邸宅・漁師の家・農家…「葉山」らしい歴史的建築物をリノベ活用した個性派3軒を紹介

横浜ウォーカー

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半農半漁の時代から保養・観光の町へと変貌を遂げた葉山。それら町の歴史を語る建造物をリノベーションによってよみがえらせ、飲食店や宿泊施設として活用する動きが拡がっている。古いものを残しつつ改装する工程は、新しいものを作るよりも時に大変な作業になることもある。しかし、そんな苦労以上に、建物のもつ特性や立地条件、地域との関わりかたに重きをおいた、画期的リノベーションを紹介しよう。

歴史的建造物が家族連れに優しい空間「engawa cafe & space」として復活


【画像を見る】店名ともなった自慢の“縁側”。趣のある建物だけに、展示会や無料ライブの開催などの需要もあり、不定期でイベントを実施することも(C)KADOKAWA 撮影=奥西淳二


昭和天皇の侍医頭(じいのかみ)の別邸として、別荘建築全盛期の84年前に建てられた由緒ある建物、旧・塚原伊勢松別邸を改装した「engawa cafe & space」。葉山の古民家活用の先駆けとなったこの店舗のオーナーを務めるのは、自らこの物件の地主さんとの交渉により、契約を許可された寺田由利加さん。「ここを大切に残されていた地主さんのお気持ちを考え、相談しながらこの建物の活用法を探りました。一番に思いついたのは人が集ってゆっくりとした時間が過ごせる場所にしたいということ。そのためにおいしい料理を用意し、居心地のいい空間を作り上げることにしました。店名でもある縁側はそのシンボルでもあります」。

近代美術館そば、県道207号線沿いに位置する。入り口は県道から少し入ったところの門が目印(C)KADOKAWA 撮影=奥西淳二


ランチの「旬野菜たっぷり湘南豚のせいろ蒸し御膳」(1,836円)。地元食材と旬のものを意識したメニューはどれも体に優しい(C)KADOKAWA 撮影=奥西淳二


改装は建物の力を大切にし、「新しくする」のではなく「復元する」という気持ちを軸に、設計士などの力を借りて半年をかけて行ったそう。「別邸時代はもちろん、その後も、住居としておもにプライベートに使用されていましたので、engawaがオープンした時にはこの建物に興味をお持ちの個人や団体さまが多くお見えになりました」。そんな周囲の期待もあり、店に用意されたテーブルやイス、そのほかインテリアなども建物にあうように質のいい中古家具などを慎重に選び、「親戚の家の蔵に保管されていた古い調度品などをいただいたりもしました」と言う。

入り口を入ったそばのフローリングのスペースにはテーブル席を配置。和のあしらいが残る建物とテーブルセットの組み合わせが新鮮(C)KADOKAWA 撮影=奥西淳二


寺田さん自身、実家がプチホテルを経営していたこともあり、サービス業の心得は小さいころから植えこまれている。出産と子育ても経験したことから、地域での子育て支援の活動にも積極的だ。「子供が小さいころは社会との付き合いが限定されてしまいがちです。ここでは金曜をお子様連れのお客様優先日として、気兼ねなくお越しいただけるようにしています」。

オーナーの寺田さん「ここの場でお客さん同士が新しくつながったり、旧交が温まったり、人のご縁が広がっていくことを期待しています」(C)KADOKAWA 撮影=宮川朋久


改装前の庭の風景。ここには改装で石張りの通路を設けて歩きやすくした。金曜のお子様連れ優先日には庭で小さな子供が遊ぶ姿も見られる【提供/engawa】


御用邸からも歩けるところにあり、かつては一部の人しか中に入ることができなかった歴史的な建物が、今では子供たちや地域の人たちが集い、憩える場として重宝されている。うつりゆく時代を感じさせてくれる“縁側”でおいしい食事を味わいつつ、過去に思いをはせてみたい。

奥の畳のスペースはお客さんの人数や要望に応じてテーブル配置を変えることも可能なので、食事つきの会合などにも利用できる(C)KADOKAWA 撮影=奥西淳二


改装前の広間。元は全部屋畳だったため、入り口に近い部分のみフローリングに改装。建物をいためないよう、床に打ち付けるのではなくはめ込み式で対応した【提供/engawa】


築100年以上の漁師の家が、古き良き和風旅館さながらの宿泊施設「港の灯り」に大変身


築100年以上とはいえ、「束石はしっかりとしていて基礎に問題はなく、木材もいいものを使用していたので助かりました」(恵氏)(C)KADOKAWA 撮影=奥西淳二


「新しいものを作るのは簡単ですが、古いものには年月を重ねたよさがあります。そこに価値をつけ、ニーズにあわせてよみがえらせました」と、オーナーの恵武志氏が語る「港の灯り」は、かつて漁村だった葉山村時代に建てられた漁師の家を改装して建物一棟貸しの宿泊施設にしたものだ。

オーナーの恵武志氏。藤沢出身で、実家は干物専門店を経営しているので魚の目利きはプロ級(C)KADOKAWA 撮影=奥西淳二


「ホテルに宿泊して外食をするような旅行ではなく、親子三世代などの大家族で過ごす時間を楽しみたい方や、長期宿泊や合宿などに使用したい方、日本家屋に興味をもつ外国からのお客さんなどに使っていただいています。母屋の広い1階スペースは大人数でも宿泊できるように畳の部屋として残し、キッチンには基本的な調理道具や食器類を揃えています」

