大工職人が50年で70万人減少、“即戦力の職人を30日で育てる”業界の救世主「JMCA」とは?

東京ウォーカー(全国版)

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日本では「職人不足」が深刻で、1980年代に約90万人いた大工職人(以下、職人)が2023年には約30万人、2030年には約20万人にまで減少すると予測されており、私たちが暮らす住まいの建設や修繕に影響が出ると懸念されている。

そんななか、千葉県で創業127年目を迎えた大工の老舗企業・株式会社ハウジング重兵衛は、2024年2月に廃校を活用した「多能工職人育成学校」(以下、JMCA)を開校。通常は、3カ月かかる技術を30日で習得する独自のプログラムで、職人不足の課題解決に日々努めている。

千葉県香取市にある旧香取市立府馬小学校の跡地を活用した新施設「グーシュ府馬」。JMCAは3階に入っている【画像提供=ハウジング重兵衛】


建築業界では珍しい職人の正社員雇用を進める同社だが、なぜ職人は正社員として雇用しにくいのだろうか。また、JMCAを開校したきっかけとは?

今回、JMCA理事長の福地俊之介さんに、職人不足の実態とJMCA開校の経緯、そして今後の展望について話を聞いた。

職人を正社員として雇用しにくい理由

建築業界では、職人を正社員として雇うのは簡単ではない。職人の仕事は、たとえば営業のように大きな利益を生むものではなく、働いた時間に応じた成果が中心となる。そのため、雨で工事がストップしたり、大工職人がケガで現場に出られないと、会社の利益が減ってしまうというのが実情だ。

「このように職人の管理には手間がかかり、外注のほうが費用やリスクを抑えられると考える会社が多いため、正社員として雇うことは一般的ではないのです。そうしたなか、私たちは約10年前から職人の正社員の雇用を強化しています」(福地さん)

以前は新築の家を建てる会社として10人ほどの大工を雇っていたが、リフォーム事業に切り替えた際、一度その雇用契約を終了した。しかし、会社への熱い想いを持つ若手職人が、顧客とのよい関係や高い満足度を生み出したことから、正社員雇用の可能性を見出した。

「この職人を手本に、仕事のスケジュールを工夫してリスクを減らし、育成環境を整えていきました。現在、37人の職人を正社員として雇い、新卒や経験者を積極的に採用しています」(福地さん)

【写真】株式会社ハウジング重兵衛のグループ会社、多能工職人集団・株式会社KENSHIのスタッフ。ちなみに今回、取材に応じてくれた福地さんは、同社の専務取締役でもある【画像提供=ハウジング重兵衛】


経験不足の職人が高額受注?今後、業界が直面する危機

現状、工場で事前に作られた部材や簡単に取り付けられる設備が増え、職人の技術をある程度カバーできている。家の部品が事前に加工されていたり、ワンタッチで取り付けられる設備が普及し、基本的な知識があればミスを減らせるとされている。

「ですが、60〜70代の熟練職人が引退すると、技術と経験を持つ職人が急激に減少し、建築物の品質が低下する恐れがあります。なぜなら、人材不足による需要の高まりで経験の浅い職人が高額な仕事を請け負い、ミスやトラブルが多発する可能性があるからです」(福地さん)

過去には、悪徳リフォーム業者が横行していた影響により「職人=質が悪い」といった誤解が広がったことも。「悪評が広まれば、業界全体の信頼を揺るがしかねません」と福地さん。

「だからこそ、私たちが運営するリフォーム多能工職人養成スクール・JMCAを通じて、技術力だけでなく、仲間やお客さまから信頼され、『愛される職人』を育成することで、業界の印象を刷新したいと考えています」(福地さん)

深刻な職人不足を解決するため開校したJMCAの育成プログラムは一体どんな内容なのか?【画像提供=ハウジング重兵衛】


30日で即戦力の職人を育てる。JMCAの革新的育成プログラム

JMCAは、職人不足を解決し、自社の育成ノウハウを広めるために2024年2月に開校した。ハウジング重兵衛では開校時点で28人の職人を育て、新卒採用者の5年間の定着率が約92%(12人中1人退職)という実績をもとに、技術と信頼を兼ね備えた職人を育成するプログラムを構築した。

