創業80年以上!「結婚式場から総合プロデュース企業へ」日本の魅力を伝える八芳園の挑戦
東京ウォーカー(全国版)
福岡・大川の職人の技術を結集した組み立て式茶室
――具体的にどのような取り組みを行っているのでしょうか?
【工藤芽生】2014年に作った「無常庵-MUJYOAN-(以下、無常庵)」という組み立て式の茶室があります。1990年代以降、海外からの宴会のご依頼が増え、例えばわかりやすい日本食や、祭りなど、典型的な日本文化を伝え続けてきました。しかし、海外の方が日本に慣れてくると、もっと新しい文化が見たい、もっといろいろな地域のことを知りたいという欲が湧いてくるんですね。

【工藤芽生】そこで社長をはじめスタッフが、日本全国の地域文化に触れる行脚に出ました。最初に訪れたのが福岡県大川市です。大川市は木工家具の産地として有名でしたが、時代の変化とともに生産量が減少しておりました。家具職人の技術を活かして何か新しいものが作れないかと考え、社長が組み立て式の茶室をオーダーしました。この茶室には、大川の伝統である組子細工やふすま、建具など、大川の職人たちの技術が結集されています。
【工藤芽生】この「無常庵」は、1時間ほどで組み立てることができ、大使館夫人を招いたお茶会を八芳園で開いたり、シンガポールや台湾に持っていったりして、茶道や抹茶、そして職人の技術など、多くのことを伝えられるようになりました。また、制作に関わってくださった職人の方たちは、自分たちもまだ何かできるのではないかと勢いづき、その後、大川市で職人たちが集まるイベント「クラフトマンズデイ」を開催しました。さらに「無常庵」を使った大川市のイベントでは、地域のシェフと八芳園のシェフが交流し、地域の食材や料理を、八芳園流にアレンジして提供をしました。
――そういった協業は一度きりで終わることも多いですが、持続的な関係を築かれているのですね。
【工藤芽生】観光産業を育て、多くの人に継続的にその地域を訪れてもらうためには、その地域に継続的に関わっていく人が育たなければならないと感じています。関わってくださった方々が、その後も継続してその土地で活躍していきたいと思えるような、人材育成にも焦点を当てています。これは時間がかかることで、すぐに結果が出るものではないという気持ちで取り組んでいます。
【工藤芽生】現在は、15の学校や地域と連携協定を結んでいます。連携協定を結ぶ意味は、一度きりの取り組みではなく、継続的に一緒にプロジェクトに取り組むことにあります。そのなかで、さまざまな交流を通じて新たな文化を生み出し、人を育てていくことが、連携協定のメリットの一つだと考えています。

日本の歴史・文化を未来へつなぐために
――日本各地で歴史や文化を守りながら、その魅力を世界へ発信するために大切にしていることは何でしょうか?
【工藤芽生】継続的に伴走できるパートナーになることを非常に大切にしています。地域の方々は、「自分の地元には特別なものがない」とおっしゃることがありますが、その土地に昔からある文化や自然、そこから生まれる食文化など、脈々と受け継がれてきたものはすべて資産です。
【工藤芽生】私たちは、それらの資産を第三者の目線から、あらためて気づかせていただき、よりサステナブルなものにしていくために、発信の仕方を変えたり、さらに発展させたりして、違う角度から光を当てる、ということをしています。
――外国のお客様に対しては、どのように日本の文化を伝えているのでしょうか?
【工藤芽生】例えば、ヴィーガンのお客様への対応では、昔は精進料理のようなものをイメージしたかもしれません。しかし、海外の方との交流が増えるなかで魅せ方にも工夫を凝らすようになり、たどり着いたもののひとつが、宝石のように美しい「ピンチョス」です。ヴィーガンという制約があるとしても、見た目が劣ったり、楽しさが失われたりしないよう、「おもてなしを」を尽くしたダイバーシティ対応の料理とはなにか、という点を大切にしています。

――魅せ方にこだわることは、例えば日本の若い世代に伝統文化を伝えることにもつながりそうです。
【工藤芽生】八芳園では、日本庭園を使ったライトアップイベントなども開催しており、TikTokerやインフルエンサーの方々にも多数お越しいただいています。その方たちの投稿を見て、日本庭園に興味がなかった方でも「ライトアップしているから行ってみよう」と足を運んでくださることもあります。日本の伝統や文化をそのままの形で伝えるだけでなく、さまざまな魅せ方を打ち出すことは非常に重要だと考えています。大切なものを守りながらも、日本各地の伝統文化を新しい形でお見せして、その地域に行きたいと思ってもらえるような、文化交流のハブとなることを目指しています。
神社との協業で、福岡から九州を盛り上げる
――2025年3月、福岡にオープンしたカフェ「VEGETABLE LIFE CAFE by THE KEGO CLUB」について教えてください。
【工藤芽生】2024年、八芳園は福岡・天神に遷座して400年以上の歴史を持つ警固神社様と協業を開始しました。神社での挙式に加えて、社務所ビル内で運営する「THE KEGO CLUB by HAPPO-EN」での披露宴やパーティー、MICE事業などもおまかせいただいております。
【工藤芽生】警固神社様も八芳園と同様に、結婚式だけでなく、神社を通じて地元のコミュニティ活性化やエリアの発展に寄与するという考えをお持ちです。そこで私たちも運営だけでなく、警固神社様がハブとなり、福岡エリア、さらには九州全体を盛り上げる拠点になることを目指しています。
【工藤芽生】その考えのもとオープンしたのが「VEGETABLE LIFE CAFE by THE KEGO CLUB」です。カフェとして売り上げを伸ばすのではなく、「THE KEGO CLUB by HAPPO-EN」で提供するパーティー料理のコンセプトである「KYUSYU CUISINE(九州キュイジーヌ)」を、より身近に日常的に楽しんでいただきたいという思いがあります。「KYUSYU CUISINE」は、福岡県産の⾷材と無農薬野菜を活かした、サステナブルかつ地域密着型のメニューです。九州の素晴らしい食材を使った料理を、宴会や結婚式でしか味わえないのはもったいないという考えから、カフェという形で気軽に楽しんでいただけるようにしました。さらに、フードロスが問題となるなかで、物流に乗らない規格外野菜を使うことで、九州の農家の方たちに貢献させていただきたいという思いがあり、今回のカフェでは積極的に規格外野菜も使用しています。

――オープン後の反響はいかがですか?
【工藤芽生】大変ご好評をいただいております。規格外や無農薬の野菜を積極的に使うことで農家の方たちも大変喜んでくださっていましたし、メディアの試食会で農家の方たちをご紹介することもできました。試食会で野菜を「おいしい」と言ってもらえたり、取材を受けたりすることで、農家の方にも「また頑張ろう」という気持ちになっていただけたらうれしいですね。今後もさまざまな角度から貢献していきたいと考えています。
地域と世界をつなぐハブへ
――今後の展望について教えてください。
【工藤芽生】現在、福岡で株式会社⼋芳園エリアプロデュース警固という地域法人を設立し、福岡に特化したエリアプロデュースを進めています。この展開がさまざまな地域に広がっていけば、これまで以上にエリアに特化した貢献ができるかもしれません。また、地域に企業を持たなくても、現在の連携協定を活かして、さまざまな地域に貢献していくことが目下の目標です。

【工藤芽生】エリアが発展することで、海外の方々が訪れたいと思う場所になり、ひいては地域の観光産業への貢献にもつながるはずです。結婚式事業で培ってきた総合プロデュース力を活かし、今後も国際観光事業に寄与していきたいと考えています。
取材・文=伊藤めぐみ
撮影=三佐和隆士
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