コーヒーで旅する日本/関西編|若手店主ならではの感性で、京都のコーヒーシーンに新風を吹き込む。「風とCOFFEE」

関西ウォーカー

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全国的に盛り上がりを見せるコーヒーシーン。飲食店という枠を超え、さまざまなライフスタイルやカルチャーと溶け合っている。なかでも、エリアごとに独自の喫茶文化が根付く関西は、個性的なロースターやバリスタが新たなコーヒーカルチャーを生み出している。そんな関西で注目のショップを紹介する当連載。店主や店長たちが気になる店へと数珠つなぎで回を重ねていく。

30年ほど続いた雀荘兼喫茶店を改装した2号店「喫茶カゼコ」。大通りから1本外れた路地にあって、わざわざ訪れる観光客も多い


関西編の第8回は、20代の若き店主・森さんが、2年前に京都・西陣で創業し、現在2店舗を展開する「風とCOFFEE」。かつての盛り場や長年続いた喫茶店の跡といった、渋いロケーションにありながら、提案するのは、最先端の個性際立つスペシャルティコーヒー。その意外なギャップで支持を得て、京都のコーヒーシーンに新風を吹き込む一軒だ。

店主の森風渡(もり・かぜと)さん


Profile|森風渡(もり・かぜと)
1996(平成8)年、タイ・バンコク生まれ。現地で9年間を過ごしたのち、兵庫県赤穂市へ。大学卒業後、京都で会社員を経て、タイ料理店を間借りして、テイクアウトコーヒースタンド「風とCOFFEE」をスタート。2020年に実店舗に移転して、「風とCOFFEE」(西陣京極店)を開業。2022年1月には、2店目となる「風とCOFFEE 喫茶カゼコ」もオープン。

味のあるレンガ造りが印象的な店構えは、フォトジェニックなスポットとして女性に人気


時々の変化を追い風にした開業までの2年間

かつての歓楽街の路地奥で最初に開業した「西陣京極店」。森さんの出店を機に周辺に若い世代の店も増えつつある

「風とCOFFEE」。一度聞いたら印象に残る、爽やかで詩的なネーミングだが、「実は、自分の名前をそのまんま使っただけなんですよ」と笑う森風渡さん。近年、新たなコーヒー店のオープンが相次ぐ京都でも、最も若い世代にあたるだろう。弱冠25歳での開業は、疾風怒濤の展開を経た末に実現したものだった。

振り出しは大学時代、学園祭で出店したサークルの屋台から。「ありきたりなものは避けたいと、思いついたのが、タイにいた頃に飲んだ、コンデンスミルクが入った甘い紅茶・タイティーとコーヒーの店でした。その時はコーヒーは添え物的な位置づけだったんですが、豆の種類や淹れ方、スペシャルティコーヒーの存在を知るほどに深みが分かってきて。当時、大学の近所にあった自家焙煎のコーヒー店に通って、分からないことを聞きに行くようになったんです」

大学を卒業し、就職した後もコーヒーショップ通いは続いたが、友人とのふとした会話が転機になって、自らもコーヒー店の開業を目指すことに。「ちょうど会社での異動や環境変化で、先行きに悩んでいたことも理由の一つです。同時に、仕事で縁があったタイ料理屋さんから、空いているスペースを活用したいという話が舞い込んで、“動くタイミングが重なった”と感じた」と振り返る森さん。

1年たたずに退職を決め、間借り店舗でスタートしたが、しばらくしてタイ料理店の移転が決まり、否応なく別の場所を探すことに。「この時点でやめるという考えもありましたが、面白さが勝った」と、新天地を求めて探し当てたのが、京都市上京区にある西陣京極の路地奥にあった店舗。紆余曲折を乗り越えて、「風とCOFFEE」を創業した。

