーカー

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スティーヴン・スピルバーグ監督×メリル・ストリープ×トム・ハンクスが顔を揃えた「ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書」。このメンツで駄作になる方が難しいでしょ、っていう本作が描くのは、“勝てないとわかってた”ベトナム戦争の真相を記した文書を巡る、1970年代の実話です。主役は、空前のスクープとして文書の存在を暴露したニューヨーク・タイムズではなく、ライバル紙であるニューヨーク・タイムズを支持し2番目に記事を掲載したワシントン・ポスト紙の面々。この“2番手”という役回り…、非常に考えさせられましたねぇ。脚本を読んだスピルバーグが「今すぐ、撮るべき」と主張し、取り掛かっていた新作に割り込んで完成させた本作は、アカデミー賞作品賞・主演男優賞・主演女優賞などの候補にもなりました!

2016年のアカデミー作品賞受賞作「スポットライト 世紀のスクープ」のジョシュ・シンガーが脚本に参加。今作でも、記者のリアルな仕事ぶりを徹底的に掘り下げています(C)2017 Twentieth Century Fox Film Corporation and Storyteller Distribution Co., LLC.


舞台は1971年3月、ベトナム戦争が泥沼化し、反戦の気運が高まるアメリカ。米国防総省がベトナム戦争の分析を約7000ページにまとめた“ペンタゴン・ペーパーズ”の一部を、ニューヨークタイムズがスクープします。そこにはトルーマン、アイゼンハワー、ケネディ、ジョンソンの4人の大統領が、自国の軍事行動について国民に虚偽の報告を重ねた事実が!同紙がニクソン政権により記事差し止め命令を受ける中、主要新聞社史上初の女性発行人キャサリン・グラハム(メリル・ストリープ)が率いるワシントン・ポストが文書の全コピーを入手。政府を敵に回してまで文書の全貌を公表するのか、見送るのか――。グラハムは葛藤の末、編集主幹ベン・ブラッドリー(トム・ハンクス)に記事掲載の許可を出すのでした…。

渦中の文書には、政府が国民を欺いて密かに軍事行動を拡大していた事実をはじめ、暗殺、ジュネーブ条約違反など、ベトナム戦争の暗黒史がてんこ盛り…(C)2017 Twentieth Century Fox Film Corporation and Storyteller Distribution Co., LLC.


アメリカは1975年にベトナム戦争から撤退しましたが、5万8220人の米兵を含め、100万人以上の死者を出しています。結果的にこれほどの惨事を招く原因となった“政府の嘘”を世に出さねばと奮起したのが、政府出資のシンクタンクの軍事アナリストであり、文書執筆者の1人だったダニエル・エルズバーグ氏です。負けると承知で戦争を仕掛けたうえに、えげつない秘密工作に勤む政府に幻滅した彼は、公式な手段での公表に失敗し、やむなく新聞にリークしたそう。彼やスノーデンのような人は激レアであり、一般人は知らない事の方が多い…。改めて、怖っ!

大きな代償を支払いたくないお偉方VS職務をまっとうしたい現場。国家に対する反逆罪という法的脅威にさらされる中、社内は揺れに揺れます(C)2017 Twentieth Century Fox Film Corporation and Storyteller Distribution Co., LLC.


女性経営者の先駆けではあるが特段キャラは立っていない…、そんなヒロインだけに、メリルの演技力がどうしても必要だったと納得。“か弱い女”という新境地です!家柄ゆえに政治家とも個人的親交を持つグラハムは、文書の作成を指示したマクナマラ国防長官ともお友達。友を裏切る&父親や夫が築いた会社と財産を危険にさらすことの“代償”と“良心”との板挟みを乗り越え、真のリーダーへと成長していく…。その内面の闘いにたぎる静かなパワーがヒシヒシと伝わってきます。さらに、メリルとトムが体現する、危機の中で育まれていく発行人と編集者の友情と、貫かれるジャーナリストの矜持がアツい!

強い女のイメージがあるメリルの、お嬢様育ちで頼りな~い雰囲気が新鮮です。家族経営の会社を引き継ぐも、まだ経験が浅い“オロオロ感”が妙にかわいい(C)2017 Twentieth Century Fox Film Corporation and Storyteller Distribution Co., LLC.


早々に政府に幕引きさせてしまうのか、それとも他紙の追随を呼び世論をも動かしていくのか。主人公たちの決断は、真逆の2つの結末への決定的な分岐点となったわけですね。“1つ”では潰される正義や勇気も、繋ぐことで力になり、自分もその分岐点を担い得ると思うと、なんとも、重いっ。ワシントン・ポスト紙はペンタゴン・ペーパーズで名を上げ、続くウォーターゲート事件でも伝説的存在となったのですが、前者が大事件にならなければ後者も闇に葬られた可能性大なんですよね…。そんな歴史のうねりを捉えたラストシーンがオツです。

スクープを他紙に抜かれてキレちゃってた編集主幹も、報道の自由を約束する憲法のもと、徐々に事件の全容を伝える使命に燃え始めます。トムの演技の巧さは言わずもがなです(C)2017 Twentieth Century Fox Film Corporation and Storyteller Distribution Co., LLC.


トランプ政権がもたらした社会の混乱へのフラストレーションから、“基本に立ち返ってやることやれ”とか、“差別するな”とかいうメッセージを込めた作品が目立つ昨今のハリウッド。本作もその類ですが、声を上げたのが重鎮・スピルバーグである意味は大きい。世界的映画人が率先して、大統領に「フェイク」と攻撃されるマスメディアを叱咤激励し、今の世に物申している。それに比べて我が国の平和ボケぶり…、うーん、ヤバいかも?

【映画ライター/おおまえ】年間200本以上の映画を鑑賞。ジャンル問わず鑑賞するが、駄作にはクソっ!っとポップコーンを投げつける、という辛口な部分も。そんなライターが、いいも悪いも、最新映画をレビューします!最近のお気に入りは「君の名前で僕を呼んで」(2018年4月27日公開)のティモシー・シャラメくん!

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