コーヒーで旅する日本/関西編|毎日がマルシェ気分の開放感。「The Sowers」が育む、コーヒーを介したにぎわいの芽

東京ウォーカー(全国版)

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全国的に盛り上がりを見せるコーヒーシーン。飲食店という枠を超え、さまざまなライフスタイルやカルチャーと溶け合っている。なかでも、エリアごとに独自の喫茶文化が根付く関西は、個性的なロースターやバリスタが新たなコーヒーカルチャーを生み出している。そんな関西で注目のショップを紹介する当連載。店主や店長たちが気になる店へと数珠つなぎで回を重ねていく。

市場の跡地の倉庫をリノベート。気軽に立ち寄れる開放感が魅力


関西編の第76回は、神戸市北区の「The Sowers」(ソワーズ)。神戸市街から六甲山を越えて車で30分ほど、緑豊かな郊外にオープンした店は、元市場の倉庫をリノベートした、素通しの空間。遠く山々が連なるロケーションも相まって、大らかな開放感が心地よい。店主の安田新汰さんが吟味した個性際立つコーヒーと、奥様の沙梨さんお手製の無添加のお菓子、産直の有機栽培野菜や果物も販売する店内は、マルシェさながらだ。開店以来、「生産者に貢献できるロースターに」と、スペシャルティコーヒーを通して、持続可能なサイクルを生み出す食の楽しみも発信。産地とお客さんの関係を近づける場を目指している。

店主の安田新汰さん、沙梨さん夫妻


Profile|安田新汰(やすだあらた) ・沙梨(さり)
1990年(平成2年)、兵庫県川西市生まれ。調理師専門学校を卒業後、アメリカを訪れ、移動販売のカフェに出合ったのを機に、コーヒーショップの開業を志す。独学でコーヒーの勉強を重ね、イベント出店をしながら、神戸・元町のスタンド・COFFEE LABO frank…でバリスタとして修業。その後、鹿児島で農業研修に参加し、農産物とコーヒーの流通課題の共通点を知ったことでロースターを志向し、元町のThe ANCHOR Coffee & Wine Standで焙煎士を務め、Qグレーダー資格も取得。結婚後、コロナ禍の影響もあり、沙梨さんは仕事を辞して、鳥取の天然酵母パンの名店や兵庫県内のグロサリーやカフェでパン・製菓の技術を学び、2022年、神戸市北区に「The Sowers」をオープン。2023年、新汰さんはジャパンカップタイスターズチャンピオンシップで4位入賞。

開放的な店のルーツは、アメリカで出合ったキッチンカー

山の稜線を背にしたロケーションは開放感たっぷり。ドライブ途中に立ち寄るお客も多い

神戸の中心部から六甲山を越えて、住宅街を抜けた先。緑豊かな里山をバックにした店の佇まいは、市街から車で30分とは思えない開放感に満ちている。「間口の広さ、開放感が気に入って」という店主の安田さん夫妻が、「The Sowers」を開いたのは、以前、「神戸北町青空市場」があった敷地の一角。小さなマルシェのような、オープンエアののどかな雰囲気は、このロケーションならではだ。

調理師の専門学校で学んだ新汰さんが、コーヒーの仕事に惹かれたのは、アメリカでのこと。「以前、現地に住んでいた姉を訪ねてアメリカに行った際に、キッチンカーのような移動販売のコーヒーショップを見かけて、“これで生活できたら楽しいだろうな”と思って。滞在中毎日、コーヒーを買いに通った経験が、店作りの原点」と振り返る。早速、帰国後に独学でコーヒーの勉強を始め、個人でコーヒーショップのイベント出店もスタートした。

ブレンドは中~深煎り、シングルオリジンは浅煎りを中心に焙煎


とはいえ、「自分の取り組みが正しいのかどうかわからなかったので、実際の現場を経験したほうがいいと思って。特にエスプレッソを学びたかったんですが、自分では業務用マシンは持てないので、マシンに触れる場が欲しかった」と新汰さん。そこで、栄町のコーヒースタンド・Coffee LABO frank…が主催するセミナーに応募し、そのままスタッフとして勤務。ここで、マシンの扱いや抽出技術などバリスタとしての基礎を学びながら、各地の名店にも出かけて、コーヒーシーンのトレンドを感じる機会を増やしていった。