デザインはデンマーク、製造は台湾という電熱式焙煎機Aillioは、持ち運びもできるコンパクトさも魅力


西陣京極とは、大正から昭和初期にかけて映画館や劇場、飲食店などが集まった、歴史ある京都の歓楽街の一つ。今も年季の入った酒場や銭湯などが残る入り組んだ一画は、かつての盛り場の面影を残している。「開店した当時は界隈にゲストハウスなどができ始め、変化が起こり始めた頃。自分の店だけでなく、このエリアを盛り上げたいという考えを持っていたことで、交流の場に呼ばれることも多く、その後、徐々に若い世代のお店も増えてきました。この界隈に最初に飛び込んだパイオニア、と、自分では思っています(笑)」

知る人ぞ知る京都のディープゾーンに、自家焙煎のコーヒー専門店というギャップ。しかも、わざわざ探してやっとたどり着ける立地が逆に評判を呼び、20代や学生を中心に若い世代の常連が定着。ここまで、わずか3年。一見、飄々とした雰囲気の森さんだが、ロゴマークの帆船よろしく時々の変化の風を捉えて、店の存在を広めてきた。

エルサルバドル産の生豆からは、焙煎前からフルーティーな香りが瞭然


レトロな空間で出会う個性派スペシャルティコーヒー

ロゴマークのヨットのネオンが、セピア色の空間にさりげないアクセント

森さんの歩みはまだまだ止まらず、西陣京極店の創業から2年後には、早くも2号店「喫茶カゼコ」をオープンした。「2軒目は、実は自分の家の引越のために物件を探していた時、偶然見つけたんです。地下室をイメージしたちょっと怪しい雰囲気の西陣京極とは真逆のテイストですが、店のカラーをかっちり決めるより違う方が楽しいので」と森さん。

古い喫茶店兼雀荘を改装した空間は、“ネオ純喫茶”と銘打った、レトロな昭和テイストの佇まい。「この見た目で、メニューには最先端の個性派スペシャルティコーヒーも置いている、というギャップが魅力です。酸味が少ないコーヒーを好むお客さんが多いので、定番のブレンドこそ中庸のバランスの取れた配合にしていますが、基本はシングルオリジンのキャラクターを推していくスタイル。チャレンジングな取り組みをしてる産地や自分が面白いと思った精製・品種の個性を提案しています」

個性的なコーヒー豆との出会いも楽しみの一つ


シングルオリジンの顔ぶれを見てみると、例えば、浅煎りの豆には、柑橘系のトロピカルな香りが立ち上るエルサルバドル・オレンジブルボン(※1)・ナチュラル、チェリーのような甘味が印象的なルワンダ・キリンビ・アナエロビックナチュラル(※2)といった、ジューシーな味わいを持つ銘柄が。さらに、2種あるコロンビアは、“クセが強い!”と解説されるサントゥアリオ農園・シトラススウィートネス(※3)は浅煎りで、その名の通りライムのような果汁感が鮮烈。片やエル・パライソ農園・ローズティー・ダブルアナエロビック(※4)は深煎りで、甘酸っぱいベリー系の風味が前面に感じられる。

抽出は豆の種類によって2つのドリッパーを使い分ける


「エル・パライソ農園は、当初浅煎りで出していましたが、あえて深煎りにしてみたらどうなるか試してみたら、キュッとくる酸味が和らいで、いちごのような味わいが出てきた。同じ産地の豆でも味が変わる面白さもまた、コーヒーの醍醐味の一つですね」と森さん。

焙煎は西陣京極店の開店と共に、焙煎機を導入して始めたが、当初は難しさが先立っていたという。「開店前から焙煎はしたいと思っていましたが、職人的な世界という印象で、長年携わるベテランもたくさんいるので、自分なんかができるのかなという不安もありました。ただ、実際にやってみると、豆を焼くという作業自体はシンプルなものですが、それゆえに生豆のポテンシャルにも左右される。だからこそ、どこまで自分流の味作りを入れるのかの匙加減が難しい。店で使っている電熱式焙煎機Aillioは関西ではまだ珍しく、同じ焙煎機を使っている人がいないので、基本は自分で試行錯誤。開店しばらくは仕入れた焙煎豆も使いつつ、自分の技術を磨いていきました」