「通常3カ月かかる技術を30日で学べるのが特徴で、実際の現場での実習も取り入れています。特に、座学で『愛される職人』の心構えを教えることに注力しています。ただ、前例のないプログラムを作るにあたって、職人の作業を細かく分析し、統一基準を作るなどの課題がありました」

JMCAの育成ノウハウは、株式会社ハウジング重兵衛の自社職人による技術と経験を基盤として構築されている【画像提供=ハウジング重兵衛】


まずトイレ交換を例に、事前準備、顧客対応、道具の使い方を細かく分解。その後、芝浦工業大学の蟹沢教授と協力し、作業を評価項目として整理していった。福地さんは「職人ごとの作業の違いを統一するのは大変でしたが、新卒の視点で基準を設け、皆で取り組みました」と当時を振り返ります。

「初年度はトイレ交換の習得に1年かかりましたが、2年目には9カ月、3年目には6カ月に短縮し、30日間の集中プログラムを完成させました。教育のポイントは、短期間で繰り返し実践すること。一週間に3件のトイレ交換を担当させ、技術を定着させます。また、実際のお客さまの現場に3日間同行し、対応力や現場での問題解決力を養います」

施設内での実習の様子【画像提供=ハウジング重兵衛】


ほかの職人学校では2日でトイレ交換を教えることもあるが、あくまで基本的な操作の理解に留まる。しかし、JMCAでは“現場の即戦力”としてこなせるレベルまで仕上げるのだ。「30日に短縮しても、長いと言われることはありますけどね(笑)」と福地さん。

基礎訓練の様子。カッターの使い方から電動工具やコーキングといったリフォーム工事の基本技術を学び、毎日の記録を通じて自身の成長を目に見えて実感できる内容になっている【画像提供=ハウジング重兵衛】


廃校活用で地域活性化!年間30人の職人育成を目指す

そんなJMCAは、ハウジング重兵衛の創業地である千葉県香取市の旧府馬小学校を活用した複合施設「グーシュ府馬」の3階にある。同市には廃校が7校あり、近年の廃校活用の流れと「教えるなら学校」という発想からこの場所が選ばれた。

「3階建ての校舎では、3階にJMCA、1階にコインランドリー、2階にセミナールームを設置しています。当初は生徒向けに作った施設ですが、地域の方にも意外と人気で驚きました。今後はカフェやフィットネスジムの開設を計画しています」

施設内の訓練室。ほかにも、戸建て住宅やマンションを再現したブースもあるという【画像提供=ハウジング重兵衛】

1階にある「コインランドリー」。2024年12月にオープンした【画像提供=ハウジング重兵衛】


また、2階のセミナールームでは、JMCAのロールモデルを視察に訪れる企業向けにセミナーを実施している。これに福地さんは、「受講企業が10〜20人の職人を抱える規模になったらJMCAのノウハウを共有し、彼らの地域で同様の取り組みを展開できるように支援したいです」と意気込む。

「最近、中古車業界の企業さんがJMCAを視察したりと、人材不足は共通の課題だなと強く感じます。なのでJMCAが成功すれば、新たな雇用形態や業界改革の解決策として広がる可能性があると期待しています。目下、年間30人の生徒育成とJMCAの黒字化を目指し、これを基に事業を拡大して業界全体や関連業界によい影響を与えたいですね」

校庭は地元のサッカークラブが練習で使用するなど、地域における交流の場としても機能している【画像提供=ハウジング重兵衛】

2025年5月に行われた第五期入校式の様子【画像提供=ハウジング重兵衛】


私たちが普段暮らす住まいは、こうした大工職人たちの日々の努力によって成り立っている。JMCAの発展により、建築業界はもちろん、多様な業界が人材不足から解放される未来を期待したい。

取材・文=西脇章太(にげば企画)

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