御朱印帳業界に革命?京都の製本会社が手掛ける「墨が裏面に染み出ない御朱印帳」が大ヒット!取締役社長に聞く、売り上げ好調の理由と誕生秘話

東京ウォーカー(全国版)

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神社やお寺に参拝した証としていただける御朱印。最近では御朱印集めを趣味にしている人も多く、全国的なブームになっている。そんな御朱印集めに必須のアイテムが「御朱印帳」だ。お寺や神社の社務所や授与所に持っていけば、御朱印をもらうことができる。

しかし、そんな御朱印帳によく起こってしまうトラブルが「墨が裏側に染み出てしまう」問題。使用されている紙の質によって、ページを超えて墨が裏側に染み出てしまい、ほかの御朱印を汚してしまうこともあるのだとか。そんな問題を解決すべく誕生したのが早和製本株式会社(以下、早和製本)が開発した、「墨が裏面に染み出ない御朱印帳」、そして「御朱印帳蛇腹和紙ライト」だ。

今回は、早和製本 取締役社長の津岡正男さんに、「墨が裏面に染み出ない御朱印帳」と「御朱印帳蛇腹和紙ライト」の誕生秘話、そして御朱印帳ブランド「SOWA LABO」を立ち上げたきっかけなどについて話を聞いた。

今回お話を聞いた早和製本取締役社長の津岡正男さん【提供=早和製本】


専用の機械をイチから作り…苦労を重ねた御朱印帳製作

早和製本は、もともとは請求書や領収書を複写印字する「ノーカーボン」の事業が売り上げの85%を占める会社だった。しかし、近年の通信技術の向上や、コロナ禍での電子文書の普及などによって世界的なペーパーレス化が進み、ここ10年で売り上げが半分以下になるという事態に。新しい事業を始めないと会社を維持できなくなってしまう状況に直面した際、津岡さんはある事業に挑戦してみようと考えた。

「ときどき、地方の方から『御朱印帳、作れませんか?』という問い合わせがあったことを思い出しました。京都はお寺や神社の大本山(本部)が多いので、御朱印帳の業界が集約されています。そのため、京都の会社なら作れるだろうと思って電話してこられたのだと思います。御朱印帳は基本的に手作業で作るために1冊の製作に手間がかかり、需要に対して供給が足りていないということが恒常的でした。そのような状況を見て『ひょっとして商売になるのでは?』と思ったことがきっかけです」

「墨が裏面に染み出ない御朱印帳」【提供=早和製本】


また、SNSで御朱印帳のトラブルについて検索をかけてみると、「墨が裏面に染み出てしまった」という声がたくさんあったのを見つけたという。そこで津岡さんは「困っていることを解決する商品なら挑戦できるのではないか」と思い、裏面に染みない御朱印帳の製作に着手することとなった。

早速、御朱印帳作りを始めた早和製本。しかし現状の機械では素材の和紙をうまく扱うことができなかったため、専用の機械を作ることになった。だが、和紙を蛇腹にする仕組みが想像したよりも難しく、部品メーカーやセンサーメーカー、刃物メーカー等に相談するも「前例がないので作れない」と言われ、「仕方なく、失敗よりも挑戦を選ぶ結果になった」という。複合する和紙と撥水材料、多層化、組み合わせテストを繰り返し、失敗の日々が続いた。

「和紙って天然物なので、水分を吸うと伸びたり縮んだりするんです。作り方も工業品というよりはアナログで、厚薄の差がけっこうある紙を機械でおり曲げるとシワが入ったり蛇行したり、いろいろな問題が起こってしまいました」

SOWALABOの蛇腹和紙は機械製造によって作られている【提供=早和製本】


そこで津岡さんたち開発陣は既存の印刷加工機を利用した開発を諦めて、完全オリジナルの機械をゼロから設計し直すことに。その後、さまざまな試行錯誤を経て御朱印帳に使用する蛇腹和紙専門の機械を開発することに成功。早和製本は「墨が裏面に染み出ない御朱印帳」や「御朱印帳蛇腹和紙ライト」をはじめとしたオリジナル御朱印帳ブランド「SOWA LABO」を立ち上げ、アイデア満載の御朱印帳を企画から製作、販売まで一手に渡って取り組むこととなった。

「和紙を蛇腹加工にするのが絶望的に大変でした」と津岡さん【提供=早和製本】


納期の早さと紙質のよさで仕事殺到!

たくさんの苦労を乗り越えて製作に成功した「墨が裏面に染み出ない御朱印帳」と「御朱印帳蛇腹和紙ライト」。その商品開発の背景が日刊工業新聞社の記者の目に留まり、同社が主催する「2019年度 超モノづくり部品大賞」に応募することに。当初、津岡さんは「受賞することはないだろう」と思っていたが、予想に反して「超モノづくり部品大賞 生活関連部品賞」を受賞した。

2019年度 超モノづくり部品大賞で受賞する津岡さん(右から3人目)【提供=早和製本】


この賞の受賞をきっかけに、旅行会社をはじめとしたさまざまな会社が、早和製本に御朱印帳の製作を依頼するようになったという。これまで供給不足で納期が不安定だった御朱印帳を期日までに確実に納品できるようになり、業界に革命を起こすこととなった。特に、神社やお寺はお祭りや法要の日程が決まっているため、そこに向けて製作・販売することができるようになったのは、早和製本が手作業工程の機械化に成功したからこそだ。

そして、実際の書き心地についてもさまざまな神社やお寺の人々に「墨の伸びがいい!」「裏に染みない!」と大評判。今では全国でふるさと納税返礼品にも多く採用されるなど、蛇腹和紙が部品としてワンクリックで翌日調達できるので全国の御朱印帳メーカーから注文が多くなり、スタンプラリーや、聖地巡礼、パノラマスケッチブックとして活用の幅が広がっている。

「実際の書き味については、御朱印帳向けに抄造された専用紙をそのまま採用しています。裏に染みない紙を選ぶべくさまざまな和紙を調査し、最終的に四国愛媛の伊予和紙に行きつきました。和紙のなかでも墨の艶は出るが吸水が悪い紙もあり、書いたあとに乾燥が必要なこともありますが、私たちが使用しているものは吸水力が高く、かつ裏に染み出さないのが特徴です」

日本を代表する書家/アーティストである紫舟さんの「夢」の文字が3D刺繍で再現された御朱印帳【提供=早和製本】


また、その書き味のよさが神社やお寺から評判だったこともあり、「書置き御朱印シール」という和紙の裏に糊付加工をした製品も製造販売することに。これは書置き御朱印を参拝者が御朱印帳に貼り付けやすくする提案製品。参拝者はそのまま御朱印帳に貼れるという代物。神社やお寺はこの商品にあらかじめ御朱印を押しておき、日付だけを当日追加するだけで済む。この商品のおかげで書く手間が省け、参拝客を待たせることなく御朱印の授与ができるようになった。

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