フィギュアスケート・近畿ブロック大会レポート3 【ジュニア女子・前編】

2016年10月28日 18:19更新

東京ウォーカー(全国版) 編集部

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トリプルアクセルジャンパーとしての帰国後初戦。紀平梨花

紀平梨花、フリースケーティングの演技

JGPスロベニア大会でのトリプルアクセル成功、そして見事な優勝は記憶に新しい。その紀平梨花の帰国初戦ということで多数のメディアが詰めかけた。ただそのメディアの思惑はまた別のところにあった。紀平選手が3アクセル+3トウループへの挑戦の可能性を仄めかしていたため、それを期待しての取材が多かったようだ。

演技後の取材でも、各社から3アクセル+3トウループについての質問が相次いだ。聞きたくなる気持ちは分かる。ただあまりにも聞き過ぎのように感じる。そもそもトリプルアクセルをクリーンに決められるだけでも大変なことなのだ。幸い、紀平選手は「注目されることはプレッシャーではありません」と言い切る鷹揚な性格の持ち主で、今のところ意に介していない様子だが、取材する側は今のうちから自制に努めるべきではないか、そんなことを感じた次第だ。演技の凄さからつい忘れがちだが、彼女はノービス上がり、まだジュニア初年度の若い選手だ。取材でしっかりと話せるだけでも大したものだ。長い目で見守りたいと思う。

この近畿ブロックでの演技も素晴らしいものだった。ショートプログラムでステップがぐらつくところがあり、本人も強く反省していたのだが、実はジュニア初年度とは思えないほどしっかりと作り込んだステップだ。「作った当初は難しくて、沢山練習しました」との言葉からも分かる通り、難しいものに挑戦している分、ミスが出てしまうのだろう。ジャンプの凄さについ隠れがちだが、スケーティングも素晴らしいものがある。自然にすっと伸びるあのスケートは、幼少時の浅田真央、宇野昌磨を彷彿とさせる。トリプルアクセルを降りたことで“真央2世”と呼ばれることが増え、本人は「嬉しい」と素直に受け止めているようだが、ジャンプ以外の部分にも注目して演技を観てあげてほしいと思う。

昨年の夏までは、紀平選手は決して安定した演技が出来る選手ではなかった。緊張を克服できるようになったことで演技が安定してきた面があるようで「試合だと思わずに、友達とかトレーナーさんに話しかけて、(氷に乗る)30秒ぐらい前になったら集中してリンクに向かうようにしています」と独特のルーティンを身に着けたようだ。

迎えたフリースケーティング、紀平選手は2戦連続でトリプルアクセルを成功させることが出来た。「観客の歓声が聞こえて嬉しかった」というが、実は演技途中のことはほとんど覚えていない、という。「演技が終わった瞬間に演技を振り返って、良かったと感じました」とのコメントからも、いかに演技に入り込むタイプの選手かが分かる。この日、130点を超えるスコアを獲得したものの、本人はまだまだ改善の余地があると感じているようで、

「少しのミスもないように、ファイナルでは一番いい演技が出来るように頑張りたいです。スピン、ステップ、着氷の流れ、こういったところを改善したい。海外の選手は表現、スケーティングが上手いので、自分ももっと練習をしてPCSの点を取れるようにしたい。ファイナルではもっといいトリプルアクセルを跳びたい。とりあえず着氷したのは嬉しかったんですが、練習ではもっといいジャンプを跳べています」

どこまで進化を遂げるのか、若干の末恐ろしさも感じつつ、楽しみでならない。

体調不良の中、鬼気迫る演技を披露。本田真凜

コンディションは悪いなりに、精一杯の演技を見せる本田真凜

JGPスロベニア大会で表彰台に乗る活躍を見せた本田真凜、しかし帰国後に体調を崩してしまったそうで、目に見えて分かるほど痩せた姿が痛々しい。「全く食べられず、3、4キロ痩せました」という。しかしその苦しい状況の中、彼女は最善の演技を成し遂げた。ショート、フリー、共にノーミス。今季初のことだ。

ショートプログラムは「スタミナに不安があったので、体力を残すようにと滑りました。ステップの部分はフラフラでした」というように、ジャンプ以外は極力控え目に滑った、本人としては満足の行かない演技だったが、それでもこの安全運転の演技で高得点を得られたことに「あと5点は伸ばせます」と手応えを感じ取ったようだ。