浅煎りのコロンビア・エル・パライソ農園・ローズティ550円。人気茶舗SHUHARI KYOTOのシングルオリジン抹茶を使った、抹茶焙じ茶生チョコタルト500円


コーヒーとのコラボで作家やアーティストの活躍の場を

コーヒー豆のほか、ラバーストラップ320円などオリジナルグッズも販売

今も試行錯誤を重ねながら、「店は、まずはコーヒーの楽しさを伝えていく場所ですが、同時に社会、地域に貢献する活動もしていきたい」と森さん。その一環としてこれまでに、店名にちなんで「〇〇とコーヒー」と銘打ってコラボアイテムの制作を展開してきた。「コーヒーは主役でもあり、脇役でもある。脇役として何かと組み合わせることで相乗効果を出せれば」と、アーティストやイラストレーターをフィーチャーしたTシャツやマグカップなども販売している。

また、「喫茶カゼコ」ができたことで、イベントの開催も選択肢に加わった。「この春は、カゼコの奥のスペースを使ってアーティストの作品の展示や、間借りしていたタイ料理屋さんと恩返しの意味も込めたイベントも企画しています。自分がハコを作ったことで、志を同じくする人や作家さんなどとのコラボを通して、活躍できる場や機会を作っていけるようにしたい」

店の奥にある元雀荘を改装したスペースは。展示やイベントにも活用


開店以来、まさに怒涛の2年が過ぎたが、「基本的には楽しい」という森さん。「お客さんの反応が直に伝わるのがうれしいし、最初が右も左もわからないレベルだったので、自分が成長している、と実感できるのが何より楽しい。いろんなタイミングが重なったとはいえ、間借りの時は苦しい時期もありましたが、思い切って飛び込んだ世界をサバイバル気分で楽しんでます」と屈託なく笑う森さん。刻々と変わる波と風向きをとらえる若さと感性で、これからも京都のコーヒーシーンに新風を吹き込んでくれそうだ。

カップの底から現れる“サンキュー!”のメッセージに、思わず笑みが浮かぶ


森さんレコメンドのコーヒーショップは「ABOUT US COFFEE」

次回、紹介するのは京都市伏見区の「ABOUT US COFFEE」。
「僕が店を開いた後、焙煎所の上に住んでいた友人が、ABOUT US COFFEEのスタッフになったことから、店主の澤野井さんともご縁ができました。穴場的なロケーションとスタイリッシュな店構えで、女性にも人気のお店ですが、コーヒーに向き合うストイックな姿勢は、まさにプロフェッショナル。物腰柔らかな澤野井さんの人柄も魅力です」 (森さん)

【風とCOFFEEのコーヒーデータ】
●焙煎機/Aillio 1キロ(電熱式)
●抽出/ハンドドリップ(ハリオV60、カリタ ウェーブドリッパー)
●焙煎度合い/浅煎り〜深煎り
●テイクアウト/あり(500円~)
●豆の販売/シングルオリジン8種、100グラム700円〜

※1…従来の赤い実と異なり、オレンジ色の実をつける、エルサルバドルで栽培される希少品種。柑橘系の明るい酸味と爽やかな甘さが特徴
※2…微生物による嫌気性発酵の後に、天日乾燥を行う精製方法
※3…現地でMosstoと呼ぶコーヒーチェリーのジュースに漬けて嫌気性発酵行う、独自の精製プロセス
※4…乳酸菌による一次発酵、麦芽酵母による二次発酵で、嫌気性発酵を2度行う、最先端の精製方法

取材・文/田中慶一
撮影/直江泰治


※新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大防止にご配慮のうえおでかけください。マスク着用、3密(密閉、密集、密接)回避、ソーシャルディスタンスの確保、咳エチケットの遵守を心がけましょう。

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