母屋と連続した併設のカフェの店名も、漁師の家だったことを意識して「ANCHORS CAFE」に。残っていた錨(アンカー)やオールをディスプレイしている(C)KADOKAWA 撮影=奥西淳二


ほかにも、子供が遊べるロフトスペースや、屋上に設置された月見台など、宿泊者に喜んでもらえる設備を用意し、併設のカフェは宿泊者の朝食を提供する。宿泊料金は基本料金54,000円(5名まで。朝食付き)。6人目より1人当たり10,800円追加。最大10名まで利用が可能。

母屋屋上に設けられた月見台からの相模湾。地元の花火大会の時には特等席となる。眼の前は真名瀬漁港(C)KADOKAWA 撮影=奥西淳二


宿泊者用の朝食は併設のカフェで用意。写真はアジの干物定食(朝食は季節などにより内容が変わります)【提供/港の灯り】


コンセプトである「ただいまと言える場所」や、施設の内装などはリノベーション前の特性や存在意義を大切にしている。「もとが漁師の家であったことから、漁港に面して建てられています。当時、暗くなってから船が戻ってくる時に、ここの家の灯りが港の目印になっていたのではないかと思います。そういう思いも“港の灯り”のコンセプトに引き継いでいますし、家に残っていた漁関係の機具や小物類も、廃棄せずにインテリアとして残しています。立地や建物の作りなどをふまえても、かつての名残をうまく活用したほうが価値は膨らむんです」

長い縁側の突き当りにはお手洗いという昔ながらの作りが日本人にもどこか懐かしい。庭もあり、花火やBBQをすることもできる(C)KADOKAWA 撮影=奥西淳二


さらには、古いもののよさを最大限活用しつつも、新たな価値を加えることも忘れない。「葉山には美しい海や、歴史ある神社もあり、ここで結婚式をあげる人も多いです。そんな時には“港の灯り”で披露宴をひらいたり、和装の写真撮影をすることもあります。それ以外にも、個々のお客さんの希望にあわせて柔軟に対応できるようにしています」

畳の大広間に宴会用(写真は結婚披露宴)のセッティングをほどこして料理を提供することもできる【提供/港の灯り】



100年以上前の漁師の家が、そのたたずまいを壊すことなく、今では幾通りの顔をもち人々の需要にこたえ続けている。「港の灯り」の活用法はまだまだ広がりそうだ。

葉山で16代続く名家の敷地にオープンしたアットホームな「カフェ リトルキッチン Ha・ya・ma」


築200年以上の母屋は今も伊東さん含む3世帯で暮らしている(C)KADOKAWA 撮影=奥西淳二


葉山の海岸沿いから横須賀市方面の東に向かうと、山エリアに突入する。このエリアは古くから三浦半島を横断する重要な街道が通り、なかでも木古庭地区はその通過点の里として栄えていた。今では山間の、のどかな住宅地として先祖代々その地に根付いた人々が暮らす地域だが、その木古庭に今年1月「カフェ リトルキッチン Ha・ya・ma」がオープンした。代表を務める伊東宏昌氏は、伊東祐親(すけちか・平安時代末期の武将)をルーツにもつと言われている伊東家の16代目で、その昔にはながくこの地の名主として貢献した一族の子孫でもある。

代表の伊東氏は狩猟免許も持っており、「三浦の野菜がイノシシに荒らされないように守っています」と笑う(C)KADOKAWA 撮影=奥西淳二


「伊東家がここに住み始めたのは安栄時代。今から200年以上も前で、私の、現在も住んでいる実家はそのころに建てられたものです。かつては農家暮らしをしていた時もあり、母屋に加えて馬小屋や離れも建っていました」。今回オープンしたカフェは、その敷地内の、古く使わなくなった築150年ほどの建物をリノベーションし、落ち着いた雰囲気のカフェに生まれ変わらせたものだ。店内は、タイル張りの床と白を基調としたテーブルとイスが、一見すると和モダンな雰囲気を作りだしているが「天井の梁には、その昔の木工道具である釿(ちょうな)を使用して削った特有の跡が見られます」というように、年月を重ねたもの特有のぬくもりが細部に残る。

もとは、裏山の松を切り出して150年前に建てられたもの。その趣を壊さないよう、改装時には地元の大工さんと一緒に窓や扉選びにもこだわった(C)KADOKAWA 撮影=奥西淳二


「葉山を出て、京都の旅館で修業をしたり、板前をしていた時期もあります。酪農も経験しました」という経験豊富な伊東氏だが、現在はここで地域の食材にこだわった料理に腕をふるい、地元の人に気楽に来てもらえるようなカフェを目指す。「ランチセットは1,650円で3種からお選びいただけます。料理には実家の畑で採れた野菜や、近所の養鶏場の卵を使用しています。このような山の中なので、お店のことを町民にも知ってもらうため、毎週日曜には葉山の朝市・葉山マーケットにも出店しています」

自慢の手作りスイーツは、ワゴンより3種選んでコーヒーが付いて1,100円。ランチに+550円で付けることもできる(C)KADOKAWA 撮影=奥西淳二


海のイメージが近い葉山だが、自然が豊かにのこる山間は土壌がよく野菜がおいしい。地元を知り尽くした伊東氏ならではのおもてなしを味わいに、足をのばしてみたいエリアだ。

【取材・文/鈴木秋穂、撮影/奥西淳二、宮川朋久】

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