「テックメディアの役割は“人の体験”を伝えること」ギズモード編集長が語るメディアコマースの未来

東京ウォーカー(全国版)

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ギズモード・ジャパンは最新のデジタルデバイスやガジェット情報から、テクノロジー、サイエンス、ビジネス、エンターテイメントまで、他とは異なる情報を届ける“日本最大級のガジェット&テクノロジーメディア”として有名だが、昨今は“購買に寄与するメディア”として進化を続けている。メディアがコマースに取り組む意義とは何か。ギズモード編集長・尾田和実氏に話を聞いた。

ギズモード編集長・尾田和実氏


“店舗に行かないとわからない情報”をメディアとして補完


――ギズモード・ジャパンがスタートした経緯を教えてください。

【尾田和実】ギズモードは、最新テクノロジーやガジェットを紹介するブログメディアの草分けで、アメリカだけではなく10カ国以上の国に展開していました。そのライセンスを弊社(インフォバーングループ)で取り、2006年にギズモード・ジャパン(以下、ギズモード)として立ち上げました。日本でいうテックメディアとか、ガジェットのメディアの先駆けで、規模的にもおそらく一番大きいメディアになると思います。いろんなものがIoT(モノのインターネット)化している昨今の状況で、ネットワークと接続しているのが前提のガジェットを紹介しているのが強みだと思います。

――ガジェットを紹介するメディアの草分け的な存在ですが、現在は日本で有数の「売るメディア」としても有名です。“購買に寄与するメディア”に進化したタイミングは?

【尾田和実】有名かどうかはわからないのですが、以前からガジェットをカルチャーとして紹介するだけではなく、Amazonのリンクを貼って実際にユーザーが購入するまでをセットとして考えていました。そのうえで、今はユーザーのマインドが「ネット上で欲しいものを探して買う」のが当たり前になってきているので、“店舗に行かないとわからない情報”をメディアとして補完するようにしています。特別な転換期があったというよりは、ユーザーの意向に寄り添う形で、自然と強化されていった感じですね。

――ユーザーも、商品のeコマース(ネット通販)に対して抵抗感のない時代になりました。コロナ禍によって、そうした意識はより強まっているように感じます。

【尾田和実】ニューノーマルなどといわれる時代が到来し、リモートワークが主流になりました。みんながテクノロジーを享受しないと生きていけない社会になりつつあります。そうした変化のなかで、テクノロジーが他人をリードするためのものではなく、インフラとして重要になってきている。ある意味できわめて民主的に「便利さを分かち合おう」というマインドを感じます。そんな、“テクノロジー=インフラとして役立つもの”を紹介して、読者にとって有益なコンテンツを提供できればと思っています。

【画像】日本最大級のガジェット&テクノロジーメディア「ギズモード・ジャパン」※画面キャプチャ


レガシーなテックメディアの時代は終わり「体験を伝える」時代に


――尾田さんは、最新情報をどのようにしてインプットしているのでしょうか。

【尾田和実】編集部員にも言っていることですが、ギズモードはモノを紹介するメディアだけど、大事なのは“モノが提供する体験”だということ。そして、その体験を作っているのは“人”なんです。例えば、カメラやゲーム、PCを買うとき、「この人が創った」「この人が勧めていた」ということがモチベーションになったりする。情報の集め方でも、僕はメディアをチェックするというよりは、「この人をベンチマークする」と決めています。定点観測的に「この人は何を使っているのか」「何に興味を持っているか」を徹底的にリサーチして、そこから必要な情報を得ている部分が大きい。情報に長けた人って、量的な問題でなくて、いかに事象として有機的に語れるかだったりしますよね。だから人が起点になっている方が情報摂取の仕方として効率がいいんですよ(笑)。

――最近、これからの時代は“人の信頼”だという意見を聞くようになりました。シンプルに“最新情報を伝える”のではなく、“信頼のおける人の体験”を伝える、という考え方でしょうか。

【尾田和実】ギズモードでは、年末年始に「今年買ってよかったもの」とか、「編集部員が買ってよかったもの」といった記事を出したところ、大きな反響がありました。正直それはどこもやってたんですが、うちはそれをどう運用するかとか、体験ベースに進化させていったところに独自性があったんだと思います。

――確かに、ガジェットメディアだけではなく、人気のYouTube動画を見てみると、ガジェットとかプロダクトとか、そういうテクノロジー製品を体験ベースで紹介する人達が大勢います。

【尾田和実】そうですね。レガシーなテックメディアの時代はとうに終わっていて、新しいiPhoneが発表されたらガジェット系YouTuberと称する人たちが一斉に紹介する時代です。YouTuberの世界は個人の発信がベースですよね。我々もそうした人と人とのコミュニケーションがベースとなるメディアの変化には対応しなければいけない。それで僕らも、去年からYouTubeチャンネルのアプローチを個々の編集部員の発信ベースに変えたところ、急激に登録者が増えて10万人を突破しました。テックメディアの動画チャンネルとして、1、2位を争う規模になっています。

将来は、メディアコマースではないメディアの方が少なくなる


――なるほど、今のテックメディアは「誰の体験を伝えるのか?」が大事なんですね。その際、入門者向けに“共感”を得られる書き方を意識されているのでしょうか。

【尾田和実】以前のブログメディアって「好きな人にわかってもらえればいい」っていう考え方もありましたが、今はテクノロジーの向き合い方、使い方まで含めて広い層に向けて紹介するようにしています。その際、ドラえもんの藤子不二雄先生のビジョンがすごく参考になっています(笑)。

――“自分が信頼しているメディア”から商品を購入するという流れが、これからの主流になっていくのでしょうか。

【尾田和実】実はギズモードの他に、「ROOMIE(ルーミー)」というメディアの編集長も兼任しているんですが、その両方のメディアで商品の具体的な使用感について触れる記事の方が売れます。編集サイドがちゃんと商品を使って紹介することで、ユーザーはメディアを信頼して購入してくれるわけです。アパレルを紹介する場合も、「外出したとき、自然光の中でカットソーやアウターがどんな風に見えるか?」といった実用性までちゃんと書くことで商品購買にまで結びついています。おいそれと試着なんてできない状況で、そういう情報ってやっぱり価値があるんです。

――ユーザーが求めている、必要としている情報を記事のなかで補完するかどうかで結果が変わるということですね。

【尾田和実】小売店に行ったり、実際に買ったりしないと知りえない情報を見つけ出すセンスこそが重要だと思います。

――最後に、メディアコマースの未来と可能性についてお聞かせください。

【尾田和実】メディアコマースではないメディアの方が少なくなるのではないかと思っています。メディアコマースっていう言葉が死語になるというか、「メディア=コマース」みたいな世界観になる。それはネガティブな意味ではなく、ごく当たり前のものとして受け止められるだろうし、ユーザーが購買の際、メディア的な情報から価値を感じているという事実を見落としてはいけないと思います。最初に話しましたが、やはり購買って「人」が起点となっていて、メディアってとても人間臭い形態なんですよね。今の生活のなかでは、メディアで記事を読みながら“買い物できない”っていうこと自体が不自然になってくるんじゃないかな。

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