ショートプログラムを終えた夜、本田真凜のファイナル出場決定の報が飛び込んできた。ギリギリまで出場が決まらず、「出られないものと考えています」と語っていた本田選手だが、「運良く出られることになったからには優勝しかない」と強気に気持ちを切り替えていた。

そして迎えたフリースケーティング、体調不良をものともせず、鬼気迫るノーミスの演技で満員の観客を魅了、万雷の拍手を一身に浴びた。朝の練習でもジャンプ2本でバテバテになってしまった状態だったようで、最後まで滑り切ることだけを考えていたそうだが、紀平選手の130点というスコアを聞いて、「燃えた」という。

「トリプルアクセルがない中で、自分がどれだけ点数を出せるか、ということを考えて滑りました。ここでやるしかないでしょう、という気持ちに変わったんです。体調のことは何も考えずに、自分が今どこまで点差を縮められるか、という思いで滑りました」

強い、この一言に尽きる。昨シーズン、世界ジュニアチャンピオンとなり、今季は追われる立場でのジュニア残留。これは本当にきついものだ。過去、あまたの名選手が世界ジュニアを制しているが、優勝の翌年にジュニアに残留し、連覇を成し遂げたのは女子ではラジオノワただ一人だ。浅田真央でさえ連覇は叶わなかった。それにはジュニア特有の事情がある。スケーティング、表現力まで含めた完成度で勝負するシニアと違い、ジュニアではひたすらエレメンツ勝負、いかに難度の高い技に挑戦したかで勝敗が決する。怖いもの知らずで高難度の技に挑む挑戦者達に対し、タイトル防衛を果たすことは極めて難しいのだ。その難しさを承知の上で、あえて連覇に挑むのが今季の本田真凜だ。

「日本のジュニア女子は強い。今年はロシアを超えていると思います。そのジュニアの皆に追いつかれないように、自分の位置をしっかり保ったまま、いい演技をしていい結果を出したい。きっと(紀平)梨花ちゃんは去年の自分のような気持ちでやれているのだろうと思います。自分が去年とは違い、挑戦ではなく守りの立場になり、楽しめていない、と感じていました」

「今年1年頑張ったら、来季はシニアで挑戦する立場に戻れます。今は耐えて、いいところを取りたいと思います」

いいところ、つまりファイナル制覇、そして世界ジュニア連覇だ。本田選手はつなぎの部分の難度にこだわる、シニアでも通用するレベルのプログラムを昨シーズンから組んでいた。きっとシニアこそが、本田真凜の真価を発揮できる舞台なのだろう。

「今はあまり表現をしようと思って、していないんです。自分がスケートが好きで、その思いが溢れているだけの状態です。シニアの好きなスケーター達と比較すると、表現の面で自分はまだまだだと思います。早くジュニアを勝って終えて、今の自分がどこまでシニアのお姉さんたちについていけるのか、それを楽しみに今年は頑張りたいです」

今季はプログラムもショート、フリー、共に素晴らしいものに仕上がっている。昨シーズンはフリーで挑戦的な難しい曲を選んだが、今季はショートが彼女にとっての挑戦的なプログラムのようだ。

「どちらかというと綺麗な曲が好きです。フリーはずっと前から滑りたかった曲です。“ロミジュリ”から『この3つがいい』と振付のジェフリー・バトルに指定して作ってもらいました。ショートはタンゴに挑戦したかったんです。強弱のある曲が好きなんですが、これはあまり強弱のない、一定のテンポでリズムが取りにくい曲です。それをあえて選んで、苦手意識がなくなるようにと挑戦しました。今はまだ難しいと感じています」

「今回は全くスピードがなく、自分の演技ではありませんでした。この演技でこれだけの点数が出ました。これから仕上がっていくのが楽しみです」

西日本、そして全日本ジュニアでは復調した本来の演技を披露してくれることだろう。追われる姿ではなく、挑戦者としての楽しい演技を見せてほしいものだ。

※「ジュニア女子・後編」へ続く 【東京ウォーカー/取材・文=中村康一(Image works)】

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