その間も個人の出張喫茶を続けていたが、Coffee LABO frank…でもイベントに出店することが多く、そのなかの1つ、神戸ファーマーズマーケットへの参加を通して、ちょっとした転機が訪れる。「地元の農家の直販売が中心のマルシェなのですが、ここで生産者の方と触れ合える場に魅力を感じたことで、自分でももっと生産の現場を知りたくなって」と、鹿児島県頴娃(えい)町で半年間の農業研修に参加。野菜の有機栽培に携わる中で、何より実感したのは、農産物の流通の課題だった。「研修で感じたのは、いいものを作っても、知ってもらう、買ってもらう場があまりにも少ないということ。それはコーヒーも同じで、流通に課題があると感じました。自分が店を始めるなら、生産者から原料を購入することで貢献したい。そのためには、焙煎の技術を学ぶ必要があると思い直したんです」

定番の深煎り・夜ふかしブレンド、季節ごとのブレンドも好評


生産地に貢献し続けられるロースターを目指して

注文が入ると、お客の目の前で抽出。立ち上る香りも楽しみの1つ

実はこの時、海外のコーヒー農園に行く予定だったが、「そもそも豆を買い付ける力がないと、ただの観光に終わってしまう。コーヒーの世界に携わってみて、生産者に貢献するには、それが大前提になると感じた」と、本格的にロースターへと進路を定めた新汰さんは折よく、当時、元町に開店して間もないスタンド・The ANCHOR Coffee & Wine Standへ転身。店の立ち上げから参加してマシンや器具の選定を行い、当初の構想にはなかった焙煎機を導入した。

「焙煎機の導入を条件に担当させてもらえることになりましたが、初めは思ったより難しかった。今思えば滅茶苦茶な焼き方もして、ネガティブだらけでした」。また、ロースターの勉強会を主催するLANDMADE店主・上野さんに基礎を教わったり、自家焙煎の老舗・樽珈屋に焼いた豆を持ち込んで味を見てもらったり、地元のロースターの先輩に協力を得て経験を重ねていった。

当時から、自分が応援したい生産者の豆を扱おうという想いは強かったという新汰さん。いよいよ産地を訪ねようと思った矢先に、コロナ禍に見舞われる。それでも、「行けないなら、実際に店を始めて、コーヒー豆を継続的に仕入れて売る場を作ろう」と、この間にコーヒーの品質評価に必要な国際認定資格Qグレーダーを取得。沙梨さんとの結婚を経て、神戸市北区に移ったのを機に、「The Sowers」をオープンした。

ドリップコーヒー500円は湯呑型の器で提供。写真はケニア・チョロンギAA


「わざわざ来ていただく場所なので、ちょっと特別なコーヒーも提案したい」と、4種から選べるコーヒーには、時に期間限定で産地の品評会入賞豆や希少な銘柄も登場。たとえば、ケニア・チョロンギAAは、軽快でさわやかな酸味がトマトを思わせるユニークな味わい。オーダーメイドで栽培される、エチオピア・コンガ・イルガチェフェは、とろみがあり甘さの密度が高く、後味に丸い酸味が広がる。若い生産者が手掛けるコロンビア・フィンカ ラスフローレス・ゲイシャは、芳醇なブドウの甘味がインパクト大。あえて早めに煎りあげて、最初のひと口を華やかに、後味は甘くさわやかに仕上げる。

なかでも、新汰さんの思い入れが強いのは、エチオピア・タミル・タデッセ農園。品評会でも入賞したコーヒーは、シナモンに似た鮮やかな芳香に目を見張る。「自分で豆を選べるようになったら、一番に扱いたかったのがタミルさんの豆。現地のCOEも受賞していて、先端のプロセスも先駆けて取り組んでいる方で、同業の知人の紹介で直接お会いしたこともあって、以来、毎年仕入れています。また、同じエチオピアのエレアナさんも、The ANCHOR Coffee & Wine Stand時代から扱っている、思い入れある豆。試行錯誤しつつ、少しずつ幅を広げています」。時季ごとに個性派をそろえながらも、「試飲感覚で飲んでみて、いろんな風味を知ってもらえれば」と、いずれも1杯500円と、破格で楽しめる気軽さがうれしい限りだ。

淡路島・平岡農園のレモンクリームサンドイッチケーキ380円、オーガニックラムレーズン バターサンドクッキー330円。焼菓子のほか自家製酒種酵母の食パンも数量限定で販売


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